裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

8日

木曜日

打ち合わせ三連星、ナオシ三連星、の記

朝9時まで寝てしまった。食事のベルで起こされて、あわてて朝食。ナシ、バナナ、豆のスープ。今日も気圧は非常に心地よし。とはいえ、気圧高調だとやはり仕事も上っつくらしく、昨日出した原稿中二本にナオシの指示あり。苦笑。ナオシはともかくも、まずは昨日半分書きかけの『薔薇族』原稿。

古典籍を引き写すのはなかなか大変。しかも途中でいきなりワープロがダウンしたり。11時に完成させてメール。

そのメールがなかなかうまくいかず(コピー&ペースト機能の不具合)ちょっとドタバタ。自宅で茶漬け(今日はタラコ)かき込んで12時半、出勤。

外は台風一過で空澄み渡り、高気圧の大気がレンズの役割をしているのか、カッという陽射し。夏に戻ったよう。すぐフィギュア王原稿ナオシに入り、出るまぎわの1時半には完成するが、ちょっと気になってナオシ原稿チェックしてみたら、最初の原稿で引っかかったのと同じミスをしていたことに気がつき、ダアとなる。

一旦抛擲して時間割。
『Memo・男の部屋』編集M嬢。来週の新橋『あら皮』取材について、事前打ち合わせ。まあ、イチニンマエ4マンエン(×2)の肉を食う取材なので、事前打ち合わせなどという大層なことも必要か。なにしろ肉代に金がかかるので、他の皿はできるだけナシで、というビンボウなことになるが、
「なにか一品くらいなら、オードブルで」
と、なんだかいじましい。豪勢なんだか貧乏なんだかわからぬお仕事だな。打ち合わせの最中に幻冬舎Y・T(Tは“トテカワ”)さん来る。

タッチ、という感じで席を移り、今度は立川談笑の単行本打ち合わせ。
「真打披露パーティのときはドレスアップしてきてね」
「なに着ていけばいいでしょうか」
「イブニングドレスだよ、そりゃ」
「えーっ」
というようなやりとりあって、ほどなく談笑さん、カワハラさん来る。ちょっとバテているようで
「披露目なんてするもんじゃないですね、くたびれ果てた」
と。今になってまだ、誰某に招待状出していないとか報告していない、という漏れがボロボロ出てくるという。打ち合わせはさすが談笑で、ネタ帳と、代表作のテープ起こし原稿を持ってくる。こういった基本的なことができる落語家さんというのもちょっと珍しい方に属する。構成として、基本的にどんなツクリにするか、意見交換。
相手が談笑だと思うと、どんどんと酔狂なアイデアが出るのが不思議。酔狂といっても、要は“聞くもの”である落語をいかに“読むもの”にするか、という工夫なのだが。二人でゲラゲラ笑いながらアイデアを出し合う。実に楽しい打ち合わせになった。

快楽亭の話にもなり、アリャ大したもんだ、という話になる。
「あんな万全な落着点見つけるなんてちょっとできない」
と談之助も言っているらしい。
「波紋じゃないから名前はそのまま使えるし、除名だから上納金払わなくていいし、家元のもとに日参しなくていいし、こっちが除名されたいくらい」
とみんな羨んでいるとか。

小ブラが、まだ内師匠のいるとき、兄弟子のやっている料理屋にバイトにいき、帰る間際にまかないも食べ、
「あんちゃん、これ明日、家で食べな」
と天丼をもらったら、それもいきなりその場でガツガツ食べはじめた。
「いま食ったばかりなのに、ここで食わなくても家で食べればいいじゃねエか」
と言ったら、
「イエ、うちに持って帰ると師匠に食べられちゃいますから」
と言った、というのには爆笑。

人間、特に芸人とか役者は感心なエピソードなんてのは残らない。こういうどうしようもないヤツの方が歴史になって残る。不条理なようだが仕方がない。将来、『立川流史』が編まれるとして、弟子で最もページ数を割かれるのは志の輔にあらず談春にあらず、ブラックとキウイであろう。それは間違いない。

その他いろんなエピソード、私が聞き込んだものあり向こうの情報あり、あまりにオモシロイのでYさんに
「ブラックの『借金外道』って本を出さない?」
と持ちかける。日本全国の借金で苦しんでいる人々への慰めになる(“自分はこれほど非道なことはしていない”という)本になるのではないか。債権者が怒り出さなければ、の話だが(笑)。
「それを防ぐためにネ、巻末に金貸した人のリストを、額の多い順に並べてね、“印税は貸し高のパーセンテージに準拠しで分割してお支払いいたします”って書いておくの。比例代表制システムで」
などと、噺家を相手にするとアイデアもどんどん噺家ぽくなる。

1時間、楽しく打ち合わせして、これから家元のところに回るという談笑さんと別れ、仕事場に戻り、原稿書き。『フィギュア王』ナオシ入れ、さらに『FRIDAY』ナオシ入れる。なんとか1時間で完成。

続いてまた時間割。日テレ『セカジュ−』打ち合わせ。今度のSPは、初登場の先生も多いことから、これまでの進行含めまかされていた授業を、進行は堺・上田がやり、先生陣は解説担当、ということになるという。

変な話、人気講師を集めておいてそれは自殺行為と思うのだが、ハイハイと聞いておく。まだ、自分でいろいろ内容に口出しする立場ではない、この番組では。打ち合わせはアッというまに終わり、次の担当プロダクション(番宣番組制作)が来るまで雑談。このディレクターが『刑事コロンボ』マニアであること知って盛り上がったり。
次のプロダクションの人、5時に。ディレクターさん、無茶苦茶若い。若く見えるのだとしたらねがっちなみ。番宣用のアンケート撮られる。なんの準備もしていなかったが、しゃべりながら考えてあたかもずっと前から用意していたような答を言う。こういう才能は誰からもらったのか?

終わって帰宅、母が整理に来てくれている。朝日新聞から送られた書評用資料に目を通したり。モルガン・スタンレー商会の講演の余興クイズ用の問題を作って送る。案外手間かかって、9時半までかかる。そしたら携帯に電話で、細かくナオシが入る。外国人がお客にいるから、とか、予定していたデーブ大久保とブンブン丸池山はパーティには参加しなくなったので客いじりはNGとか、いろいろ。

一旦家に帰って、メシ。
貰いものの高級霜降り肉ですきやき。食べながら『女系家族』見る。なんでこの矢島家には、使用人とか女中がひとりもいないのか。これだけ大きな屋敷だと、少なくとも使用人の7〜8人は常時いないと用が弁じられまい。これは映画『花と蛇』見たときも感じたことで最近のドラマの特徴かもしれない。

単に画面がうるさくなるとか、エキストラの予算をケチる、といった意味合いならいいのだが、
「そういう身分の職業を出すこと自体、差別につながる」
といった意識があるのなら、もうドラマというものを作ること自体不可能になってしまっているのではないか。

食べて自室に帰り、モルガンの質問、ナオシ。今日はなんだか一日中、打ち合わせとナオシばかりやっていた印象があるな。何回かやりとりあって、OKでたのは日をまたいで1時近くになってから。ふう、と息をつき、水割り缶。

K子から“これから飲まないか”と仕事場から電話あったがこっちはもうダウン。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa