裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

木曜日

銭ゲバ尊しわが師の恩

 蒲郡風太郎さんこそ私の人生の師ですよ。朝8時起床。またまた夢の話で恐縮だが(どうもストーリィ性のある夢というのは連続して見るようだ)、今朝のやつはSFミュージカルで、主人公の男の子(私の夢の登場人物には珍しく毛糸の帽子に茶髪のローラーボード少年)と、彼をずっと育ててくれていた育児ロボット(旧式の箱型胴体のやつ)との友情物語。もう古くなって、電子頭脳が壊れ、ボケて徘徊する状態になってしまい、危険物扱いで警察に追われるロボットを、少年が連れ戻そうとする。すでに少年の顔や声も識別できなくなっているロボットだが、音楽には反応するということがわかり、少年は仲間たちを集めて、大ストリートミュージック大会を開く。ここらへんでインド映画風なミュージカルになり、ロック、スイング、演歌と次から次へといろんなミュージシャンが登場。私はその中の一人で、メキシコ人みたいなソンブレロと肩かけ姿の四人組で“アステカダンス”というのを踊る。手足をカギ型に曲げて卍みたいな恰好になり、ハイアイア、ウー! とやる。夢のことで、ここからロボットはどっかへ行ってしまい、田舎の学校みたいなところで公演したりするのだが、このダンスと曲はなかなかノリのいいシロモノで、起きたあと、台所でちょっとやってみたりしてみた。人が見てたらキチガイである。

 朝食はK子にカレー風味のかき卵、私はカニ足のサラダとライ麦パンのトースト。新聞で見る週刊誌の広告、いやもう鈴木宗男だらけ。最低最悪の政治家、などと書かれている。書いてる方が何かいい気持になっていそうな見出しである。K子は毎朝、朝ごはんを食べながらメールチェックをするが、今朝は愛用のシグマリオンをのぞいてギャッと声をあげる。連絡メールが一晩で二十通近く来ていたそうだ。十周年記念会誌製作に関する運営用MLが盛況なためだが、と学会には凝り性人間がそろっており、一旦、記念号だからいいものにしよう、となるとそのコダワリがトメドなくなって、英文の目次をつけようとか、表紙デザインのラフ案を何点か出してもらってそれにマーカーで仮着色をしたものを編集会議にかけて採用案を決定しようとか言い出す人がいたり、すでに同人誌のレベルを逸脱してしまっている。K子、カンシャクを起こして、その発言者にかなり毒舌なメールを送りつけた模様。知らないよ、私は。

 小野伯父から電話。談志の息子(現在マネージャーをやっている)とぶつかったらしい。横浜のあの演芸会には(客層の変化からいって)もう談志は御派に合わないと思うし、談志にとってもそれほどおいしい場ではなくなっていると思うから、しばらく距離を置いた方が双方のためにはよいと思う。少なくとも、今現在の小野栄一の芸風と談志の芸風は、同じ高座には合わない。完全に、今の談志はマニア向けの芸人になっているし。ただし、それを言うと私の芸風と伯父の芸風というのも、本当のところは合わない。10月の会の演出は用心しないとこの二人の資質がはじきあってトッ散らかってしまうことになりかねない。よく考えるべし。マイストリートT氏から、『マニア蔵』文章部分の訂正部分確認の電話。これにてこの本に関する作業はオーラスとなる。

 12時、参宮橋までバスで出て道楽のノリラーメン。昼時でサラリーマンがぎっしり。カウンターに黒い背広がメジロみたいに並んでいるのを後ろから見るのはなにかやるせなさが感じられる。食ったあと渋谷にとって返す。北谷公園へおりる路地にある輸入雑貨屋『ガラクタ貿易』に立ち寄ってみる。全身ぎっしりにラコステ風のワニマークがプリントしてあるワイシャツを見つけて大笑いして購入。7800円。ただし輸入ものでなくメイドインジャパン。アメリカ軍兵士が国旗を振りながら、星条旗よ永遠なれを歌うオモチャがあった。例のテロ事件以降多出した愛国心高揚モノのひとつだろうが、これがメイドインチャイナ。こういうものでもヨソに発注するアメリカが大束なのか、商売になるなら没関係と作ってしまう中国が大人なのか。

 時間割で筑摩書房Mくんと打ち合わせ。昨日電話で出た問題点、聞いてみると大したことでなく、校閲から出た疑問点のこと。ちょっと工夫が必要なものもあったが、そこはこちらも海千なのですぐアイデアをひねり出して解決する。作業は今月イッパイでということ。筑摩の文庫編集長、カラサワの著作を幻冬舎文庫が独占しているのはケシカラン、と言っているらしい。やはり幻冬舎をライバル視しているようだ。別に独占というわけでなく、早川や光文社でも出しているのだが。

 打ち合わせ終えて、その足で駅に向かい、新橋まで。3時、徳間書店会議室にて、新雑誌『アニメージュ魂』編集会議。私は原則として注文文章書きで、雑誌のコンセプト自体にいろいろ関わることは極力しない方針なのだが、今回は要するに懐かし作品DVD批評誌(監修のササキバラゴウ氏曰く“後ろ向き前進の雑誌”)なので、どの作品がどの書き手の受け持ちになるか、早いもの勝ちでやりたい作品にツバつけておくためには立ち上げ会議にどうしても出席する必要がある。ササキバラさん氷川竜介さん相手に茶々とばして、会議進行を邪魔する。特集記事の他にコラムも持つことになるが、コラムの方はアニドウ出身者の虎の縞を大々的に出したものになる模様。井上デザインのヘロヘロQさんが会議に出席。あそこが装丁を担当するらしい。ササキバラ氏、“なみきたかし伝を井上さんに書いてもらったらどうスかね?”。私一人にバカうけ。

 打ち合わせ終了が4時半。新橋から東京に出て、中央線で新宿。紀伊国屋書店にて資料本買い込む。携帯にモノマガ編集部からゲラチェックの催促が入ったので急いでタクシーで帰宅し、やって戻す。さらに毎日新聞アンケート原稿、向こうの設問からなんか外れたようなことを書いてFAX。道新の書評原稿にかかり、8時までかかってこれをアゲる。モノマガ編集部Aさんから電話、原稿に“なりたけ”とあるが“なるたけ”の間違いではないか、と確認。それは話題が江戸の職人のことなので、わざと江戸っ子言葉でナリタケと書いているのです、と答える。永井荷風もこの“なりたけ”をよく用いていたはず。

 それやこれやで待ち合わせに少し遅れて神山町豆腐料理二合目。店内がガランとして、客がわれわれだけなのに驚いた。キンメとサヨリ刺身、湯豆腐。花粉症気味で鼻がグスグス、ビールがこういうときはさっぱりうまくない。熱燗に切り変えて二人で三合。しばらくするとNHKらしい一巻きが入ってきて、飲みながら打ち合わせを始めた。“外務省がこの取材をウンと言ってくれるかどうか……”などとやっている。帰宅してメールなど確認していたら、中田雅喜さんから電話。例の天津敏本、ようやく“ここまで調べれば文句ないだろう”というところまで調べて(生出演のテレビドラマまで、よく調べあげたことよ)、さあ本作りにかかろうと思ったところで、またまた新事実が出てきて、それを調べねばならなくなったという。声がもう、いかにもファイトに燃えているという感じ。その方面の調査方法について質問されたので、いくつかレクチャー。

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