16日
土曜日
花と蛇、なかよくけんかしな
“と”でつながるものはだいたい、このテが効く。朝、長い夢。夢の中に決まって出てくるデパートがあって、やたら巨大なのは、幼少時の記憶の残滓なのだろう。階段もやたら幅が広く、そこを上がると踊り場が中二階みたいになっていてこれまらやたら広く、売り場になっている。そこに確か熱帯魚売り場があったはずだと思っていくと魚のみそ漬けなどの売り場に変わっていて、熱帯魚は地下に移ったという。
地下に入ると暗く、天井の高い壕のような地下水道が遙か向こうまで続いており、土手もあって草まで生えている。みると、草という草には根本や葉の先に蚊や糸トンボみたいな昆虫がぎっしりとまっている。これは店が、熱帯魚のエサ用にボウフラやヤゴをその水道で飼って育てているからなのであった。暗い中、そう言えば灯りがどこからともなく照らしているなと思ったら、それは幼虫たちが水の中で発光しているのであって、暗い地下水壕の中を、ずっと視野の届く限りまで、水の中で小さな幼虫の発する光が、チカチカチラチラとどこまでも明滅して続いていて、
「ああ、この世の光景とも思えないくらいきれいだな」
と、私はいつまでも遠い、水の流れの先を見つめているのだった。
朝8時食事のベルで起きる。バナナ、リンゴ、トマトのスープ。風邪まだ完全には抜けず。中国関係の資料を調べつつ、気がついたら12時。地下鉄で新宿、買い物して参宮橋まで。道楽でラーメン、ノリと頼んだらネギラーメンが出てきた。ま、どっちでもいいのだが、もう何年もここではノリラーメンしか食べていないのだから確認 しろよ、と思う。
参宮橋からタクシーに乗った。運転手さん、バックミラーごしに私を見て
「……お客さん、昨日、テレビ出てない?」
「あ、出ました出ました」
「やっぱり! アレ? と思ったんですけどね。いや〜、最近、ホントどうかしてんな。娘に“パパ、これからサインペンと色紙、車に用意しといて”って言われてんで すヨ」
「へえ、有名人とかよく乗せるんですか」
「最近立て続けで……一昨日は蒲田からモー娘。の矢口さん乗っけて、TBSまで」
「うわ、そりゃまたタイムリーな人を!」
「帽子深くかぶってマスクしてたんだけど、いくところがいくところだからすぐわかりましたね。その前はX−JAPANのYOSHIKIさんね」
「……なんか運転手さん、業の深い人ばかり乗せてるね」
「それで今日は“へぇ”の人でしょ。いや、娘がうらやましがるわ」
「そうですか。しかし、失礼ながらそのお年でYOSHIKIがわかるのは凄い」
「最後に芝居のカンバン出してたでしょ。私も昔からああいうことが好きで、だから俳優とかミュージシャンの顔は覚えるンですよ……確か、連休は紀伊國屋ホールでし たっけ?」 「あ、そうです。昨日稽古だったんだけどね、面白いですよ」
「じゃア、私、女房連れて行きますワ」
「本当に? じゃア、割引券とかあればよかったけど、手持ちがないんで、これを」と、名刺に新舘さま、と書いて前売料金でとメモしたものを渡した。 思いがけないところでお客さん二人、ゲット。……しかし、やはり私は名前でなく、“へぇ”の人で覚えられているんだよなあ。まあ、名刺渡したから確認はしてくれた ろうが。
仕事場で週プレの構成案考え、いろいろスケジュール調整。某誌は今日中でないと落ちるということだったが土曜でそれはあるまいと思い(案の定月曜までだった)後回し、別のヤツをやる。首筋の凝り尋常でなく、タントンに走って揉んでもらう。こ れは風邪のせいで、今日はそれほど全身倦怠とかはなし。
そこから後楽園の文京区男女平等センター。30分遅れた。和室でと学会東京大会打ち合わせ。集うもの眠田さん、新田五郎さん、K川さん、植木不等式さん、高橋のび太さん、I矢さん、しら〜さん、それに声ちゃん。IPPANさんの仕切りで、イベント保険の件、担当員の確認と、発表者の使用機材の確認、それとゲストの佳声先 生の使用機材などについての打ち合わせ。
終わって、植木氏が大学時代行きつけだったという菊坂『ゑちごや』で小倉アイス食べ、ウルトラQダークファンタジーの実相寺昭雄監督作品『ヒトガタ』のロケ現場になった樋口一葉が通った質屋の外観などを見学してから、眠田さん、新田さんと別れ、残りのメンツは大江戸線で月島まで。ここで金子さん合流。月島の細い小路にあ る『ほていさん』という鍋屋でアンコウ鍋を食べる。
まず、ウニ、マグロ、シャコなど刺身盛りの凄いのが出て、それから鍋。ここのアンコウ鍋はいわゆる“どぶ鍋”というやつで、鍋の中にアンコウのキモの刻んでペースト状にしたものがどさっと入っている。この甘みが凄い。煮えた野菜につぶしたキモがからんで濃厚。ここでさらに皆神龍太郎さん、mikipooさん、山瀬よい子さんが加わる。声ちゃんは皆神さんの今度編集する都市伝説本の表紙モデルで妖怪のメイクで出るとか。
「口裂け女?」
「いや、あれはやると口蓋裂患者の会から文句がくるんだ」
「だって口蓋裂は立てに裂けるんでしょ。口裂け女は横じゃない」
などとみんなで盛り上がっている。
私は今日はボーッとしてロクな軽口もたたけず。風邪のせい。焼酎もかなり入り、ちとフラつく。大江戸線で新宿まで出て、そこからタクシー。鼻炎薬のんでベッドに潜り込む。
「なに、外出しなくたって風邪では原稿など書けない」
と言い訳しつつ。