裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

水曜日

蛋白尿症の大蛇退治

つい口をついて出たので洒落になってないとか言わないように。

※大和書房原稿&マンガ原作 ホッピー会@下北沢

朝方、寒くて目が覚める。
エアコンを暖房にして入れる。
8時半、入浴。
9時、朝食。スチューベン、リンゴ、それにYくんの奥さんが
焼いたパン、スープ。

日記をつけ、いくつか資料用の本を読む。
高橋お伝のことをちょっと必要あって調べるのに、
昨日事務所の書庫から引っ張り出した『阿傳陰部考』(萩書房)
という凄いタイトルの本。もともとは人類学誌『ドルメン』
に掲載された論文らしい。南方熊楠の蔵書目録にもこの
陰部考の載ったドルメンがあった。
伏せ字だらけの本であるが、
「詳細に云ふと  の附いたまゝの外  皮膚をくり抜いて
  と  及  附属器に腎臓を附けたまゝ保存してある」
などという伏せ字なので、大体は想像がつく。
あまりに伏せ字を多くしたせいか、校正者も混乱したらしく
「云ふのであっ 。」
などという、何で伏せ字にしたのかわからない場所まである。

元本がいつの発行なのか記載がなく(本書は昭和50年の復刻)、
元本ではホルマリン漬けにして保存してあったお伝の陰部の写真が
校正者によって除去されてしまったので、本の末尾に“写真請求券”
というのがあり、これに住所を書いて出版社に送るとナマ写真が
送られてくるから、それを貼り付けろ、と書いてある。
この本は復刻なので、すでにその写真はページにちゃんと貼り込んで
ある。午前中に見るものでなし。

筆者の清野謙次という人は京大教授。
考古学者であり医学者でもあり民俗学資料コレクターでもあって、
星新一の祖父・小金井良精と日本人起源説で論争したり、
どの分野でも当時にあっての世界的な業績を残しているが、
コレクターの欲望にかられて窃盗事件を起こし有罪判決を受け京大を追放、
にも関わらず中央に招かれて戦時中は弟子の石井四郎と共に
731部隊の運営に尽力、終戦と共に戦犯になるかと思われたが
731部隊時代に異常な熱意で収集した膨大な人体実験データを
欲しがったアメリカ軍との間に秘密取引が行われ、
見事戦犯追求を逃れている。
コレクションへの執念が身を滅ぼし、かつ身を救った例だろう。
こういうこと調べて勉強にはなったが、結局資料としては
あまり役に立たず。

昼は味噌の握り飯。
原稿執筆、大和書房の本の。結局これで4時半まで自宅。
外はもう暮れがかっていて、十三夜の月、夕闇の空に美し。
バスで新宿、そこからタクシー。
事務所で大和書房のマンガ原作一本。

晴乃ピーチク氏の訃報を聞いた。
お仕事はしたことがなかったが、昔、伯父の事業についてのある件で
お話を伺ったことがある。業界の顔きき、という感じだった。
しかし、子供のころ聞いていた東京漫才の人たちがほぼいなくなって
しまったなあ。青空はるお・あきおなどは私の中では新顔に入るのだ。

6時半、家を出て下北沢。
ホッピー会。
もともとは幻冬舎のトテカワがホッピーを知らないというので
じゃあ飲ませてやろうと企画したものにいつの間にか
参加者が増えていったもの。
一人都合で減ったが、それでも談笑夫妻(+赤ちゃん)、
オノ&マド、アスペクトのK田くん、それにトテカワ、私の8名。
あぁルナの打ち上げで使った『分福』で。

みんなまずホッピーで乾杯、フワリさんの誕生祝いも兼ねて。
談笑が黒ホッピーをぐいとやって
「ダメ人間の味がしますねえ」
と。確かになあ、学生時代阿佐谷のホルモン焼き屋で飲んでいた
時分は、マトモな人間はビール、ダメ人間がホッピー、もっと
ダメ人間が梅割焼酎を飲んでいた。

遅れてきたトテカワにさあ、ホッピーホッピー、とグラス(中身)
とホッピーを渡すと、グラスの中の液体を見てトテカワ、
「これは水ですか?」
と凄いボケ。預けてある某人の原稿、感触はすごくいいが、
さて上の会議を通るか。談笑と二人、大いにトテカワに勧める。
談笑“やっとあの人が世の中の役に立つんですから”と。

酢もつ、鯨ベーコンなんてものを食べつつ、雑多窮まる話題で
笑いながら。ただし体調、気圧のせいか必ずしもよろしくなし。
焼酎が金宮(荻窪で飲んだ魔の水)だったせいかもしれぬ。
10時ころ、談笑親子帰り、残りのメンバーで虎の子。
『磯自慢』をクイクイやりつつ、こっちも馬鹿馬鹿しい話。
K田くんが“やばい、携帯を分福に忘れてきた!”と
駆け出していくが、オノが試しにかけてみたら、何とマドの
ポケットに入っていた。みんなひどい酔っ払いだ。
11時半、私はタクシーで帰宅。金宮に祟られた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa