裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

月曜日

人のふりみてコードフリーなおせ

 この日記見て、コードフリーのDVDデッキお買いなさい、とビデマから手紙が来たですよ。朝、7時起床。疲れ解消度65パーセントくらい。朝食、開田さん宅からもらったサツマイモ(自衛官さんが掘ってくれたのがサツマイモで、ヤマノイモは実家が掘ったものだとか)をふかして食べる。小さいやつをふかしたのだが、甘味が強くホクホクして美味。一緒に菜の花入りの中華スープ。イモ類と一緒のときのスープは少し塩を利かせた方が胸焼けしない。留守中の新聞類に目を通す。読売の日曜読書欄、どうも低調。大学の先生に専門以外の分野のものを書評させるのは酷なのではないか? と思う。東大助教授の金森修氏、サイエンス・ウォーズで有名な人だが、平凡社新書『超薬アスピリン』の評中“それにしても、アメリカ人が何かといえばアスピリンを飲んでいる、とは知らなかった”というのはちょっと困る。“アスピリン・エイジ”(1920〜30年代の混乱期アメリカを指す)という言葉があるくらい、あれはアメリカの国民薬になっている、というのは常識の範疇ではないの?

 午前中の仕事にかかっていたら、小野伯父から電話。芸能生活50周年記念公演をスケてくれないか、という依頼。構成を考えるくらいなら喜んで、と答えておく。8日の日曜が紅葉坂寄席なので、ちょっと顔を出してその件を打ち合わせることに。その受話器を置くか置かないうちに、今度は母から電話。日曜にいなかったので、どこ行ってたの、という電話だったが、それにしても、五分と違わず電話かけてくるとい うのは、さすが兄妹。

 ささきうどん氏から訂正のメール。虫プロで発見されたのはセルではなく、原画であるそうな。考えてみれば、セルはあちこちで売りに出されたりしているものな。まあ、今ではセルより原画の方がはるかに値打であるのだが。テリー天野氏から電話、お仕事がらみの話ちょっと、それから金子ゴジラの話。二人口を揃えて、“いろいろ言いたいことはあるにせよ、スゴい作品ですね。まず、今年の特撮作品の中ではダントツ、ナンバー2ですよ!”……バカ映画愛好者として、われわれの中で今年のナン バーワンはすで『殺し屋 1』で決まり、なのであった。

 昼は五穀御飯をレトルトで温め、ウナギの冷凍蒲焼きと菜の花をまぜて速成わっぱ飯。食べている最中に沖縄の中笈さんから電話。著書贈った礼をいただく。やはり彼も『スゴヘン』の方のヒト。さらに『デッドオアアライブ』ばなし、さらにまた飽きもせずゴジラばなし。中笈さんは私以外には数少ない、明確なノスタルジー派なので 基本的に昭和ゴジラ支持。とにかく語りたくなる映画だ。

『堪能倶楽部』原稿書き上げてメール、急いで家を出て、3時半、六本木ギャガ試写室にてフランス映画『ジェヴォーダンの獣』。ジェヴォーダンの獣とは、18世紀、フランスのジェヴォーダン地方で女性や子供を次々に襲った謎の人喰い狼の実話で、その被害状況が超自然的な伝説となって語り伝えられ、切り裂きジャックやカスパール・ハウザーなどと並ぶ世紀の謎として有名な事件。その映画化と聞いて、こないだの『フロム・ヘル』みたいな歴史ミステリみたいな話かと喜んで行ったら、なんとカ ンフー映画であった(マジに)。

 改めてパンフを見てみると監督があの『クライング・フリーマン』のクリストフ・ガンズ。わかりやすく言うとフランスの中野貴雄(わかりやすいのか)。カンフー映画と日本のチャンバラ映画、それにマカロニ・ウェスタンマニアでもちろん怪獣好きという大オタク、カルト映画以外撮れそうにないというヤツである。それがこの伝説に挑むんだから、とにかくまともなものになるわけもなく、しかし映像は中野貴雄的にガジェットであるどころか、極めて重厚なコスチューム・プレイで、もう耽美のきわみ。主役の男性四名は全員美形で、中でもヴァンサン・カッセルは頽廃貴族のぼんぼんで片腕のコンプレックスを持っている公家悪を見事に演じ、抜群の存在感。なのに、ラストで……いや、大喜びはするんだけど、これ、オレだから喜ぶんであって、一般客が見たら呆れ返って怒り出さないかなあ、と頭を抱えてしまった。とにかく、手鈎は出るは七節根は出るは、刃物の飛び出す手裏剣扇は出るはという騒ぎ。一応、主人公も相手も世界を渡り歩いていたという設定だからカンフーをマスターしてたっておかしくはないんだけど、それにしても、18世紀フランスとのあまりのミスマッチに、口をポカンとあけっぱなしだった。ヴァンサン・カッセル、親父のジャン・ピエールとはまったく毛色の違う怪優になった。カッセルの妹役のエミリエ・デュケンヌ、目のタレてない藤谷文子という感じで、全然貴族に見えないけど好感が持てる。

 そのまま明治屋ストアに行って買い物、帰宅。こりこりと仕事続ける。明後日の朗読会の準備もしなければならず。ちょっとイラつく。8時、新宿新田裏すし処『すがわら』。先日は酉の市で熊手が新しくなっていたので、縁起に一万円札をはさむ。ひさしぶりの寿司でネタは月曜だから豊富、ヒラメ、コハダ、甘エビ、アナゴ、いずれ も絶品で堪能。寒いのでフグのヒレ酒を飲む。

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