裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

土曜日

聞くは一時の恥聞かぬは松平健

ものも知らずにサンバなど踊って。

朝8時起床。久しぶりに晴れ。
9時朝食(ポテトとオニオンのスープ、スイカ)とる。母がmixiに日記をアップ出来ないという。見てみたが確かにやたら重く、途中で切れてしまう。ちょっと私の手には負えず。マドにメールしておく。

自室でいろいろたまった仕事。
植草教授擁護サイトのコメント欄炎上、いまだ続く。
mixiの日記をニュース欄で追いかけたら、植草氏をつかまえたサラリーマンの同僚、という女性のものがあった(http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=354508&id=220199157)“公安の回し者”という根拠はこれでも崩れる。

擁護派の人たちで“裏切られた”という意見がほとんどないことが印象的。前回の手鏡事件で“目撃者がいない”ことを冤罪の条件にしていた人々が、ちゃんと今回は目撃者、民間の逮捕者がいるのにもかかわらず冤罪を主張するのは道理になかったいないのだが、しかし彼ら彼女らはあくまで謀略説に固執し続ける。何故とならば、彼らは植草教授個人を持ち上げているのではなく、彼がこれまで唱えていた陰謀論的経済論、つまり“バブルの崩壊はアメリカの陰謀”とか、“竹下経済改革は外資の手先”とかいう、今の日本に蔓延しているアメリカ嫌い、アメリカ追従の小泉嫌い(結局アメリカの傘の下でしか生きられないコンプレックスの裏返し)意識にオスミツキを与える存在として植草氏の言説を利用していた人たちだからではないか。個人の否定が論の否定につながるのが怖いのである。

あたかも昨日、麻原彰晃の死刑が確定したが、カルトというものはいくらその教義の誤りを指摘したところで崩壊しない。信者は決して目覚めない。むしろ、その誤りに目をつぶることで、より一層世間との乖離を強め、カルト化していく。一度自分たちのアイデンティティを教祖または教義に預けてしまうと、それを失うということは自分の否定につながるわけで、論理も常識も無視して必死でその教えにすがりつく。植草氏の今回の逮捕で、かえってこういう人たちはより一層陰謀論に固執しはじめるだろう。それを思うと、一部ネットで言われているごとく、
「植草一秀、神」
はまさに本質をついていると思わざるを得ない。

日記書き上げ、弁当(牛肉とピーマン炒め)掻き込んで事務所までタクシー。車中で本日の『ポケット!』のブログ挨拶文をモバイルで書く。マンションについたとき、あと三行、という状態。ロビーで書き上げて送信。仕事場に行き、昨日忘れたモウラ原稿の図版資料をコピーして、一部を編集部にFAX、もう一部は郵便受けに入れてK子に受け渡し。

そこから歩いて原宿クロコダイル。今日は陽射しも強く、ちょっと汗をかく。半田健人さんの事務所からお誘いが来た『半田健人が歌う“昭和見聞録”』ライブ。30分前に着いて待っていると、スタッフが私の姿を見かけて、どうぞ中へ、と案内してくれた。受付で入場料支払う。行きますという連絡を前々日くらいにしらのだが、すでに招待ワクがいっぱいになってしまっていたとか。仕事の関係でこういうライブはギリギリまで行けるかどうか、わからないのである。

本日はオールスタンディングということだったが、特別にマスコミ席を空けてくれる。隅の席で雑誌のインタビューを受けていた半田健人さんと挨拶。
「今日はコアな曲ばかりなんで期待してください」
と不敵に笑うところがなんとも。

やがて客入れが開始され、会場ぎっしりの盛況。客層が二十代後半〜三十代の主婦(子連れもあり)中心なので、ジャリタレのような騒がしいことはなし。オノは開場まぎわに来て入れず、結局列に並んで入った。

やがて70年代そのままの飾り襟つきシャツの舞台衣装で半田健人登場。キーボード、アコギター、ドラム、ベースにペット、サックス、トロンボーンのホーン系を(昭和歌謡らしく)揃えたフルバンドをバックに、殿さまキングス『涙の操』、前川清の『そして神戸』などのメドレーを歌う。
「今日は千家和也先生特集です」
なのだそうだ(このあいだは都倉俊一特集だったそうな)。

「いつもしゃべりすぎちゃうんで今日はサクサク」
ということで(第一回は歌った曲全てに熱のこもった解説を加え、時間がキツキツになってしまったそうである)どんどん歌う。小山ルミ(!)の『さすらいのギター』、三善英史の『雨』、さらには平浩二の『バスストップ』、野口五郎の『美しすぎて』、雪村いずみの『私は泣かない』などを次々と。途中に千家節の解説などを加えつつ、熱唱。

全曲かなりのアレンジをしていて(『雨』をウェスタン調で演奏するなど)、バンドの力量はさすが。その割には歌いかたは全部オリジナルそのままだな、とか思わないでもなかったが、しかし『美しすぎて』など、もともと顔が若い頃の野口五郎を彷彿とさせる顔立ちなので、似合いすぎ。坂本スミ子『幼い子供のように』をアンコールで(仕込みだろうけど)歌って、1時間でラスト。あれ、と思う。いやに短いライブだなあ。
「大人の事情で」
と言っていたが。まあ、スタンディングライブで二時間とかはお客もキツかろう。年齢層の高い客だし(実際気分を悪くして座り込んでいる女性がいた)。最後にファンから“投げキッス〜!”と声がかかって、キッスで退場。こういうレトロな演出も決まっている。

オノと二人でスタッフに挨拶して出て、感想いろいろ、半田健人と仕事するなら、という話しながら、銀座線で浅草まで。今日の後半戦は浅草で『トンデモ落語会』。時間がかなりあるので浅草でちょい飲みを、と、木馬亭前の飲み屋に入る。

生ビールとスジ煮込みなどでまず喉をうるおし、コップ酒に串カツ、小アジ南蛮漬け。コップ酒(男山)うまく、さらにもう一杯追加。外はまだ明るく、浅草らしい和装の人通りもあり、木馬館の大道具の兄ンちゃんがタンクトップ姿でたくましい肩から腕の筋肉の動きを見せてナグリを使ってセットを作っている。そんな様子を眺めながら、次第にボーッと酔って行く快感。贅沢な土曜の午後、である。

オノが“ご飯物をサカナにしたいですね”というのでヤキメシをとる。“ヤキメシとチャーハンはどう違うんですかね”というから、
「チャーハンは肉を使い、ヤキメシはナルトなんかを刻んで具にする。高校の学食のヤキメシはそうだった」
と話していると、出来て運ばれたヤキメシが、まさにナルトを刻んだのが入ったものだった。
「すごい予知ですね」
「ノストラダムスなみだ」
とか。

さんざ飲んで食って、“なんだか、さっぱりみんな来ないね”“6時半開演だから準備くらいしてそうなもんですけどね”とか言っているうち、オノがスケジュールを確認して
「あ、センセイ、違いました、木馬亭でなくて東洋館でした」
と。あわてて出て、六区まで歩くうちに開田夫妻に会って一緒に入る。東洋館は久しぶり。快楽亭がこことケンカして以来か。あれは手打ちが出来たのか。

受付にフワリさんとユキさんがいる。
「お、4人掛けだね」
と酔っ払いの軽口。しかし、つきあいのある噺家さんのかみさん二人が共に同時期に妊娠、出産ってのも凄い確率。チャイナの胎盤スープをお祝いに約束しておく。ほぼ満席の盛況だったが、睦月影郎さん、安達OBさんといった旧官能倶楽部系、kazさん、ぎじんさんなど
談笑系、IPPANさんや藤倉珊さん、ひえださんなどと学会関係、QPさん、啓乕くんなど裏モノの頃からの人、jyamaさん、rikiさんなど私つながりと、やはりトンデモの客層は厚い。それに加えて、中野や日本橋でやるときとあきらかに違う年配の客層もここでは入る。島敏光さんがいたので挨拶。今度なんと小野仁美をプロデュースするとか。

酒がかなり回っていて、最初は楽屋で寝せてもらおうかと思ったくらい。冒頭のキウイと小らくは寝る暇もなく最初の談笑のはまだよかったが、次の白鳥のは椅子で何度かオチてしまった。脇に座ったオノがそのたびに起してくれたが、
「爆睡していたかと思ったらすぐ爆笑という反応が凄い」
と言われた。なんとか次のブラックで復調。

なにしろ時期が時期だけに全員“あのネタ”をマクラに振る。日本人はしかし、皇室が好きだね。こういうときはとにかく先に上がったもの勝ち、なので後半の鯉朝、談之助はやりにくそうだったが、そこはこういうネタなら追走を許さぬ談之助、今日は『安倍晋三物語』、短くまとめていたがそれこそカルト宗教の信者みたいな迫力でぐいぐいと進行、会場全体を爆笑に包んで本日最高の出来。

終って『魚民』で打上げ。場所はすぐ近くだが、階下に降りていったところにある大広間。50人くらいの大所帯による大打上げになる。隅のテーブル、開田夫妻、睦月さん、ぎじんさん、小野、アスペクトK田くん、jyamaさん、rikiさんなどと一緒。睦月さんとお互いの忙しさの話。
「数年前の今ごろはみんなで小涌園かなんかに旅行に行ってたよねえ。信じられん」
と睦月さん。まあ、お互い仕事量が上向きであることは結構。K田さんが持ってきた『超落語』の見本に談笑さんとサインをする。

夕方たんと飲んだのであまり飲まず食べず。もっとも酒はワインを頼んだぎじんさんが“薬の味がする”とか言っていたような代物であり、料理は大皿に盛られて出てきたのがたこ焼きとエビせんべいの揚げたの、というような代物であった。

テーブル移りつつ、みなさんと挨拶。QPさんに『ポケット!』の“おとなの時間割”ワク移行の話をする。私の海保さんいじりは
「伊丹十三というより金子信雄(東ちずるをセクハラする)みたいです」
と。エロになっちゃったからな。

もう一度フワリさんとユキさんのテーブルに行き、いろいろと話す。白鳥さんが来て、
「(安産の御利益なら)水天宮がいいよ、水天宮!」
とかいう。白鳥の世代でこういうことがスッと出るのはやはり新作派おはいえ噺家なんだなあ、とつくづく思う。フワリさんが
「でも、ユキさんクリスチャンだし」
と言うので、
「なに、神社ってのはそこらへん、他の宗教よりはるかに寛大なんです。仏教だって認めちゃったんだから。なにしろ八百万も神がいるんですから、キリストもアラーもその中の一柱。おかまいなし!」
と教えておく。
談之助さんと例により昔の芸人ばなし。私と談之助さんのファンだという人が長々と話しかけてきて、写真を撮らせてくれとか握手してくれとか言ってくる。人気商売、するのは全くかまわないが、
「コミケでも唐沢センセイのブース行ったんですが、難しそうな本だったんで買いませんでした」
とか言うのには腹がたつ。買いなさいよ。

jyamaさんがまた飲みすぎで目がトロンとしてくる。これくらい“酔っている”ことが外見でわかりやすい人も珍しい。みんな、ここの酒とつまみのひどさに驚嘆していたが、よくこんなまずい酒で酔っぱらえるものだと感心する。靴箱の札がなかなか出てこない、財布をカバンから落っことしそうになる、電信柱にぶつかりそうになる、と見事な酔っ払いぶりで面白い。rikiさんがいつも通り、世話を焼いてくれるので助かる。しかし、彼女と最初に会ったときは、そのキレ者ぶりというか、さすが危機管理のエキスパートというさっそうたる姿に惚れたものだったのだが、最近は飲み会のたびに本人に危機管理が必要になりそうですなあ。あやさんが地下鉄ホームでピシッと説教。乗り換え駅からはrikiさんが送っていってくれる、毎度申し訳なし。

すでに店を出たとき12時、銀座線はすでに終了していたので大江戸線から丸ノ内線に乗り換え、丸の内線が中野坂上止まりだったので開田夫妻とそこからタクシー。夫妻の入ったてんぷら屋のおばちゃんがいかに意地悪であったかという話を聞く。帰宅、飲み直そうかと思ったがやめてそのまま就寝。寝床読書青木正児『華国風味』の老酒の話が面白い。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa