裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

金曜日

帯にmixi、たすきに長し

やっぱりデザイン変更以来使いにくい。

※社会派くん対談 大和原作

朝9時起床。
朝食、ラ・フランスとスチューベン、
ブロッコリスープ。
亀田興毅の謝罪会見、マスコミ側の質問が
いじめの如く響き、母(一般大衆代表)など、いっぺんで
興毅びいきになってしまっていた。
上げて、降ろして、また上げて、か。
さすが自在なものだ、と笑う。

朝日新聞社から最後の校閲あり。
正確を期すための情報をひとつ入れて、なおかつ
行数増やさず、いかにも“ここ、字数調整しました”と
わからぬよう、うまくカムフラージュする作業。
次に書いた原稿の掲載早まる由、次の書評用にいま読んでいる本を
急いで読了せねばならず。

入浴、全身の寝汗、脂落として快適。
朝の入浴はこの爽快さがあるからたまらない。
ただし天候は雨天、体の自由利かず。
日記つけ、メールやりとりいくつか。

昼は珍しく弁当。シャケと卵焼き。
大根の味噌汁を作って啜るが、全身汗が吹き出て、
もう一回風呂使う騒ぎ。
湯槽の中で林家正蔵の小話をCDで聞く。
彦六の正蔵と言えば私のベストは『年枝の怪談』だが、
あの後半部分というのはホラーとしてもう少し何とかいじりようが
あるのではないか、とか考える。ある意味、正蔵のは
アンチクライマックス的な面白みがあるのだが、
拍子抜けする聞き手も多いだろう。

3時半、バスで新宿、そこからタクシーで渋谷。
雨で混んで、五分遅れで時間割。
K田くん、村崎さんとで『社会派くん』対談。
もちろん亀田一家からJACKJACKの青木堅治にいたるまで
取り上げるが、一番のテーマのようになったのは新興宗教・紀元会の
リンチ殺人。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071018-00000011-gen-ent
↑しかし、Yahoo!ニュース、これを“エンタテインメント”の
ワクで取り扱いますか。

事務所に帰り、オノと来年の事務所移転のことなど少し。
徐々に具体化させていかねばなるまい。
原稿、大和のマンガシナリオ一本。

と学会MLで大槻教授のサイトのことが話題に。
http://ohtsuki-yoshihiko.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/93_wikipedia_d5cb.html
特別賞として送った切り絵のことが話題に出てきて、
懐かしい(このサイトでの指示を受けて、誰かもうこの項目を
削除してしまっている)。これを切ってもらったのは、
まだ池袋文芸坐のル・ピリエがあった頃、そこでやってた快楽亭の
落語会だった。

大槻教授に特別賞を贈ろうということになり、副賞の賞品は
何がいいかと会でも悩んでいたときだったので、ちょうどいいや、と、
私が紙切りの林家小正楽(現・正楽)師に頼んで、切って貰ったのだった。
「私と宜保愛子がお金の山を前に論争しているという切り絵でした」
と教授は言っているが、正楽さんが切ってくれたのは“金の山を
前にしている宜保愛子の前に突如現れて怒りの拳を振り上げる
大槻教授”であった筈で、つまり
「『と学会』は、私の宜保愛子批判は金儲けのためと『表彰』したのです」
というのは、全く教授サイドの”自己認定”であるのだが、被害妄想ではないか?
それにしても、うちの会もぞろっぺえで、何の説明も加えずに
贈ったのが悪かったが、説明もないのに自分と宜保愛子、と
すぐわかったというのは、正楽師匠の腕の確かさであろう、と
当時と学会内で話題になったものだった。
「送り返した」
とあるからには、事務局にあるのか?
あるのなら次のトンデモ本大賞で発表したいところだが。

気圧乱れ甚だしく背中が痛む。タントンマッサージに行き
一時間揉んでもらう。初めての先生。かなりきつく揉み込んで
くれた。

バスで帰宅、最近は夜のバスのムードにすっかりハマっていて、
バスで帰れない日は残念に思うほど。
帰宅して、母に頼まれた柴崎コウのCDを渡し、サンマで
晩ご飯。あまり脂が乗っていないのが残念だったが、やはり
サンマはサンマで美味し。

自室で黒ホッピーに切り替え、ビデオで
『蝶々失踪事件』(久松静児監督、1942)を。
冒頭に被害者と容疑者がアルバムとナレーションで紹介されるという、
非常にモダンな作り。ミステリ映画としての評価は必ずしも
高くないようだが、昭和22年という製作年を考えれば、
よくまあここまで作ったもの、と感心したい。
戦後生れのイメージとしては終戦後2年目の東京や大阪など
まだ一面焼け野原だったのではないかと思うが、もうちゃんと
“都会”に復興しており(まあ、そういうところばかり撮影
しているのだろうが)、映画も大阪・京都・東京の三都を
結んで展開するなど、都会的なセンス横溢。
都会的すぎて、“横溝正史らしくない”という感想がどこかの
ブログであったが、原作の『蝶々殺人事件』(映画が“失踪事件”
になっているのはGHQの強制による)は驚くほどモダンな
作風で、金田一ものでしか横溝を知らない人には、同一人物が
作者とは思えないかもしれない。人によっては(たとえば坂口安吾)
これを横溝の最高傑作、とするくらいで、これと『本陣殺人事件』を
平行して連載していたのだから、作家の最盛期というのは
まさにデーモンがついているものなのかもしれない。

しかし、映画はやはり物資不足下での製作はあらそえず、録音がひどい。
そのため都会的センスな会話で推理が進行していく作品なのに、
その肝心カナメな会話が聞き取りにくいことおびただしく、
鑑賞していて非常にくたびれる(前に見たときはそれで途中で
やめてしまった)。まあ、犯人はすぐわかるが。
ちなみに蝶々(プリマドンナ)は母もの女優になる前の三益愛子。
後年、同じ原作者の『犬神家の一族』に息子の川口恒、娘の川口晶が
出演しているのも縁か。

由利麟太郎を演じている岡譲二は額が広く、ちょっとコンラート・
ファイトを思わせる知的二枚目で、そのイメージのせいか名探偵
役者として売っていた。なにしろ、由利先生と金田一耕助と
明智小五郎を全て演じているんだから凄い。果ては等々力警部まで
演じている。ポワロ役を当たり役にしたデヴィッド・スーシェは
それ以前のポアロ映画でジャップ警部を演じたことがあるが、
わが日本にもそういう役者がいたとは。もっとも、誰を演じても
同じ演技だったが。

あ、そうか、と思ったのは、戦後すぐの探偵映画ブームが終りかけの
ころ、この岡譲二が名探偵として出てきて実は犯人、という作品
(トリックは原作に準拠)があり、観たときには大したトリックでも
ないと思っていたのだが、あれはこの時期、名探偵と言えば岡譲二、
というイメージが観客の脳裏に厳然としてあった時代の映画で、
今で言えば石坂浩二や田村正和が犯人、というくらいの、配役に
おけるトリックだったのだな、ということであった。
ホッピーの酔いが回り(マッサージのせいだろう)、
12時前にはもうベッドに入る。

※写真は無声映画『非常線の女』の岡譲二。相手の女優は田中絹代、監督は小津安二郎(!)

Copyright 2006 Shunichi Karasawa