裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

月曜日

トゥール・ダメジャン

 せっかくの鴨をワサビ醤油で食べちゃダメじゃん! 朝7時入浴、何かクラクラ感あり。朝食、キャベツ炒めと黒豆サラダ。黒豆ジュース(黒豆を茹でた汁を冷やしてクエン酸で酸味をつけて飲む)がここのところ毎朝の楽しみ。新聞で、ハマスの後継者ランティシ暗殺、のニュース。『仁義なき戦い』のテーマが頭に響き渡るね。イスラエル・パレスチナの問題に関しては私は産経新聞の社説を全面的に支持。要するに“日本人ごときが逆立ちしても介入できる問題じゃない。放っとけ”。

 帰国した人質三人、精神的な疲れで会見をキャンセルとか。なんか、私が『社会派くんがゆく!』の特別発言の最後で言ったことが的中したような感じに見える。どなたが助言しているのか知らないが、まずいですよ、これは。こういうことをすると絶対に、“何か口裏を合わせる時間が欲しくて、隠れている”という風にとられる。高遠サンは確かに救出されたときから目がうつろで何かココロここにないという感じであったが、三人が三人PTSDってこともないでしょう。何も話さずともよろしい、せめて誰か一人、なかんずく郡山氏はきちんとカメラの前に顔を出すべきであった。ジャーナリストと自称するなら、である。自分が取材する側になったらこういう態度のインタビュイーを、どう思うかね? とにかく、彼ら三人にも同情すべき点は多々あるとは思うが、なにしろ気の毒なのは、昨日のデモ行進などを見ればわかるように味方しているのがバカタレばかりで、どんどん悪い方へとハマっていっているように 見えることである。

 悪いが、高遠サンとその活動を知って、まず思い浮かべたのは、ディケンズの『荒涼館』であった。そこにはアフリカを愛し、アフリカの子供たちを救おうと、情熱を傾けて社会運動をしているジェリビー夫人というキャラクターが登場する。そのために彼女は家のことを顧みず、自国のことを顧みず、他でもない自分の足元のロンドンにいる飢えた子たちや、貧しい人々のこと、さらには自分の娘のことなど一切意に介さないのである。作者のディケンズは、このような人物を、“望遠鏡的博愛主義(テレスコーピック・フィランソロピー)者”と名付けた。まさに高遠サンはこの望遠鏡的博愛主義の持ち主である。夫人の行為を目の当たりにしたヒロイン、エスタは、自 分にはそのような気高い思想は持てないが、少なくとも、
「すぐまわりにいる人たちのために、できることを、できるだけ役に立つよう」
 努力しようと決意するのである。……高遠サンや今井クンの活動内容を私は不勉強にして今まで知らなかったのであるが、今回、それをつぶさに知って、達した結論もまた、このエスタ・サマソンと同様のものであった。足元を見つめ、他人様に迷惑をかけぬよう、日々の仕事をキチンとしよう。素晴らしき理念で行動するのは、それか らでいい。

 天気予報で“久しぶりの大雨”と言うので、傘とレインコートで防備して出る。8時25分のバス、如例。仕事場着、まずメールチェック。ケイズファクトリーから漢字パズル本(やっと誌名決定、『漢字天国』だそうである。うーむ)原稿料の件と、打ち合わせ日程の件。あと、筑摩書房から講演会でのチラシ(トンデモ本大賞)撒き 了承の件。よかった。

 午前中は日記つけと、『FRIDAY』原稿のゲラチェック。送って、弁当。今日は魚(ブリ?)の切身塩焼きと、ゴボウのミソ炒め。春ゴボウが実に味わい深い。昨日は収まったと思った手洗い場の異臭、また発生。やはり洗濯機置き場の排水溝である。水を流してみると、洗い流されたような感じで臭いも消える。配水管の中に貯っ ていた水の残りが腐敗したか。

 午後はまず、コミビア原稿、二本分。一行知識だから持ちネタはたくさんあるだろうし、テレビのように制限があまりないメディアだし、楽だろうと思われるかも知れないが、もともと一行知識というのは文字のもので、それを“絵”として成り立たせられるネタというのは、探すとなると実に苦労である。改めて、『トリビアの泉』のスタッフの苦労を思う。何とか送り、そのあとはずっと、ミリオン出版『実話ナックルズ』の『カラサワ猟奇堂』原稿。ゴールデンウィーク進行でいろいろ厳しい状況なので、ネタは手近な資料のもので間に合わさせてもらう。とはいえ、五〜六冊の資料を用意して目を通し、その中からの引用と分析のバランスも考え、ツカミも入れて、 となるとやはり大変。7枚強の原稿、結局7時半までかかってアゲ。

 8時15分、バスで新中野に向かう。9時10分前、帰宅。大雨とか言うからきちんと準備していたのに、一日中ドンヨリとはいしていたがまったく雨など降らず。少しソンをした気分になる。今日はお客ナシ。イサキの一夜干し、タケノコとワカメの煮物、それと小皿にゴボウだの、ヒジキの煮たのだの、豚肉の醤油付け焼きだの。つつきながら、『浦霞』を燗して飲む。ご飯の代わりに、中田(親戚)から貰ったちらし寿司。上にイクラなどを乗っけて、生ちらしにして、これも酒の肴にする。DVDで『アタックNO.1』第二話“新キャプテン誕生”。鮎原こずえが東京から富士見学園に転校してきたのは、結核の転地療養であったことが判明。結核とはまた、少女お涙マンガの伝統に忠実な。この時代にはまだ、肺結核が少女マンガの設定として残っていたんだな、と感じいる。もっともその結核検査を次回へのヒキに使い、“果たしてこずえは試合に出られるのか?”と緊迫感を盛り上げておいて、予告編で“若い力は病気をもハネ返した!”とやってしまっては、ヒキがヒキにならぬではないか。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa