裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

火曜日

オーラ三太だ

「前世のあなたは水車小屋を家にして住んでいて……」(江原啓之)
                      それにしてもモトネタ古すぎ。

※『御利益』千秋楽 『創』ゲラ書きたし。

朝、さすがに9時起き。
母に電話して、さらに30分寝る。
まだ若いと喜ぶか、年がいもなく、と自省すべきか。

10時、朝食兼用の昼食。
食べて日記つけなどし、昨日来てくれた某などに
メール返信。雑用するうちもう1時。
家を出て、タクシーで渋谷。
『創』の原稿、私が散漫な部分を削ったら字数が足りなく
なったので、事務所に送られたゲラに直接足して欲しい、
と連絡あったので、小屋入り前にすましてしまおうという
つもりだったが、事務所で確認したら来ていない。
問い合わせたら、編集部が送るのを忘れていた、とのこと。
仕方ない、舞台終わってすぐ事務所に戻り、
書き足して送り返すという算段にする。

事務所から下北沢。
下北沢通いも今日まで。
あっと言う間の千秋楽である。
一ヶ月稽古をして、それをわずか6日間の本番に
封じ込める。非能率というか、費用対効果が悪過ぎるというか。
しかし、芝居の魔魅は、まさにその、経済性を無視した
ことに全力を傾注するポトラッチ的行為の中にある。

半田健人くんが宮沢章夫の芝居に参加したとき、顔合わせの
まず最初に、宮沢章夫は
「芝居というのはそこらへんで狂気を持たないとやっていけない」
と言ったそうだ。
もちろん、それじゃ食っていけない。
昨日楽屋で、なべさんや麻見くんが言った
「こういう楽しいことばかりやって食べていけたらねえ」
と言うセリフを、どうやって、か経済的確立につなげて実現させて
いく方法を考えねば、ということだ。
プロデューサーという名称は今回は名ばかりだったが
次回以降、もしプロデュースやるとしたら、ここらが課題、
だろう。

3時、本多劇場事務所(去年9月に公演した『楽園』の向い)
でハッシーと待ち合わせ。
本多劇場支配人、一夫さんの息子さん(『楽園』の責任者)
と次回公演のことを打ち合わせる。
やるとなったらかなり無謀かつ大胆な試み。
それだけにゾクゾクするほど面白いが、さてどうなるか。

打ち合わせ後、茶沢通りの麺僧という、以前から気になって
いた店で黒酢ラーメンすすり、いろいろハッシーと話す。
食って小屋入り。
泣いても笑ってもあと一回。
予約の猛追あり、チケットはほぼ完売。
すでに早さんが大道具解体の作業などを岡っち、あゆみちゃん
などに指示している。

楽屋も、荷物等片づけ始めているところあり。
最後の、麻衣夢の歌からエピローグ、挨拶、ダンスまで、をつける。
ダンスで足がもっと弱るかと思っていたが、さまででもなし
(もちろん、普段よりかなりバテているが)。
今回の芝居は、このラストの、いささかベタな大団円あるに
よって、やっていての満足感、観ての満足感が大きいのでは
ないかと思う。私見では、ストーリィももっとベタな
予定調和でも通用した、と思うのだが。

で、最後の舞台。
ギャグもセリフも全部はまり、
ハッシーが“さすがに今日はいいですねえ!”と言ってくるので
「そりゃ、全員そうでしょう」
と。ところが罠はあるもの、初日にハッシーのやったポカ、
私の名前の博貴でのヒロちゃん、ハッシーの役の誠一での誠ちゃん
という呼び名のトッ違えを一個所、やってしまった。
お客さんは気がつかなかったと思うが、いやはや。
そう言えば、もやしが出とちりしたり、乾きょんが
「こいつは悪人ですわよ!」
というべきところを
「こいつは変人ですわよ!」
とやったり、みんな一個所づつ小さいミスをしていたのは
気の緩みか、あるいは魔除けか。
すさまじいのは赤英で、楽日だというのに、途中で出待ちしている
もやしをつかまえて、
「今、どこやってんの? 次、何?」
と質問して、もやしを愕然とさせたという。
「それで出が遅れちゃったんですよ」
と、もやしはボヤいていた。赤英はアドリブギャグ以外最近は
興味がなく、芝居のステージ数が多いと
「どうしてこう何度も同じことやらなくちゃいけないんだ」
とブツブツ言っているという。
演劇の根幹を否定する意見なんだけどな、とみんな笑う。

とにあれ、無事ラストステージ終了、いいスタッフ、いいキャストに
助けられ、いい気分で終わることが出来た。
もちろん、これまでも一回々々、印象深い舞台ではあったし
客演さんなどみんな才能ある人々ばかりだったが、
ことチームワークは今回の座組が最高だったのではないか。
初顔合わせの里中くん、麻見くん、そして希衣子ちゃん、由美子ちゃん
と、こんなに楽しくやれるとは。
稽古進める間にはいろいろトラブルのモトになるんじゃ、
という不安材料もいくつかあったが、フタをあけてみれば
何ということもなし。“幕が開けば、閉まる”という文句のまま。
外野で言うやつらはしょせん、言うだけの存在。
逆に大いに自信を深めたことであった。

最後の福引、なんと大賞がマイミクさんだった。
しかも、彼がまた、いかにも貧乏そうな(そうな、ですよあくまで)
服装、顔つきなので、テリーが喜んで
「こういう人に当ててあげたかった、という人にやっと当たった!」
と叫んだくらい。いや、盛り上がった。

中央公論のKさん、もう満面の満足な表情で、
「こんなに笑って泣けた芝居は始めてです」
と言って、オノに
「どこで泣いたんですか?」
と突っ込まれていた。
二見書房のYさん、麻衣夢ちゃんを観に、と言って
来てくれたが詳しく話を聞くヒマなく残念。
開田さん、あやさんもニコニコ、そしてハッシーが心配して
いたがやっと、ポスターの前田裕之さん来てくれた。
「いやあ、こういう芝居になったとは! 面白いです!」
と。ポスターが恵比寿さまだったのに、ストーリィ上(最後に
麻衣夢ちゃんが赤ちゃんを産んで〜そう、サプライズキャスティング
で彼女が妊婦役だったんである〜祠から出てくるという
シーンの関係上)弁天さまに変わっていたのを
「いいんですか?」
と心配してくれた。ハッシー、
「いや、これくらいの差はあっていいんです」
と。まったく、今回はこのポスターに本当に助けられた。
感謝。前田さんのサイン中心に出演者のサインいれたポスター
を製作、事務所に飾ることにする。

他に小学館クリエイティブのリーナイさんと執筆者の一人好田タクト
さんを引き合わせられたのもよかった。
そう言えば客演の麻見さんもタクト(拓斗)だな。

楽屋を片づけ、差し入れのお菓子等々をまとめ、
舞台に集合。会計報告をプロデューサーとして受ける。
大儲けとはいかないが黒字になり、ギャランティ等もきちんと
支払えるアガリ額。
いろいろ計算違いもあったが、まずは上吉と言える〆。
めでたし。ただ、金のことより、今回は何と言っても
人のつながりの多く出来た公演だったことが嬉しい。
古舘事務所はもとより、麻衣夢ちゃんの事務所や本多劇場とも、
今後の仕事の件で話が出来る体勢を作ったことこそが財産だろう。
お仕事と言えば某ネットテレビ(なべさんの知り合い)が
ハッシーにちょっと面白そうな話を持ちかけていた。

バラしに入る。
これまでは一出演者の義務として、極力バラしにまで参加してきたが
今回はプロデューサー、それがバラしまで手を出してはかえって
他のみんなをとまどわせると思い、ハッシーに断って、
中抜けさせてもらう。なべさんもしかり、だった。
まったく今回のこの人の、赤坂のスタジオで一言吹き込み、
渋谷のNHKでちょっと構成台本書き、という合間を縫って
舞台に立つ、その情熱には頭が下がる。
大荷物を下げて、開田夫妻、オノ&マド夫妻、しら〜に
送られてタクシーに乗り込み、事務所へ。
届いていたゲラに、19w×48l(400字詰め原稿2枚強)
の不足分を書き足す作業。
1時間でなんとか仕上げ、FAX。
トンボ切ってまた、下北沢に帰る。
劇場、ちょうど第一陣が分福に向かうところ。
荷物持って、先陣を務める。

三々五々人が揃い、さて、ハッシーの挨拶。
前公演のプロデューサー、シャララのN社長も大満足で
帰っていったそうな。
乾杯(あぁルナ方式で、みんなが立ち上がり、全員グラスを
持ってぶつけて回る)して、あとは解放感と疲れで
グダグダに。テリー、舞ちゃん、あやさんなどと話す。
あやさん、『ラブゲッチュ』ではまだお嬢様に見えなかった
乾ちゃんが、今回はお嬢様に見えた、と褒めていた。
ただ、今回は乾ちゃん、本当に役をつかむまで迷いが
あったようで、後で少し感情が解放されて涙も見せていた。

例によりあちこち回って、話をしたり乾杯したり写真撮ったり
撮られたり。早さんの奥さんが来たのには盛り上がった。
2時過ぎ、岡っち来てから、オノと岡っちと
立ち話したり。yukkoさんも来ていた。
はれつさんが舞ちゃんと話し込んでいるのを見て開田さんが
「大変だ、ハッシーがヤキモチを焼く、オノさん、救出に行け!」
「ラジャー!」
とすぐオノが割り込んで、はれつさんは不満そうな顔だった。

テリーが今回は本当によかった。
ある意味ルーティンな悪役を楽しげに演じて光っていた。
もやしも、しどころが台本上ではない役を見事に目立たせて
鉄板の笑いもとっていたし、由賀ちゃんの不良は新しいキャリア
を彼女に与えたと思うし。それぞれ充実したのではないか。
ビデオ撮影のことも依頼して回る。
圭介、なべさん、由賀ちゃん、里中くん、麻見さんなど
続々と参加希望者出る。これもこの舞台の楽しさをもっと
延長したいという故、だろう。

赤英を定番で菊ちゃんがエロ仕掛けでオタオタさせる
一幕になったあたりから、みんな三々五々、そこらに倒れ始める。
マドも階下でつぶれている。
5時半までの貸し切り(まったく、分福への早さんの顔のおかげ)
だが、5時ころ、そろそろ切り上げるか、と、オノに告げ、
ハッシーと握手して開田夫妻と出る。
分福の店長から“次の公演のときもぜひ”と挨拶された。
タクシー、今回のチケット代バックで。
5時半、帰宅。
最後までつぶれなかったのはまあ、歳にしちゃ上出来。
さて、祭も終わり、次の祭まで、仕事々々。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa