裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

土曜日

待て、これは公明の罠だ!

そう簡単に連立に走ってはならぬ!

※『劇団サギまがい』公演

夢で某博士の発明になる超モダンな劇場に行く。
巨大なハマグリの殻のようなボックス席が壁にいくつもあり、
これが開いたり閉じたりする。舞台からこの様子を見ると、
まるで空に浮かんだ巨大な目がゆっくりとまばたきをして
いるように見える。

朝6時ころ目が覚め、メールをのぞいてみる。
いろいろ考えたりなんだり。

8時、着替えて、ヒゲもあたらずすぐに病院へ。
昨日の検査結果ふまえての診察を受ける。
心臓は先月に引き続き、正常な形状のままを保ち、そろそろ
薬を減らしましょうと、利尿剤のミリ数を小さくしたものに。
お酒は飲み過ぎないように、と言われるが、まず健康。
カテーテル検査もしましょうと言われなくなった。

帰宅して、アボカドとミルク入りコーヒーで改めて朝食。
メール等確認、日記つけ。
今日は朝、出たときもまるで寒さを感じないほどの陽気。
コートを春用に替えてみた。

NCのお父様から、香典返しのお茶が届く。
あれだけいろいろやっていただいて香典返しまでいただくのは
恐縮すぎるくらいだ。

12時、昼食。自家製パイコー麺、バナナ小一本、タンカン一ヶ。
母に、しばらくの間、11時に朝食兼用昼食をとることにし、
一日二食を試してみたいと頼んでおく。

某創作原稿、想はなっていてもなかなかその前後のつながりが
うまく出来ずに筆をおろせずにいたクライマックスシーンを
やっと書き上げられる。セリフ回しなどはもう少し手を入れねば
ならないだろうが、何となく全体が見えてきた感じ。

6時、家を出て中野へ。第一回ルナティック演劇祭で唐沢俊一賞
を差し上げて以来の知りあいの役者さん、中澤隆範氏が、
『南極(人)』で音楽を担当してくださったグレート義太夫さん
がやはり音楽をやられた(演出はダンカンさん)お芝居、
『耐エガタキヲ耐エラレズ……〜弱虫特攻隊の詩〜』に出演して
いらっしゃるので(ホントに狭いね、この業界)、お誘いいただいた
のである。

中野HOPEは同じく小劇場である中野ザ・ポケットの隣。
同じ建物内にテアトルBONBONがあり、さらにポケットの建物
の中には劇場MOMOがある。この住宅街の一角に、劇場が
4つも出来たわけである(HOPE、BONBONは09年10月
のオープン)。ここは間違いもなく、近く下北沢などと並ぶ
演劇文化の一つのメッカとなるであろう。ちょっと感慨あり。

今から20数年前、バブルの末期に伯父が土地売買でアブク銭を
得て、それに関係した業者に話を持ちかけられて、このあたりに
演芸の小屋を作ろう、と言い出したことがあったのであった
(実際にはもっとナマグサイ話があったのだが省く)。
中野の区議会に顔が利く某芸能人(故人)に話をつけ、国関係
には元某テレビ局のプロデューサーだったMという業界ゴロに
話を持っていってもらい、要するに土地ころがしに地域の文化的
発展という名目をつけるため、そのカンバンとして劇場を造る
という計画だった。いかにも怪しげな話ではあったが構想は
大きく、劇場、演芸学校、放送スタジオなどをまとめた一区画を
中野区に出現させて、中野を六本木や赤坂なみの文化発進地に
する、というような話で、私は企画書、趣意書を何本も書かされた。
当時の伯父は躁が高じて誇大妄想に足を踏み入れていた感じが
あり、スペインの王室に話をつけて絵画を日本に輸入するとか
いくつもの奇想天外な話をつねに吐き続けていたが、この、
中野文化発進地構想のみは、自分で企画書を書いていて、
実現したら面白いなあ、実現してほしいなあと思っていた。
……もちろん、妄想は妄想に終り、一年もたたずしてバブルは崩壊、
伯父はショックで半病人のようになってしまい、その構想も
槿花一朝の夢と化したわけだが、この、ザ・ポケットを中心とした
劇場展開を見ると、あ、もし実現していたら、まずはこういう
ものが出来ていたのかもしれないな、と、ふと思ったことであった。

窓口にいた案内スタッフの女性に声をかけられる。
以前、杉ちゃん&鉄平のライブで会った女性だった。
ホント、世間は狭い。ダンカンさん、義太夫さんにも挨拶。
住宅街の中なので、私の地声の大きさが迷惑かけたかも。

関係者席をとっていてくれた。HOPEは70席の、
『楽園』より小さい劇場。当然満席である。ふと見ると、ルナの
松下あゆみが来ていた。ちょうど、隣の席(一般席)が空いて
いたのでそこに座らせる。中澤さんから案内が来たそうだ。
座長のハッシーが昨日、この舞台満席売り切れで見られないと
言っていたのに、若手が見にきているというのがオモシロイ。

お芝居はタイトルでわかるが、特攻隊もの。
前説に出た女優さんが“コメディですので、笑ってください”と
言っていたが、ストーリィは完全に特攻隊もののセオリー通りの
泣かせの話。そこに、ダンカンさんの作・演出らしい喜劇的
登場人物たちが登場し、その言動が笑いを誘うという構造。
感動と笑いが素直に観客に提供できる作りである。
ラストの出撃シーンであゆみが涙ぐんでいた。
私にはこういう芝居は書けない。どうしても元のシチュエーション
自体にヒネリを入れてしまう。

最もコメディっぽいキャラは、孫の身代わりで徴兵されてしまった
という設定の、68歳の特攻隊員を演じるガラかつとしさんの役。
役者としても彼が一番達者だった。また、元音楽学校教師で、
ちょっとだけ精神に異常を来たし、セリフが全て歌になっている
という特攻隊員を演じたフォーアウト遠藤氏も、顔が役にハマって
いる。……で、肝心の中澤さんであるが、開演前にプログラムを
見ると、どうも主役らしい。あゆみと“どういう役なんだろうね”
と話していたのだが……なんと、バリバリの二枚目役だった。
二枚目で純情、国家を思い、母親を思い、そして恋人を思う20歳の
特攻隊員役。薩摩隼人で、純情に女性を愛し、裏切られたと悩み、
死を決する役で、鍛え上げられた肉体美まで見せてしまうのであった。
演劇祭で見せたあの狂気、あのバカバカしさは微塵もない。
最後まで凛々しい日本男児を演じきっていた。見事。ただし、
“20歳”と年齢を言う場面で“34だろがっ!”とツッコミたく
てたまらなくなったが。

終って義太夫さん、中澤さんに挨拶、“4月はこういう役は
出来ませんよ”とオドしておく。しかし、今日の彼の芝居を見て、
あることを思いつき、まあ、実はエマージェンシー的なことなのだが
ちょっと内心でシメタ、と思ったのであった。
やはりいろいろ芝居は見ておくべき。

外へ出ると風が寒いこと。昼間暖かいと思って油断していた。
あゆみを誘って、ちょっと食事。と、いっても彼女は超偏食の子
なので店の選定が難しい。『魚の四文屋』に行く。イカとトマト
くらいしか食べられない子なのである(それでよくこの体格が維持
できるものである)。そしたら、実は白子ポン酢も好き、という
ので驚く。いきなり濃いものが好物である。

芝居の話、休団した純子の話、その他いろいろ雑談。
バイトに行く彼女を見送り、残った料理を食べ終って帰宅。
まだ早いので9月の芝居のメモを見ながら、いろいろと
ああでもないこうでもないと人物配置などをいじくり楽しみつつ、
黒ホッピー二杯飲んで1時半、就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa