裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

土曜日

コノハナクサヤヒメ

 なれるとおいしい。朝8時起床。夢の中に一行知識が出てくる。
「三重県農協が出荷しているマイタケの商品名は『魔女の宅急便』。三重県内のスーパーで売っている野菜いためセットには、内容表示のところに“モヤシ・キャベツ・ピーマン・魔女”と書いてある」
 というもの。目が覚めてもハッキリと覚えており、ひょっとしてどこかでそういう情報を聞いたのが無意識に出てきたのか? と、検索して確かめてしまったくらい。
朝食、果物も牛乳も切れている。K子にはジャガイモ炒め、私はホットドッグ。

『赤本・黒本・青本』読みつぎ。赤本(子供向け絵本)の『枯木花咲せ親父(かれきにはなさかせおやぢ)』が面白い。偶然で今平行して読んでいる『詞苑間歩』の下にもこの赤本のことが出ているが、ラスト、慳貪(欲深)爺さんが大名の前で灰をまいて失敗するところの描写が凄い。
大名「憎い奴め。花は咲かせいで眼へ灰を入れ居つた」
家来「赤い着物着たやうにしてかへしませう。どろぼうめが」
家来「己(おのれ)、大騙め、何故旦那の眼へ灰を入れ居つた。其奴絞殺め(しめ)ませう」
貪爺「御許されませう」
地文「慳貪爺々は打ち(ぶち)殺さるる」
 などとある。“赤い着物着たようにしてかへしませう”“其奴、しめませう”などはまるで仁義なき戦いの世界のセリフである。しかもこの慳貪爺の絵がすさまじい。地面を掘るときに肌脱ぎになるのだが、たるんだ皮膚がひだのようになって垂れ下がり、そのひだが着物のそれのように、帯のところでギュッと寄せられている。

 原稿、フィギュア王。小ネタ集なので楽勝と思っていたらソース確認などに案外と時間がかかり、3時過ぎになってしまう。昼飯も食わずに書いていた。古書市に行きたかったのだが、今日は見送り。代わりに青山まで散歩がてら出て、雑貨屋、古書店などいくつか回る。“コロナビールを5秒で飲み干せる器具”などというアホものを980円で買う。古書店の句集の棚に『人間椅子』というのがあったので、乱歩調のグロ句集か、と思い手にとってよく見たら『人間虚子』という評伝だった。

 青山の立ち食いソバ屋で冷やしたぬきを食い、食料品を買い入れて帰宅する。メールいくつか。講談社の『怪網倶楽部』、2巻目ということで部数がちとショッパイことになりそうである。せっせと宣伝に回らねばなるまい。SFマガジンに載せた『尾上頭歩六の滅形』の続編のアイデアが浮かぶ。TVのニュースを見ていたら、ソルトレークオリンピックの開会式の模様。アメリカの歴史を再現する、という形で、ネイティブアメリカンたちに扮した人々が出てきていた。『サウスパーク』に“祖国の歴史を再現して舞台にしました”と言って、インディアンが焚き火を囲んでいるところに開拓者たちがやってきて惨殺する劇を子供たちが上演する、というのがあったが、どうしたってそれを連想しないか。それとも、ソルトレークのような信仰心篤いところではサウスパークなんぞ放映しないか。

 8時、K子仕事場から帰る。一緒にタクシーで新宿新田裏、すし処すがわら。寒い上に風がある。客はわれわれ以外ひとりもいないが、出前頻々。5台一度に、などというところもある。K子は鯛のあらでスープを作ってもらって御満悦。茹でたてのミズダコの足が美味このうえなし。

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