裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

日曜日

トモロヲ・ネバー・ダイ

田口、死ななかった。
             (『プロジェクトX』風)

※NHK出版ゲラチェック 朝日新聞ゲラチェック DVDデラックス原稿

8時半まで寝る。
なんとか8時台に起きると早起き、の気分になる。
入浴、カカトを削って、9時朝食。
ピオーネと小バナナ、ブロッコリスープ。

日曜で静か。
飛行機の編隊が飛ぶような大きな爆音あり、あわてて
庭に出てみるが影もなし。

昨日の打ち合せに従い、連絡事項いくつか済ます。
一件、こっちの勘違いあり、訂正。
やはり最終確認は必要。
構成案もちょっと考えるが、当日の流れがそっくり
イメージできるものになる。ちょっとゾクゾク。

2時半、バスで新宿へ。
遅めの昼食を、と思うが、例によって何を食うか、
蕎麦屋、カレー屋、丼もの屋などの前に立っては
イヤこれではない、とウロウロ彷徨す。
結局、思い出横丁入り口の回転寿司で、アヤシゲな
ネタのものをいくつか。カレイなんて、干物をもどしたかの
ような食感だった。

またバスで渋谷。
事務所でまず、ゲラチェック。
『アニメ夜話』のものに赤入れ、さらに朝日新聞の書評に
赤入れ、行数調整。やりながら、快楽亭ブラックのCDを聞く。
仕上げて朝日のはファックス、アニメ夜話のはいつでも渡せるよう
事務テーブルの上に。

原稿、昨日書けなかったDVDデラックス。
たまたま、こないだ打ち合せたときの図版ブツが
編集のKくんが人から借りたもので、今となってはかなり貴重な
もの(古書価も高い)であり、亡くしたりすると困るから
同系統の手持ちのものでやります、と言っておいたのだが、
運のいいことに全く同じものが手持ちの資料の中にあった。
それで書き上げ、K子にメール。

昨日の大和書房の原作についてもメールでK子から
問い合わせ、資料の絵がないか、という。
映画関係だったが、DVDが出ておらず、LDしかないもの。
事務所のビデオ棚からそのLDを探しだして、
当該のシーンの画面を携帯で撮影して写メ。
便利な時代になったものだ。

肩が張る、というより痛苦しい(そんな日本語はないが、
そういう感じ)になったので、6時45分、タントンに
行き、揉んでもらう。待合室で待っていたら、
背の高い老人が“ヒャー、効いた〜”と言いながら
施術室から出てきた。どこかで見た顔だな、と思ったら
ノッポさん(高見映)。やはり独特のオーラあり。
あの身長(181センチ)で、ここのベッドに寝られたのかな?

終って、目の前のバス停から中野行きがちょうど来たので
飛び乗る。日曜の渋谷で遊んでいたのだろう、エロい格好の
おねえちゃんたちがいっぱい乗っていた。
新中野で下車、サントクで買い物。

帰るとK子がまだ資料が足りないというので、
YouTubeから、一瞬だったがそれの映る映像を何とか探しだして
提供する。いや、しかしホント、便利な時代に(以下略)。
晩飯はまたタラのあらで(夜9時過ぎだとあまり食材も残っていない)
バター煮、ハマグリも加える。ワインを抜こうとT字型の
栓抜きをネジ込んでウン、と力を入れるがいっかな抜けず。
発作的に最新式のをアマゾンの通販で注文してしまう。
結局、ホッピーで。

『マグマ大使』のサソギラスの回をビデオで見る。
最初のが『狂人と水爆・毒ガス怪獣サソギラス出現』という
凄いタイトル。放映が1967(昭和42)年3月。
世界から水爆を廃棄しようという国際平和会議
をサソギラスが襲い、参加者の神経を冒して“腑抜け”(番組中
の表現)にしてしまう。もっとも、タイトルの“狂人”は、その
腑抜けになった参加者ではなく、それを奪った秘密結社MM団
の総督、ハルヒマンのことで、アース様がこの男のことを
“きちがいじゃ!”と呼ぶんである。

ストーリィは爆弾を積んだ軍用機をMM団の幹部シュナイダー
(若ききくち英一)がが乗っ取り、水爆を手に入れたハルヒマンが
ゴアと手を組むという話。露骨に『007/サンダーボール作戦』を
いただいたストーリィだが、逆にこっちの方が007シリーズを
先取りしている設定があって、驚いた。

まず、ハルヒマンがハゲ頭であるという設定、これは今見ると
スペクター首領ブロフェルドがモデルに見えるが、実はブロフェルド
がハゲという描写はそれまでの007シリーズにはなく、
『007は二度死ぬ』で、ハゲ頭のドナルド・プレザンスが
演じて初めて定着した設定。ところが、『二度死ぬ』の公開は
この年(67年)の6月(イギリス、アメリカも同様)。
3ヶ月の差でこっちの方が早い。もっとも、資料はそれまでに
あちこちで公開されていたとも考えられるが、そのハルヒマンが
「整形手術を繰り返して誰も本当の顔がわからない」
というのは、『二度死ぬ』の次々作である『ダイヤモンドは永遠に』
の設定であり、この製作・公開はずっと後の1971年
である(原作は1956年刊だが、ブロフェルドは出てこない)。

『ダイヤモンド〜』のブロフェルド(チャールズ・グレイ)は
ハゲではないが、007並に隠密行動をとり、女性に化けて
追跡をまいたりする。大柄でいかつい顔のグレイが女装する
シーンが大笑いなのだが、なんとこのマグマ大使では、
ハルヒマンが女装して新幹線に乗り込み、警察をまく
というシーンがある。007シリーズの製作者たちはマグマ大使
を見ていたのか? と思うくらいである。

しかもこの話、007ばかりでなく、世界情勢をも先取りして
いる。1967年6月、中国が初の水爆実験に成功、
米英ソに続く第四の保有国になって世界を戦慄させた。
これで水爆の廃棄論が世界でなされるようになったが、
この番組はその状況を予言していると言えなくもない。
もっとも、ゴアさえも恐れる水爆を人類が持ったのなら、
それを使ってゴアをやっつけちゃえばいいのに、と
子供心にも思ったものだったが。

10時、NHK教育で『21世紀を夢見た日々〜日本SFの50年〜』
を見る。前半は貴重な映像資料とかがあって、かなり興味を
もって見られたが後半はまるで『プロジェクトX』風きれいごと。
『宇宙戦艦ヤマト』から始まるアニメ、コミックなどの
ブームの源流にSFがあるのだ、という、間違ってはいないが
かなり牽強付会な構成は、何度も“そうか?”とツッコミを
口走ってしまう。まあ、それはまだいいが
「ヤマトはSF作家が作ったものだったんですね」
というのに至っては我田引水が過ぎるというもの。
確かに設定だのデザインだのはSF関係者のものだったろうが、
最初、低視聴率で打ち切られた作品を、ねばりにねばって
大ブームにまでした牽引者は、やはり西崎プロデューサーで
あった(私はそのあたり、彼の奮闘ぶりやSF関係者の冷淡さも
直に見ている)。

西崎氏にはSFマインドがない、とはSF関係者の口を揃える
ところで、それは正直正しいと思うが、なら、やはりあのブームは
SFとは関係ないところで起こったものだったことになるだろう。
実際、本格的ブームになった『さらば宇宙戦艦ヤマト』以降は、
スクリーンに泣きじゃくりながら花束を供えたりしていた、
SFのエの字も知らない女子高生ファンたちがあのブームの
中心者だった(当時SF者だった私が舌打ちしながら見て
いたんだから間違いない)。

眉村卓氏も番組で言っていたが、70年の万博をピークに、
SF作家たちのモチベーションは低下してしまった。
それから先のSFは、周辺分野のアニメやコミックの軒下を
借りて生息してきた、というのが正直なところではないか?

mixi日記のコメントに辛辣な意見があった。
「SFは相撲と同じ。もはや若者の人気はない。
NHKだけが持ち上げ、関係者が勘違いしているだけ」
ここまではさすがの私も言いきれないが、まず妥当な見方だろう。
それにしても、小松左京氏、鏡明氏などの現在の容貌を見て
ちょっとショックあり。
歳々年々、人同じからず。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa