裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

月曜日

沖すき! 魔女先生

♪あなたに鯛をあげましょう〜(エンディングテーマ)

※帰京 『週刊現代』コラム原稿

朝、9時まで寝ている。
やっと何日かぶりに寝坊が出来た。
2階の朝食レストランへ。
眠田夫妻も来ていた。
メニューは大したことなし。
台南の統茂温泉会館の朝食を思いだす。
うまかったなあ。

部屋にもどり、入浴、メールチェックなどし、
11時のチェックアウトまでだらだら。
帰りの飛行機は4時20分である。
早めようかと思ったが、買い物、連絡などの予定を考えると
そうゆっくりでもない。

ホテル下の喫茶店で原稿書き。
講談社『週刊現代』の漫画評。
1時間ほどで書きあげてメール。
さわやかな七月の札幌を少し散策。
昼をどこにしようと思い、
狸小路1丁目のラーメン『SAPPORO零』なる店に入る。
炙りチャーシュー(1枚100グラム)と、濃厚そうな
スープの外見にちとギョッとしたが、
濃厚なのは脂でなくコンドロイチン分だったようで、
むしろ味としては薄味系。
あんがい食べられた。

そこで気がつく。
腕時計がない。
考えてみれば、朝からホテルの室では見かけなかった。
カバンの中にもなし。
どうも、昨日の寿司屋か蕎麦屋で外して(酔うと腕時計を外す
クセがある)、普段はシャツの胸ポケットに入れるのだが、
ゆうべ着ていたシャツには胸ポケットがなく、酔ってモーロー
とした意識でどこかにしまったつもりで、店に置いてきて
しまったのだろう。

念のため後楽園ホテルに電話してみるが、忘れ物とかはない
という返事。まあ、どうせファンにタダで貰ったものだから、
と諦める。ふと、見ると視線の先に質流れ専門店あり。
ことのついでだ、と、そこで4000円のスウォッチ買って
身に付ける。腕時計なくすクセのある身に高いやつは駄目。

それからセコハンシャツ専門店に行き、柄の面白いシャツを
二枚ほど買い、タクシーで道庁北門の角、からさわ薬局。
豪貴にあって、ちょっとクスリ買い込む。
「お母さん、バテてなかった?」
と。こないだの札幌行きのとき、孫二人の相手をして
くたくたになって帰ってきたのであった。
台北の漢方街の話をする。彼もついこのあいだ、
広州に行き、漢方生薬のドカ買いをしてきたらしい。
いろいろ見せてもらう。最近は滅多に出ないという
紫河車(人間の胎盤)も見せてもらった。
その地方じゃ屋根の上に並べて干しているそうである。

出て、バスに乗って新千歳へ。
1時間20分、ほぼグーと眠って、目が覚めると目的地。
これで1000円(新宿〜成田もほぼ同じ時間で3倍の値段)
は安い。

自動チェックインして、みやげもの屋をぶらつき、
4時20分、予定通りのフライトで6時、羽田着。
機内ではずっと竹書房文庫『フェティシズムの世界史』
(堀江宏樹)読んで過ごす。
浜松町までモノレール、そこからタクシー。
タクシー内で週刊現代から電話、二行不足とか。
やはり旅先だとこういうポカをするな。
新中野にやっとたどり着いて母の室で軽い夕食、旅行報告。
心配していた旅行中の下着の山、K子が洗濯しておいてくれたので
ホッとする。

自室に戻り、たまっているメールの返事など出しつつ、
ホッピー。サカナは玉井(ユィジン)のマンゴー市場の
入り口でお姉ちゃんたちから買った樹子の蔭油(黒豆醤油)漬け。
これがまことに酒のアテによろしく、ついホッピー二本、
過ごしてしまった。

ジェリー伊藤死去の報。
79歳。訃報を伝える記事に代表作として『モスラ』が取り上げ
られているのにちょっと微笑。いい時代である。昭和だったら
よほどのことがない限り、怪獣映画を代表作とは記すまい。
ガメラシリーズと異なり、基本的に徹底した悪役というものを
出さない(悪役たちもどこか哀しい)東宝特撮映画の中で、
彼の演じたネルソンと天本英世のドクター・フーのみは
芯からの悪役としてわれわれの印象に強烈に焼き付いた。
しかし、その悪役・ネルソンの、『モスラ』における台詞
「皆サン、よくいらっしゃいマシタ。……イマは、原子力の時代
にナリマシタ。……デモ皆サン、奇跡はムカシのことでショウカ?
ソシテ、神秘はコトバだけのものでショウカ? ……イーエ、
奇跡は今でもアリマス。神秘も夢ではアリマセン」
は、特撮怪獣映画というものの存在意義というものを一言で
言えばつまるところこれである、という、東宝特撮のエッセンス
であった。なお、東宝特撮によく顔を出していた新劇の神様・
千田是也は彼の伯父である。

怪獣映画以外では、岡本喜八の『江分利満氏の優雅な生活』
の、江分利家に下宿している星条旗新聞の記者、ピートが
印象深かった。家長という位置をずんと日本人的に背負っている
江分利が、そのつらさ、思いの丈、そして、子供っぽいが
「おれの人生はまだまだこれからなんだ」
という夢を語れるのが、アメリカ人であるピートにだけ、
という皮肉がきいていた。実際にジェリー伊藤は原作者・
山口瞳の義理の弟。日本人のイメージするガイジンの
原形みたいな人だったが、父親はれっきとした日本人で
アーニー・パイル劇場の振付師だった伊藤道郎。
その次男で本名がジェラルド・タメキチというのが嬉しい。
純日本人とアメリカ人のまさに混交(為吉というのは祖父の
名前からとか)。

深夜近く、某雑誌から電話、明日3時校了の原稿の
注文、しかしながら都合ではなくなるかも、というもの。
一応受けて、1時就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa