裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

日曜日

狗肉の策

 ええいしょうがねえ、これ羊って言って売っちゃえ。朝6時50分起床。雨かなり繁く降る。朝食、オートミールと果物。果物はイチゴとバナナ。早めに日記つけ、風呂その他。9時にK子と家を出て、お台場ビックサイト、ワンフェス&トイフェス会場へ。

 東入口は大混みだろうと西口から入る。いつもはここのあたりまで人があふれているのだが、今年はガランとして寂寞たるありさま。肩摩轂撃のビックサイトしか知らないK子が無気味がる。銀行で金をおろしてから、トイフェスの方へ。担当編集のMさんに会って、トイフェス事務局本部へ。ヌカダさん、ヤナセくんに挨拶してプレス標をもらい、会場を回る。スターウォーズ関係がやはり中心。古オモチャが今年は少ないな、と思っていたのだが、それはああいう店はセッティングに時間がかかるためで、ひと回りするうちに、かなり濃い店が商品を揃えはじめた。

 中でも駄菓子屋の景品関係をデッドストックでかなり揃えていた店があり、ここでまぼろし探偵のクジだとか、帰ってきたウルトラマンの怪獣焼き(タイ焼きの如きもの)の型などを数万。さらにそのトイメンにあった、京都のアンティークオモチャの店で、昭和30年代のSF紙芝居だとか、戦前の農薬散布カレンダー(回転式になっており、カキヘタムシ、ゾウビチュウ、イネドロムシ、フィロキセラなどの害虫名に矢印をあわせると、その駆除薬がわかる。チンゾウだの、ウリバイだの、アホムシだのといった珍名がおもしろい。まあ、アホムシはアオムシなんだけど)などをまた数万買う。このカレンダーに書かれている標語“虫取れ作取れお金取れ”がいい。案外の出費になってしまった。もっとも、K子もこういう資料代として落とせるものには寛容である。彼女はアンティーク店のご主人に、投げ縄人形やツイスト人形を動かしてみせてもらい、御満悦だった。

 事務所で岡田さんと雑談。去年、10時開場で12時過ぎまでまだ列が続いていたワンフェス、今回は30分で入場完了してしまったそうである。やはりエヴァンゲリオンみたいなメガヒットがないと、フィギュアというのはダメらしい。トイフェス会場でみんながダダダと走っていたのは、食玩関係。最近はこういうものの方がイキオイがある。

 K子とオリエンタルカレーを食べて、またひと回り。なをき夫婦がパチモンメンコをあさっていた。そうか、ここで会うことはわかっていたのだから、こないだ買ったパチのスゴロクを持ってくるのだった。四人でまた京都の店へ行く。下に詰んであるものを掘り返していたら、また変なものをいくつか見つけてしまい、買う。昭和何年のものか、永松健夫(黄金バット)の新聞連載の四コマ絵物語スーパーヒーローもの『アトムボーイ』という珍品を見つけた。これも即、買い。永松のメカは小松崎茂のそれにかなり影響を与えていると思う。

 そこらでウン万を消費し、これ以上買うと家系に打撃を与えるので、早々に引き上げる。K子はオタキングが弥生会計のソフトを使っていると知り、ヤナセくんにいろいろ質問していた。

 帰宅して、少し疲れを取って、ちょっと長くかかり過ぎている感のSFマガジン原稿をやる。ダレているのではなく、書いていて非常に筆がのるので、逆に規定枚数をどうしてもオーバーしてしまい、そこらへんを案配しながら書くので時間をくうのである。やっと完成したのが6時。ロフトプラスワン入りギリギリである。あわてて資料など揃え、雨の中タクシーで新宿へ。談之助夫妻、志加吾、キウイの面々に挨拶。談生は取材の仕事が終わってから入るとのこと。キウイと志加吾は壁に貼られた出演者の写真にいちいち、“お、すげえ、小林ひとみだ!”などと驚いていた。談之助さんは資料にと、学生時代からの寄席関係物件コレクションを大量に持参。末広亭、鈴本、東宝演芸会などのポスター、プログラム、手拭い、扇子など。中には“朝太改メ古今亭志ん朝”などと書かれた手拭いなどもあり、昭和の落語黄金期の貴重すぎる資料、という感じ。

 斎藤さんといろいろ話す。ロフトプラスワン、3月に改装するので、その新装開店のこけら落としにオタアミを、という話。また、佐川一政氏が女性にカミついた、という話が出た。また人食い未遂か、と、早めに入っていた睦月さんと驚くが、詳細は未詳。

 氷雨にもかかわらず、客の入り順調。お足もとのお悪い中、御贔屓である。私の会の常連さんももちろんいるが、キウイや談生のファンもかなり来ている模様。やはり出演者がそれぞれの掲示板で宣伝してくれると、効果がある。7時15分ころ始め、私と談之助さんでしばらく話し、それから談生(間に合った)、志加吾、キウイの三人を壇上に呼ぶ。

 まあ、内容は談之助さんの独演会にわれわれが適宜ツッコムという感じ。それにしても談生・志加吾・キウイの三人はキャラの色分けがきちんと出来ていて、トリオで並ぶと面白い。談生がせっせとキウイに話をふるが、キウイが“えっと、ソレ何だっけ?”とボケる(わざとでなく、天然らしい)ので大ウケ。最初は教養講座で、現在の落語界の現状を解説、ただし脱線につぐ脱線で、前半まるまるこれに費やした。中入りで例の同人誌に全員でサインして販売。休み時間なのに談生などマイク離さず、何かしゃべっている。なだれこむ感じで後半突入。談生さんが“ところで今年の正月はお染ブラザースが出なかったけど……”と話を切り出したら、客席のFKJさんから、“さっき染太郎さんが亡くなったとニュースでやってました”と言い、壇上の全員、驚く。なんというライブ感覚。

 談生がバーボンのロックを飲んでいて、志加吾とキウイもこれを飲んでいたが、だんだんこの二人が酔っぱらっていって、なんだかわからなくなる。キウイは飲むと騒がしくなる(飲まなくても騒がしいが)、志加吾は何だかからみ酒のようで、にひひひ、と笑いながら、OHPをつかうたびに指でオマンコマークをつくって映したりする。こういう酔っぱらい方をする奴とは思わなかった。要するに、いつも楽屋や打ち上げで話している内容をそのまま壇上でやっている感じ。内輪ばなしだけで客がついてこられるかな、と思うが、これを聞いて楽しめないヤツはそもそもダメだ、と思い放っておく。志ん朝と談志の話、落語協会の話などで、かなりのヤバ系ばなしもいろいろ。談之助さん“ここで話しているのは実在の人物とは何の関係もありません。この談志というのは西ドイツの談志で……”。とはいえ、毎度楽屋でこんなにも落語のことを話しているとしたら、立川流というのは大したものだ。全員が(キウイといえども)何らかの危機感を持って毎日落語に対峙している。談之助さんのコレクションで若き日の金髪写真を見せたら、観客席の女性から“キャー!”という歓声があがった。快楽亭の若いころの写真をおかみさんが見て“サギだ!”と言ったらしいが、この人もかなりそれに近い。

 今日は日曜なので、11時15分にはアガらなくてはならない。後半大車輪で話を本来のテーマ、“明日の落語界は……”に持っていく。やはり何だかんだ言って談志リスペクト、落語リスペクトの志加吾と、それには違いないが、しかしそこから必死で脱却しないと危ない、という意見の談生との意見対立がきわめて刺激的。志加吾も酔わないとそういうことは兄弟子には言えないだろう。酔っぱらった効能か? 結論はもちろん出るわけもないが、しかし非常に盛り上がり、キウイさんが次回につなげたところで、お時間。談志の『芝居の喧嘩』じゃないが、“これからが面白くなるんだが”でシメ。いや、くたびれた。しかし、楽しかった。斎藤さんから、
「こんなに壇上で嬉しそうだったカラサワさんは久しぶりに見ました」
 と言われる。キウイの持ってきてくれたビデオを流せなかったのが心残り(休み時間に流そうと思ったのだが、実質そこでもみんな話していた)。斎藤さん、3月にこの再戦を、と早くも意気込む。

 談生さんは明日早くテレビの撮りがあるというので帰り、私、K子、睦月、阿部能丸、開田夫妻、FKJ、志加吾、キウイ、談之助夫妻、斎藤さん、それにいつもトンデモに来ている美女二人で打ち上げ。上海小吃でイヌ鍋。志加吾、ずっと変な酔い方をしていたが、カエルを食べよう、とあやさんたちが言い出すと顔色をサッと青くして、“ダメ、カエルだけはダメ”とおびえる。昔コロコロコミックの別冊でカエルを引き裂いて食べる怪奇マンガを読んでから、カエルは一切受け付けなくなったそうである。女性陣が面白がってさんざすすめるが、顔を覆ってしまう。ホントにダメらしい。コルゲンの人形、カエルコール、ケロヨン、みなダメだという。“じゃあ、ど根性ガエルは?”“あれは黄色だからいいです”なにか、ミドリがダメらしい。しかし案外古典落語にはカエルが出てくる。“『蛙茶番』も『紀州』のハダカダも、『蟇の油』もダメ?”“あ、『蟇の油』はいいです”ひからびているのはいいらしい。1時半まで飲んで食って、私のワリを提供したので一人1500円の安さ(出演者からも取ったのは悪かった)。FKJさん、睦月さんと相乗りでタクシーで帰宅。クタビレ果てて寝る。一日にイベント二本はキツいよ。

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