裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

23日

土曜日

内政不感症の原則

 靖国神社に行こうとマグロだろうといいじゃないか。朝7時半起床。入浴、朝食。タマネギのポタ、バナナ、リンゴ。天気晴朗。K子が庭の草木に水をやったり、落ち葉を片づけたりしている。庭仕事をする女とは思っていなかったので驚く。私は彼女に比べるとずっと常識人とは思うが、しかしやはりオタク。普通人のやるような、庭の手入れとか、あるいは犬の散歩だとか、そういうことは一切やらないしやるつもりもない。と、いうか、出来ない。そんなことをやっている自分が全く想像できない。一般のいわゆる“老後”にやることが私にはないんである。働けるギリギリの年齢まで働いて、余生はひたすら回顧録を書く(口述する)ことに費やすのが人生の目標。私がなぜ事細かな日記をつけるか、の理由かくの如し。そのメモ、なのだ。楽しみだ なあ。

 10時半、出勤。土曜というのに道が混むこと。タクシーの運転手さんがCXの日 枝会長そっくりの、いろいろ人生経験豊富な人で、訓話をうかがう。
「友人とビジネスをやっちゃいけない。ビジネスパートナーは無能だった場合切れるが友人は切れない」
「今の若い人は許可さえ得れば無制限の自由が許されると思っている。このあいだ、丁寧に“タバコ吸っていいですか”と聞いてきた青年がいて、いいですよ、と答えたあと見ると、タバコの灰を平気で車の床に落としていた」
「65歳までは人間、どこかに“切羽詰まっている部分”を持っていなくちゃいけない。それが生きるパワーになる」
 等々。

 仕事場について、すぐ原稿書き。講談社『週刊現代』のマンガ評コラム、中尊寺ゆつこの遺作。それからと学会東京大会用同人誌原稿。二見のYさんから打ち合わせの日取りの件。これらすませて12時25分。あわてて階下に降り、迎えのタクシーに乗って汐留の日本テレビ。エストKさんに伴われて控室入り、弁当使うがあまり食欲 わかず。構成作家さん(ジーヤマの人)と話す。

 で、メイクと髪の毛だけざっとやってもらい(今日はエドエドに行く時間がとれなかった)、楽屋に入る(楽屋と控室がここは別)。モニターで藤田紘一郎先生がウンコの話をしている。GTの番組でウンコを扱うことに、製作サイドはスポンサーや局 にかなり根回しをして、苦労してOKとったらしい。このあとで私のテーマが“デパ 地下”ではインパクトに欠けるなあ、と思いつつ収録。

 堺校長と上田級長に
「センセイは最近、ベリ・ビズィで」
 と言われる。イエイエ、メインはあくまでこの番組ですから、とこっちも世辞。今日の生徒は伊集院光、菊川怜、岡田真澄、柴田理恵、マナカナなど。いくつか局の用意してきた雑学に沿って進めるが、それだけでは面白くないのでいろいろと付け加え る。堺校長が
「センセイの凄いのは、ここらの展開一切台本にないんですよ」
 と内輪ばらし的なことを言うが、他の教師陣はみんな台本通りやっているのか? 

 岡田“まもるのパパ”真澄が私の雑学披露に
「……おもしろいなあ!」
 と感心してくれて、また以前は“なに、この変なオヤジ”という目で額に二本線立てながらこっちを見ていた菊川怜が別人のように協力的にいろいろ発言してくれた。 これは“同じ業界人”として認知してくれた、ということか。

 結局、台本の半分くらいのところで45分回し終わり。柴田理恵さんに
「今度私、紀伊國屋でWAHAHAの清水ひとみさんとご一緒させていただきます」
と挨拶。

 終わってすぐ、その千葉のうわの空藤志郎一座公演に行かねばならない。タクシー で駅まで、と言ったらエストKさん、
「あ、いいですよ、千葉までお送りして」
 とのことだったので、甘えることにする。Kさんも千葉出身の人で、
「あの会場、周囲にナニもないですよー!」
 と。

 タクシーで高速に二回乗って(!)本千葉まで。運転手さんも迷い、信号待ちのたびに隣の車の運転手さんに質問しながら、なんとかたどりつく。かなり大きな建物だがここで公演やっていると外からわかるものが何もなく、玄関口にポスターが貼ってなければさらに迷ったろう。

 タクシー降りたとたんに、
「ああ、唐沢先生ですか。いつもテレビで拝見しております」
 と60格好のお父さんに挨拶されて、ハア、と返事したら
「お世話になってます。村木の父です」
 と。こっちが仰天してイエイエと言っていたら、奈緒美さんが出てきて、会場へ行き方を教えてくれた。なるほど、うわの空サイトの日記でも見たがかなりヘンな建物である。マチネを終わって休息している出演者のみなさんに挨拶。みずしなさん、パンパンかおる、橋沢さんなどと話す。今日はやけに静かだと思っていたら、おぐりが 張り切りすぎて声をちょっとやってしまい、おとなしくしているのだった。

 思えば彼女は2002年の『サヨナラ』の公演でも同じ役で声を枯らしている(同人誌原稿用にこないだ日記を繰っていたので思い出した)。この芝居はおぐりが声を枯らす、のが恒例か。確かにあのやさぐれ女学生の役は元気よくなくてはいけないので、声をやりやすいのだが。あまりしゃべれない反動か、おぐり、パンパンやモナぽ さん、コバーンなどにさんざ手を出し足を出していた。

 記録用ビデオ撮影を担当しているモナぽさんに、と学会の東京大会の記録ビデオ撮影補助もお願いする。バーターとして、『探偵ファイル』の東京大会の取材も許可す る、ということで。

 送った花をチェック。花籠そのものは大変にいい出来のものだったが札の字がひどい。マジックでチャッチャと書いただけのもので、高校生が書いたんじゃないかと思 えるようなもの。呆れる。これは文句言わないと。

 受付の女性陣に聞いたら、昨日の公演で、オバサン風の客が二人、この札の名前を前にして
「アラ、この人こないだ『ごきげんよう』出てたわネ」
「トークがうまいのよネ。紀伊國屋には出るって言ってたけど、こっちには出ないの かしら」
 などと会話していた由。

 客入れが始まって、一応受け付けに立つ。開田さんのポスターを売る係に。握手求めてきてくれた人一名、ポスター買ってくれた人一名。“村木の母です”“妹です” というという組がきて、受付の日野さんがあわてる一幕も。

 芝居、はじまる。単純な島のセットに夕日が映える照明が素晴らしい。うわの空とは三橋俊一さんの頃からのつきあいのK糸さんの仕事。その中で村の娘・キヨ役の島さんの可憐な芝居から始まり、おなじみの面々の和気藹々のからみとなる。佐川、パンパン、三橋の面々のゴレンジャーの、なんともズレまくるテンポの(ここまでズレ させるのは難しいだろう)決めポーズと台詞が何とも可笑しい。

 村木座長が清水さんをいじるときの“ハゼ”という表現も不意をつかれた連想で、笑っては清水さんに失礼だが笑ってしまった。キヨとミキジのケンカ口調のプロポーズというギャグは『サヨナラ』にもあったが、やはり泣ける。おぐりも超ハスキー声でがんばっていたが、やはり舞台のムードメーカーである梓の役がしゃべりづらそう だったのは聞いていて可哀想だった。

 みずしなさんの材木屋と小林さんの漁師が共に金沢くんを自分の商売にさせようとひっぱりあいをしている設定が新しい。通してみた感じとして、『サヨナラ』に比べてライトに、さらりとしたイメージでまとめてある。脂っ気が抜けたという感じか。 ハネの後、舞台バラしを脇で見学し、邪魔にならぬよう(手伝っていたら“唐沢さんがなまじ手伝ったりすると若手がとまどいます”と言われた)通風の発作が起きて足をひきずって来た顧問の海谷さんと隅の方で会話。事務方スタッフを充実させることが急務、みたいなこと。招待券発行の方法について。テレビの仕事を取ることの大 変さ。人ひとり売り出すことの大変さ……みたいなこと。

 打ち上げ会場は津田沼。モノレールで移動し、やる気茶屋で。うわの空という劇団は打ち上げ含めて見所、みたいな感じがあるが今日もまたいろんなことを考えさせられた。も少し明るくパーッと騒ぎたかったが、そこらで、午前中テレビ収録でアドレナリン放出した反動がきたか、やや考え態勢になる。クリエイターとしては素材を前に考えるのはいいことだ。ティーチャ先生がダジャレを連発して清水さんとおぐりに 呆れられていた。

 みんなは朝まで騒ぐ予定らしいが、東京組の私と清水さんは11時45分くらいで出て、総武線で帰る。車中、芝居の話など、いろいろ話す。WAHAHAのやり方などを聞いて非常に参考になる。大いに励まされもした。紀伊國屋、また外部プロデュース、いろいろ頑張ろう。12時半、帰宅。なんか各駅電車で延々乗っていた気がし たが、そんなにかかってはいなかったのだな。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa