裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

土曜日

閉経物語

 盛者必衰の理を表す。朝8時起床。息をするたび唇がパリパリとするほど部屋が乾燥している。おまけに昨日の酒で胃がまだ火照っている。しかしながら不思議なことに寝汗はかかず。とにかくノドが乾いて仕方なく、起きだしてオレンジーナ(フランス製のオレンジ飲料)を冷蔵庫から取り出して飲む。去年の夏は私はもう、ほとんどこのオレンジーナ中毒で、年間12億本というオレンジーナの世界消費のいくばくかを背負っていたんじゃないかと思うほどであった。微量の炭酸が二日酔いのあしたの乾きに奇態に効能がある。

 朝食はソーセージのコンソメスープ煮。オリンピック、男子フィギュアもメダルを逸する。シロウト目に見ていても本田には余裕が感じられない。優勝したヤグディンの、ナルシー臭が一キロ先からもただよう演技を見ると、まるで段が違う。前から主張しているが、全ての人種に全てのスポーツが似合うわけではないのである。そろそろ気付いてもいいころだ。そう言えば、と気になってネットで西田和嗣(キックボクシング選手。花菜のバイトのお姉ちゃんの弟さん)の試合結果を確認。こっちの方は見事、イギリスライトヘビー級チャンピオンをKOで破った模様である。

 山本弘会長からMLで御案内、個人ホームページが開設された模様である。この一行知識ホームページもリンクされている。本人自ら力作と太鼓判を捺す、トップページのロールオーバーボタンを見るだけにだけでも行くべし。
http://homepage3.nifty.com/hirorin/
『山本弘のSF秘密基地』……それにしても会長、“ひろりん”ですかひろりん。

 12時半、青山まで散歩。オーバル広場前で今日は第三土曜日だからフリマがある筈、と思っていったがやってない。もうここでのフリマは無くなったのか? スカされたので、神保町まで出て、教育会館7階会議室古書市。何か人が少なく、閑散というほどではないが寂しい感じ。寄席関係本、雑誌類など、適当に買いあさっていたら三万数千円になってしまった。カバンが重い。

 腹が減ったが胃が疲れていそうなので、カレーや天丼は重すぎるだろうと、教育会館そばの手打ち蕎麦屋『夜咄・乃むら』へ。以前、都内の蕎麦屋探訪サイト『東京蕎麦食』(とうきょうそばく、と読む)でこの店の名前は見ていた。喫茶店と見まごうおしゃれな店内にはジャズが流れている。数組客がいるが、昼時だというのにほとんどの客が酒を注文している。いかにも出版関係、といったくずれサラリーマン風の客が、突き出しで熱燗をちびちびやりながら岩波文庫を読み、後でざるを一枚、啜り込んで出ていった。なかなか恰好良く、二日酔いでなければ私もやりたかったところである。天せいろを頼む。上品な店構えにふさわしく、天ぷらは小振りで関西風の白い衣。エビ一、アジ一、小魚一、それにシイタケとシシトウ。天つゆと塩が別についてくる。私にはちと不満。天ざるなんて食い物は下品が身上で、そばつゆでザッザッとかき込むものと思っている。そばの盛りもおままごとなみ。白っぽくて、あまり香りも強くない。しかし、口にしてみると、さすがに腰がしっかりして、蕎麦らしい味。つゆが薮ふうに、塩っからいのが少量なのもよし。お品書きを見ると、ここは蕎麦の他に鴨鍋がメインらしい。食べてから知ったが、黒っぽい麺の“田舎”というのもあるらしい。平日10時半までということなので、今度夜に来てみようかと思う。蕎麦に長野ふうに七味をたっぷりかけて思いきり啜ったら、気管に入ってしまい大むせ。

 帰りはタクシー拾って外苑前のフリマに行く。運転手が死んだフグのようなデブで道をまったく知らない。いちいちの曲り角で、“次はどっちに行きますか”と質問する。疲れていてヤケクソで“右”“そこ左”とデタラメを指示。それで全然違ったところへ持ってかれるのも一興、と思っていたのだが、なんとちゃんと外苑前に到着してしまった。ここのフリマ、規模がやけに小さい。ちょっとがっかり。紀ノ国屋まで歩いて、買物して帰る。

 明日のと学会の準備、いくつか。8時、K子のリクエストにて船山。“明日の二次会ではまず、おいしいものは期待できないから、今日食いだめをしておく”のだそうである。アゴヒゲに目の粗い毛糸のセーターという、ウンコ平田みたいな(と言ってもほとんどの人にはわからないよな。モデラーの平田敦の芸人としての名前である)男が女性と来ていた。太めで目が小さく、ちょっと東浩紀氏似である。しかも大学関係者らしく、院の研究なんてくだらない、という話をしている。面白いので耳をそばだてていたら、“博士号なんて、足の裏についたごはん粒みたいなもんだよ”と言っていた。ココロは、“とらないと落ち着かないけど、とったからと言って食えるものでもない”。これはウマい、と内心で膝を打つ。もっとも、どこの大学院でも言われている比喩かもしれない。

 船山、今日のメニューは刺身盛り合わせ、うるめいわし(生)の塩焼き、アナゴのしゃぶしゃぶ、それにその残った汁で雑炊。うるめいわしの生、それも非常に新鮮なやつで、内臓まで食べられる。サンマほど苦くなく、風味豊か。店長と雑談の中に志摩観光ホテルの話が出て、あそこのアワビステーキは絶品だった、という話をしていたら、隣の東浩紀似氏が、“すいません、メモしたいんで、そこのホテル、何ていう名前か教えてください”と話しかけてきた。美食旅行がご趣味ですか、と言うので、イエそのときは別冊宝島の取材で鳥羽国際SF秘宝館というところに取材に言ったんで、それだけで帰るのはあまりに情けなかったんで、せめてと思って、と答える。へえ、B級モノがお好きなんですね、と向こうは感心したらしく、じゃあ、ロフトプラスワンなんかによく行かれるんじゃないですか、と言う。行くどころでない、出てます、と言うと、え、どれですか、と驚いたことにポケットから月間スケジュールの切り抜きを持ち出した。これです、3日の落語イベント、と指さすとうわあ、と驚いてくれる。しかし世間は狭い。

 今日は船山さんのお父さんが宮城から上京。いつもながらの好男子。K子が妙に御機嫌で、私がB級論議につきあわされている間、お父さんに、奥さんへのプレゼントは何がいいのか、と講義していた。えらく酒が回ってしまった。このところ連日。

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