裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

23日

火曜日

ピポロピー絶体絶命

どういう意味かは本文参照。(元ネタは『ペネロッピー絶体絶命』↓)
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※朝日新聞ゲラチェック デジタル購入ナビ原稿

韓国の忍者養成機関の夢。
養成された忍者は、まず北朝鮮の施設にもぐりこみ
相手をこちら側のスパイとして寝返らせる工作を
するのだが、ここで大半が逆にチュチェ思想にかぶれて
逆に寝返ってしまうという。
ここで解説文が(夢なのに)入って、
「一概に言って、訓練生として優等な者ほど、他の訓練によって
感化されやすくもあるのである」
と。夢の中で思わず笑ってしまった。

9時起床、髪も洗わず朝食。
ブドー(スチューベンなる種類。大変甘い)、ラ・フランス、
バナナ、いずれもちょっとずつ。
コーンスープ。

比内鶏燻製偽装事件だが、一羽30円くらいの廃鶏を
使って作っていたそうである。
私も実はこの比内鶏燻製は何度も買って食べていた。
好物だったと言っていいかもしれない。
赤ワインのつまみに最高だった。
「肉にしまりがあって固いのが比内地鶏の特長」
と袋に印刷してあったのも覚えている。
噛みごたえがあり、噛みしめるとじんわり鶏の味が滲み出てきた。
10年間これでやってきた、ということは人気商品だった
のだろう、確かにそこらのブロイラーにはない味だった。
そもそも、昔はカシワなんてのはこんなものだったのである。
昨今の、指でもちぎれそうな軟弱な鶏肉とは違うのである。
ブランド信仰で味もわからず比内鶏という名称をありがたがって
いる連中が怒っているだけで、実はこの廃鶏燻製ファンは
多かったのではないか。

問題は値段を高くしていた、ということで、
これからも出来れば“廃鶏燻製”という名でいいから、
原材料の値段に見合った安さにして作り続けてくれないかな、
と秘かに思うのである。
“廃鶏”がダメなら“ひね鶏”ならどうか。
これなら“比内鶏”と音も似ているし。

2時まで日記つけ、打ち合せ連絡などいろいろ。
昼は握り飯(オカカ)。根深汁を作ってそれと共に。
このごろ、昼飯に金がかからないでよし。
モノカキとしては外に出ていろいろ見聞しないと
いけないのだけど。

3時、バスで渋谷に出勤。
NHK前のコンビニであずきアイスバーを買う。
事務所、オノ休みでバーバラ来ている。
彼女とは本の話ばかり。
明後日、彼女と楽工社打ち合わせ確認。

朝日新聞書評のゲラ、もうFAXされてきている。
赤入れ、ちょっと考えていくつか文章直す。
新担当のK氏、なかなかヨイショ上手である。
それから、デジタル購入ナビコラム原稿。
お題は『マグマ大使』で、こないだビデオで見たのは
この原稿のためであったが、その内容とは関係ない
ことを書く。

で、その中でマグマ一家を呼ぶ笛の音を
「ピポロピー、ピポロピー」
と書いて、いったい、この笛の音で何件、Googleでヒットするかと
思ったら、たった三件(しかも二件は同じ文章、一件は2ちゃんねる)。

ええーっ、とショック。
昔、つきあっていた彼女も“ピポロピー”派だったので、
日本中、このピポロピーで認識していると思ったのだ。
こんな少数派だったとは。

じゃあ、あれは正しくは何と表現するのか。
「マグマ大使 笛の音」
で検索したら、いや、出るわ出るわ。
「ピコピコピー」
「ピロリロリロ〜」
「ピッピコ・ピーコ・ピーコッコ」
「ピピピピピーッ」
「ピロホロリ、ピロホロリ」
「ぴょろろりーぴょろろりーぴょろろりー」
などなど。mixiでコメントを求めたが、同じ聞き方が
ほとんどない。“ピッヒョロピー”“ピロキコピー”
“ピロピピー”“ピロポロピー”などなど。
……うーん、みんなそれぞれ自分の聞き方で聞いてたってわけか。
しかし、私には何度聞いても
「ピポロピー、ピポロピー」
である。それ以外には聞こえない。認めない。
いや、認めてもいいかもしれないが納得しがたい。
「ピッピコ・ピーコ・ピーコッコ」
はないだろう、いくらなんでも。

7時45分、書き上げてメール。
それから雑用少しすませて、
バスで帰宅。ちょうど、バス停に到着したときに
乗るべきバスが来て、いい気分。

サントクで買い物。
晩飯は豚肉のおろし鍋。
豚バラしゃぶしゃぶ用の肉をごま油でさっと炒め、
昆布だし、ニンニクひとかけ、酒、そして大根おろしを
加える。他の具は干し椎茸、エリンギ、クレソン。
ポン酢で食べたあと、うどんを投入して、
昆布だし醤油に一味とうがらしを加えたつけ汁で食べる。
結構なお味。
クレソンを大量に消費した。

ビデオで宇野信夫原作、森一生監督、犬塚稔脚本、勝新太郎主演
のピカレスク『不知火検校』(1960 大映)を見る。二度目。
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脚本の犬塚稔はなんと今年の9月17日まで存命だった
(享年106歳!!)。キャメラマンの円谷英二(当時英一)
と組んで、長谷川一夫(当時林長二郎)のデビュー作『稚児の剣法』
を1927年に監督・原作・脚色している。
『不知火検校』製作当時すでに大ベテランだったわけで、
いや、そのストーリィの“わかりやすすぎ”なこと、見事なり。
もっとも、これは監督の森一生がかなり意識して演出したのだと思う。

杉の市(勝新)が鈴ケ森の近くで癪を起こした男(因果師〜見世物
小屋の興行師〜で、田舎に骨なし女がいると聞いて二百両で買い
に行く、という設定がグロテスクでいい)を介抱するふりをして
殺すが、それをやくざの生首の倉吉(須賀不二男)に見られて
しまう。ところが杉の市少しも騒がず、奪った金の半金の百両を
やって口止め。倉吉はあまりの気前のよさに、つい、江戸に帰ったら
俺のところに訪ねて来ねえ、と言い、知り合いというしるしを何か
いただきたい、という杉の市の言葉を信じて、守り札を渡してしまう。
倉吉を見送った杉の市、なにくわぬ顔で、殺した男の手に
その守り札を……という件りに大笑い。

杉の市の最初の殺人が鈴ケ森で、やがて最後にこの杉の市が
ここに処刑されるために戻ってくるだろう、という暗示も、
因果応報でよろしい。ところで、杉の市の殺人法はまるで
藤枝梅安と同じである。勝新は仕掛人シリーズを見てどう思って
いただろうか。

とにかく日本映画でこれほど悪の限りを尽くす主人公は
他には『憲兵と幽霊』の天知茂があるくらいだろうが、
その悪事が常に用意周到なのも、盲目というハンディキャップが
あるため、という悲しさがついて回る。検校になってから、
江戸一の美女と噂の女(近藤美恵子)を自分のものにするのだが
盲目なのに美形にこだわるというのも悲しい。
そして、その女が若い指物師と浮気をしていることを知ると、
わざわざその指物師を指名して長持を作らせ、女共々男を殺し、
その作らせた長持の中に死体を隠す、というダンドリのよさである。
見ていて、つい、“見習わなくては”と思ってしまったほどだ。

役者は女優が中村玉緒(たぶん出演している映画の中で一番美しく
撮られている)、近藤美恵子など。男優が須賀不二男、安倍徹の
他、丹羽又三郎、鶴見丈二など。子供のころから、盲目の杉の市に
こきつかわれている少し足りない留吉役の丸凡太がいい。
この人、同じ宇野信夫原作・森一生監督の『怪談蚊喰鳥』でも
少し足りない小坊主の龍達の役をやっている。足りない役役者、
というのも凄いなあ。

*写真は勝新が中村玉緒を犯すシーンだが、
「実際の商品イメージとは異なります」
って文句がおかしい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa