裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

火曜日

酢豚の母

「こうして上下の唇しっかり閉じりゃ、くわねえ昔のあの酢豚の味が浮かんでくるんだ」(番場の忠太郎・談)。朝7時半起床。朝食を8時にしてからよく寝る。以前のように4時の5時のといった年寄りじみた早朝に目を覚ますことはなくなった。その かわり、ちと寝過ぎではないかと思うくらいよく眠れる。

 入浴、朝食。リンゴ三切れ、ポンカン一個。青汁、カップスープ各一杯。ミク日記つけてから出勤、10時半。11時仕事場入り。例のNHK番組圧力疑惑にからんで右翼の街宣車(連ねて来ているのでなく、個人単位らしい)が正門前でがなりたてて おりうるさい。

 ここ数日下がり気味であったテンションをあげるべく、がんばる。某TV局のK氏と電話連絡、と学会M氏との顔合わせの会合の時間など打ち合わせ。M氏がかなり乗り気でいてくれるので嬉しい。講談社FRIDAYからゲラチェック。削りに削って文字数調整した原稿をさらに一行削る(個人名に肩書きを入れたいという編集部の意 向のため)。なんとか二カ所で単語を短いものに変え、調整。

 昼はオニギリ(シャケ茶漬けの素)、黒豆納豆、アサリ汁。さて、雑用すませて、いよいよSFマガジンにかかる。〆切を三度、延ばした。S編集長から電話で、
「校了まであと3時間です」
 と。S氏の口調がクールであるためさほどの切迫感はないがしかしさすがに身が引き締まる。近しい友人の評論家で、こういう電話に
「何言ってる、それは編集作業の校了であって、あと印刷というものがあるだろう。そっちの方が本当の〆切だ」
 と平然としている豪傑がいるが、私はそこまでは出来ず。がりがりと書き出して、11枚を2時間で。本当はもっと早く出来たかもしれないが、途中でこないだ日記に書いた関西の某氏から電話があり、それ受けながら受話器を左手に、右手だけでキーボード打ったので、ちとスピードが落ちて2時間かかった。知り合いからの電話なの だから
「後でかけなおす」
 と言えばよかりそうなもので、実際そうするつもりだったのだが、その電話の内容というのが、こないだ話した企画が急にふくらんで、プロデューサーが一オシしてきた作品が、以前から私が大リスペクトしてきた(某氏にその存在を教えたのも私である)作品であるというものだった。ちょっと興奮し、また電話の向こうの話主も興奮気味なので切れなかった。それとアレとを結びつけて、それからコレを、てな話になる。いやあ、センミツの世界だけにまだ公に出来ない(それでもこれだけ書けるくらいには具体化してきた)のがじれったいくらい。世の中は面白いなあ、という気にな る。

 とにもかくにもSFマガジンアゲ、図版ブツをバイク便で出し、ホッと一息、つく間もなく、青山へ。エイバックO氏と打ち合わせ。青山のK’S BARなる店で、某テレビ局のエライさんT氏と顔合わせ。T氏、私より4つ上だが、顔が童顔、とい うより少年顔で、私よりずっと若々しい。

 まだ具体化もなにもしていないことについてのサポートをお願いするわけで、話が盛り上がるわけもなし。無難な雑談で終わる。なんかモヤモヤ。しかもこのバー、店の雰囲気は青山らしくおしゃれで、酒もいろいろ揃えているが、食べ物がコンビニで買ってきたのをただレンジで温めただけ、というソース焼きそばとピザ。O氏とT氏の話題というのもゴルフとマージャンの話に終始して、どちらもやらぬ私は少々時間をもてあます。いや、この二つが人脈作りに欠かせない要素ということは理解してい るんだが。

 ひとつ、これは私の縄張りうちと思った話題が、例の杉田かおるの結婚問題。超玉の輿と呼ばれるその旦那さん・鮎川純太氏はなんとO氏の友人だったという事実が判明。10年前、淳太氏が会社をやりたいと話をO氏に持ちかけ、その設立に力を貸してやったことがあったそうだ。その会社というのがFAX機器のリース会社。純太は(と、O氏は呼ぶが)、あの当時まだ、FAX機器の値段が高かったのに目をつけ、小さな事務所用に安くFAXをリースすれば絶対儲かると、O氏に手続きをまかせ、東京の一等地に事務所をかまえてリース業をやりはじめたが、最初の1000台くらいまでは順調に注文がとれたが、そこから急にガクッと収益が落ち始めた。しばらくは何故急落したのか純太氏にはわからなかったようだが、原因は単純で、そのあたりでFAXメーカーが、家庭でも使える安いFAXをどんどん販売し始めたためであった。結局、かなりの損を出して純太氏は会社をたたむことになったという。しかし、世間は狭い。その他、結婚の裏側にあるらしいさまざまな事情を聞くが、ちょっとヤ バくて表では書けないのが残念。

 話は実体のないまま終わるが、それでもT氏、サポートは約束してくれた。10時別れてタクシーで帰宅、中途半端な腹を納豆飯で満たす。水割り缶飲みながら、明日の原稿のネタにする『フラッシュ・ゴードン 宇宙征服』のDVDを見る。やっぱり 私にはこういう世界が心地好い。

 この連続活劇映画、エピソードバラバラには上映会などで見ていたが、最初から通して見たのははじめて。1940年作品だけに、特撮も演出も稚拙なものだが、凝ったセットといい衣装といい、こういうバカバカしさを楽しむ感覚にあふれているのはさすがアメリカ。一話ごとにSFチックなアイデア(知能の高い者だけを殺す死の灰だとか、爆弾ロボット人間だとか、処刑光線だとか)を盛り込んで、必ず最後に次回につなげる“ヒキ”を作っている脚本も娯楽ものの本質をよくわかっている。

 もちろん、それだからと言って21世紀の今日、これを見てハラハラドキドキするとか、手を打って面白がるとかいうわけにはいかない。一歩引いて、アメリカ文化に根を深く下ろした娯楽文化の源流を見るというか、あ、そうか、このエッセンスがあそこにつながっているわけだ、と発見する楽しみが、今のこの映画の価値だろう。

 手前から向こうに文字が流れて“前回のあらすじ”を説明するという手法をジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』でいただいたのは極めて有名な話。文体までそのままそっくりなのが笑える。今回初めて発見したのは、処刑光線が、縛られている人間に、床をつたって徐々に迫ってくるという演出。あ、これは『007/ゴールドフィンガー』でボンドがゴールドフィンガーのレーザー光線で処刑されかかるシーン と同じじゃないか。

 あのボンドばなしを“大冒険活劇の世界の復活”と言っていた淀川長治さんは、たぶんこの作品も目にしている。単にその映画の精神をさして言ったのではなく、具体 例が記憶でつながって、こういうコトバが出たのだろう。まさに
「映画とは記憶力の産物」
 いろいろ勉強になることである。水割り缶飲んで12時、就寝。

※今日まで気が付かなかったが、メールで読者から教示があった。今年に入ってからずっと日付と曜日がひとつ、ズレていた。去年暮れから、ミクシィでこの日記のメモをつけているのだが、ミクシィには自動的に更新する日付欄はあるが、曜日欄がないので、ズレに気がつかなかったのである。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa