裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

金曜日

伊豆のロドリゴ

 ワタシ、ぽるとがるカラ来マシタ、ろどりごデース。カワバタコーセーノ文学、研究シテマース。またまたヘビーな夢しかも二本立て(巨大ビルが崩壊するかという危険に立ち会うやつと、自分の子供が実は悪魔だった、というやつ。ことに後者は赤ん坊の肌の感触や匂いまで感じられた)を見て目が覚め、もう起きる時間かと時計をみたらまだ3時であった。さて目が冴えてしまい、筑摩書房世界文学大系『荒涼館』などを読んで、5時半にまた寝入る。結局、7時30分起床。起きがけにクシャミ七連発。花粉症の季節だなあ、と憂鬱。もっとも、例年より症状は軽い。台所でもクシャンクシャン。朝食はオニオンスープに卵浮かべて。少し失敗。

 今さらディケンズの『荒涼館』などを読み始めたのは、昨日筑摩書房のMくんと話したとき、この文学大系の話題が出たので、就寝前に書棚から引っこ抜いてきたのだが、昭和44年の訳文(青木雄造、小池滋)は微妙に古く微妙に新しく、中途半端な感じを受ける。冒頭部分で、弁護士が裁判官に“カカ(閣下)”と呼びかける場面があり、この二人のやりとりの間じゅう、この“カカ”がくりかえされる。なんで閣下がカカになるのか、注釈の説明がないから読者はめんくらう。古い英語における貴族への敬称“my lord”が訛って“milord(ミロード)”になり、それが法廷ではまた何故か訛って“milad(ミラッド)”となる慣習を、無理に翻訳して日本語にあてはめているんだろう。今の訳なら閣下にミラッドとルビをふるだろうが、この当時はこういう風に日本語として変梃でも訳して読ませるのが一般だったのである。

 昼12時にどどいつ文庫伊藤氏。例により飄々然たり。風邪引いて周囲のみんなはノドをやられているが自分は肛門をやられて痔にナリマシタ、と人を食ったような表情で言うのが非常に面白い。コーラを出したら飲んでやたらげっぷをする。聞いたら小学3年生の頃初めてコーラを飲まされて一気飲みしてげっぷの連続で死にそうになり、それ以来、今日までコーラというものを口にしたことがなかったという。それで二十数年ぶりに出されたコーラをまた一気飲みするところが伊藤流である。

 昼は彼から買った人種差別アニメのビデオを見ながら冷凍のカレーを温めて。肉が少し酸っぱくなっていた。食後、体調が極端に落ちるのはこのごろの常。仕事続けていたがもたなくなり、少し横になる。呼吸が不規則なのが自分でもわかる。30分ほどでだいぶ回復した。ネットで資料探すが、通信障害か、自分のホームページに接続できなくなっている。メールなどは出せるし、他のサイトはのぞけるので不便はないのだが、このトラブルが気になって、どうしても仕事がすすまなくなる。

 3時、時間割で村崎百郎と対談。村崎さんこの対談にすさまじく熱を入れており、細かなメモを用意している。私はこういうのは最終の原稿で手を入れればいいと思っているので、無手勝流である。字になるかどうかわからないが、小泉がダメとなると次の総裁候補に石原慎太郎が注目されており、アメリカなどもそれを期待しているという話が出る。リーダーシップをとれるキャラクターとなると、どうしてもこういう人物がクローズアップされるのである。まだ小泉の方がマシなんじゃないのかね。

 そう言えばネットニュースで、坂本龍一離婚との報。『不戦』とか言う一方で女房と戦っていたわけですか。芸術家がその芸術に没頭するあまり社会常識から逸脱することを私は理解するし、社会常識どころか人倫すら超越した狂気すら必要である場合もあろうと思う。しかし、それならば政治だの軍事だのにさかしらに口を出す真似はやめて、自らの芸術の世界に閉じ籠るのが本義ではないのか。紅旗征戎わが事にあらずという潔さがない、自分の非常識はタナにあげてヒトサマにとやこう言う、その根性がどうも気にくわない。

 打ち合わせ終えて、アスペクトK田くんに『裏蔵』図版用ブツ数点渡し、ゲラをもらって帰る。幻冬舎から『笑うクスリ指』見本刷り届いている。こないだ井上デザインで頼んでおいた大掛かりなナオシはちゃんと生きていて安心。ところがあれだけ何度も注意したのに、あとがきの親父の没年(正確には倒れた年)をマチガエていた。 なんで気がつかなかったのか?

 8時、センター街沖縄料理『沖縄』。最近、どの料理も非常に塩ッ辛くなったように思う。K子と雑談。坂本龍一離婚の話から矢野顕子の話になり、新聞にいまだ代表作『春咲小紅』と書かれていたのが情けない、というと、K子が私は『ゆけ柳田』が好きだ、と古い話を持ち出す。オリオンビール小2缶に泡盛の古酒。店員に、女主人の親戚らしい(会話から推測)、黒田勇樹を穏当にしたような顔のかわいらしい男の子がいた。その美少年ぶりに最初は驚いたが、すぐ見なれて平凡な顔に見えてくる。今どきはこのくらいの子は別に珍しくもないのかもしれない。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa