裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

2日

金曜日

後書きとアニドウ、の記

朝9時まで寝る。昨晩見た、ミュージカルに出る夢の続きを見た。続きの夢はひさしぶりである(前後編に別れた夢や、予告編つきの夢も見たことがあるが)。続きと言うより前日談か、メンバーが歌の練習をしているわきで聞いて
「なんだ、ベティ・ブープのアニメのテーマのパクリじゃないか」
と思ってシラけている夢。文句いいながら、なぜか固いゴム粘土をほぐしていた。ベルで起きて朝食、バナナとミニトマト。カボチャの特濃スープ。11時まで雑用いろいろ。

12時過ぎ出社。TBSラジオNさんから電話、10月からのラジオ出演、詳細が決まって、あと、出演の曜日のみ、木か金がいずれかになるのがもう少し後での決定となるとのこと。そう言えばそれもよく考えずに10月の予定を軽い気持ちで入れてしまっている。ちょっと青くなって調べる。
今のところ、長野の花火取材が6(木)7(金)でドンピシャ重なりである。金曜ならなんとか駆け付けられるが。

弁当を茶漬けにしてかっこむ。シャケの粕漬けと高菜のごま油炒めの取り合わせだが、うまい。シャケ粕漬けは母の自家製。2時、時間割。ミリオンYくんと、『カラサワ猟奇堂』単行本化の打ち合わせ。書き下ろしの量が問題だが、これはきちんと書いてみたくなる。

Yくんのノセ方のうまさもある。また古書店めぐりも復活させねば。帰宅、バテまだ去らず。寝転がって本何冊か拾い読む。その中の一冊、谷沢永一『人間通と世間通』(文春文庫)に曰く
「人間が、もし自分の適性なり能力なりを発揮しうる、たいへん恵まれた条件を獲得できるとするなら、それはいったい何によってであるのか、実は簡単なことで、潜在的能力を持っている人間の適性を外から認めてくれる人がいるかどうか、ということにすぎない」
「そうすると、人間の能力をうまく生かすための決め手は、その人間が成長しつつある段階において、その周りにいる人間の誰かから、好ましいと思われたかどうかにかかってくる」
要するに“若いうちは可愛げがなくてはいけない”ということであろう。

なるほど、と思う。私など、若い頃、一切そういう可愛げを持ち合わさなかったが故に20代で大苦労をした経験を持つ身にはなおさら身に染みる言葉である。が、また、その可愛げを“好ましい”と思い、その人間を見い出す人間がどれくらいのタマか、にもかかってきはしないか。

力もないどうしようもない人間に見い出されてしまったが故にあたら才能をパッとさせられないまま終わってしまった芸人などを、プロダクション時代何人も見ている。売れようとする人間は、愛嬌ばかりを四方八方に振りまいても逆効果で、これぞ自分を世に送りだしてくれる伯楽、と見定めた人間に集中して徹底的に愛嬌を見せる、まあそれくらいの判断力と自己演出は必要だろう。

5時半まで幻冬舎『裏モノの神様』文庫版あとがき原稿。この本の担当編集者のY(T)さんは若い頃私のステージを見て“いつかこの人と仕事をしよう”と思い、編集者になって、その可愛さを武器に
「私を見い出す人」
として私に見い出された、という、谷沢センセイが聞いたら混乱しそうなパターンをとっている。
人生いろいろ。

書いて送り、仕事場を出て中野の芸能小劇場、アニドウ上映会。植木さん、まるさん、さざんかQさんといった常連の姿。ひさびさに(というのも変だが)台風下でない上映会だが、不思議と台風のときの方が人数が多い。人間、多少の障害がないと発奮しないということか。それでも三々五々客が入り、最後の方ではほぼ満席の盛況となった。

植木氏から仕事上のことでちょっと相談。ひとつは私の原稿に関する件、もひとつは人材探し。

『初秋の新着Toon? 10本特集』ということで、新しくなみき氏が購入したフィルムの、今回が初上映、つまりなみき氏自身まだ完全には見ていないものばかりで、果たしておもしろいかどうかは開けてみなくちゃわからない。
『タランチュラの襲撃』のダイジェスト版に続き、なんか老け顔のアリスと人形アニメのキャラがからむサイレントのフィルム、レオ・レオ−ニの『あおくんときいろちゃん』のアニメ版(ただしフィルムが退色していて青だか黄色だかわからない)、あとアメリカやイギリスの学習アニメ。

某大手プロダクションの作った学習アニメ、メキシコの家庭における清潔の大事さを見せるもの。畑の野グソは不清潔だからやめましょう、という内容のものをディズ(あわわ)のアニメで見られるとは思わざりき。メキシコの学校とか、あるいは広場でシーツを壁にかけたスクリーンのところで巡回上映されていたんじゃなかろうか。

一応、ベティやなんかもあったがみなあまり出来のよくないもので、普通の上映会なら苦情の出るレベルだが、最近のアニドウ上映会の価値はむしろ“傑作、佳作でない故に”他ではなかなか見られないものを見られる、というところにあるのでうれしかった。こないだの『タキシード・ペンギン』は声をドン・アダムスがアテていたのに気がついてそれだけでうれしかったが、今日のレオ・レオ−ニ作品のナレーションはポ−ル・フリース(アメリカの若山弦蔵。熊のバーニィやゴ−ゴ−ゴメス警部、『空飛ぶロッキーくん』のボリスの声優)だったのを発見、それで満足。

上映会の後は例によって植木さんの先導で中華料理屋で。ぽんさQさんも加わり、いろいろ話す。ぽんさQさんのメキシコのバックパッカ−体験記、いまやっている週プレ『名もニュー』に使えるので大喜び。ビールと紹興酒でいい気分になったが、やはり最近は白酒(パイチュウ)がないと物足りない気が。

12時半。タクシー植木さんに送らる。忝なし。

帰宅してメールチェックしたらY(T)さんから素敵な内容の原稿お礼メールが来ていて感激。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa