裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

木曜日

おおアキバはみどり

 オタの海、萌えが吹く。朝、寝床で芦辺拓『時の誘拐』を読む。K子から“早く読まないとネタをバラすわよ!”と脅されたため。芦辺作品の代表作であるらしいが、まだ未読だった(今回、講談社文庫で文庫化)。現代の大阪と終戦直後、占領下にある大阪を定点観測のように並べた構成に膝をうち、突如行友李風などという実在の作家が出てきて、いかにもといった感じで事件にからむあたりに大笑いする。K子は早く犯人をバラしたくてウズウズしているようだが、まだ三分の一ほどである。

 7時起床、入浴、歯磨。30分にいつもの通り食事が出来たよ、のベルが鳴り、食堂へ。トマトのビシソワーズ、レモン風味。食べて弁当受け取り、着替えて通勤。本日から四月、新ダイヤでの初運行だが、やはり何か慣れないドタバタがあったと見えて、10分近く遅れる。同系統のバスが二台並んでやってきたから、本当のミスなの であろう。京王バスをおかげでみすみす一本、見逃した。

 浦山明俊からメール、“まさか同時期に入院とは、知らなかった”と、自分の入院風景の写真と共に。確かに彼の入院は知らなかったが、こっちは数年前の骨折とそのピン抜き以外、入院とか通院とは縁なし。“どこからの話だ?”と返信したら、折り返しで“しまった、ガセつかませられちゃった”と。考えてみればエイプリル・フールであった。とにあれ、これで思い出した、昨日の知人の入院の件を共通の知り合い たちにメールを送って通知しておく。

 書き下ろし用原稿書き、本格的にやり始める。12時半、弁当。サバのニンニク味噌漬け、ローストビーフの端っこ。『十時半睡……』の件で平山さんに電話する。作業続けていたらもう1時半近く。あわてて仕事場を飛び出し、タクシー乗って赤坂まで。原宿駅前の角のビルで、屋上に巨大な壁をしつらえ、その中央にバスケットボールのゴールリングを取り付けて、そこに、選手を壁の両側に立てた柱(ビルの3階分くらいの高さがある)につけたゴムバンドに装着し、ビヨーンと飛び跳ねさせていた(さすがにボールを入れさせてはいなかった)。何か、テレビの収録か、それともアディダスと大きなロゴを描いた垂れ幕があったからそのCMか、歩道橋の上などから 野次馬たちが熱心に眺めていた。

 イッピにもかかわらず車空いていて、早めに赤坂に到着。タクシーの運ちゃん、愛想はいい人だったが赤坂をよく知らないらしく、ちょっと目的地から外れた場所でおろされる。降りてから気がついたが、天気は春らしくポカポカだし、氷川神社近辺の桜などを眺めながら、少し散策を兼ねて歩く。いい感じの光景だが、しかしいかにも 生活には不便そうな場所である。

 2時カッキリ、スカイバナナ事務所。窓から私がウロウロしているのが見えたらしく、社長のN氏が向かえに降りてきてくれた。部屋に入ると講談社『FRIDAY』K氏、エイバックO氏すでに来ている。会議室が、“波動を込めた天然水……”というようないささかトンデモっぽい商品のチラシが置いてあるところだったのでちょっとタジロぐが、これは同じフロアに入っていた会社がもう引き払うので、そこを使わ せてもらっているのだそうな。

 やがて佐藤WAYA氏、FRIDAY担当のTくんも来着、打ち合わせ。内容はまだ部外秘だが、携帯配信四コマがやっと(話が来たのが去年の10月だから、動き出すまで半年たってしまったわけである)動き出す。その選り抜き傑作選プラス雑学コラムをFRIDAYに連載するという件。以上はこれまで打ち合わせしてきたことの確認だったが、Oさんから、それにからめた展開の話が出る。その場で、サキサマとの顔合わせの日取りを決める。Oさんが携帯で相手に電話、私が携帯でK子に電話、携帯と携帯をこちらが取り次いでスケジュール確認という小ドタバタ。

 この話、まだ海のものとも山のものともつかないし、こういう事業展開ばなしにはオノプロの時代から何度も何度もスカを食わされている。もうそんなことで舞い上がる年齢でもなし、と思うのだが、しかし、こういうダイナミックな動きのある話の中に身を置いているだけでワクワクしてきてしまうのは事実。この独特の高揚感にギョ ウカイジンという種族はみな、中毒してしまっているのであろう。

 打ち合わせ終え、まだ歩き足りないので、赤坂見附までをぶらぶらと散歩。営団地下鉄から東京メトロという嫌らしい名前になった初日の丸の内線に乗り(名前から言えば、駅員の制服は以前のものの方がふさわしいように思える。今度の新しいのはか なり地味)、新宿へ。紀伊國屋書店で少し買い物して帰る。

 帰宅、暖かい中を歩いたせいか背中に汗をかき、ちょっと小腹も空いたので、モスバーガーでオニオンフライだけ買ってつまむ。松阪牛を送ってくれたAIWのIくんから、発送がいつも年末だったのがこんな時期にズレたお詫びメール。こっちこそ、 大阪公演もやっていないのに申し訳ない。

 7時、家を出てちょっと雑用。キオスクの夕刊紙で中谷一郎死去の報と、北朝鮮に勝手に行ったということで平沢勝栄、総務政務次官辞任とのニュース。まあ、ヤマタクが何で行くのか? と最初に訪中の話を聞いたときから首をひねってはいたのであるが、個人プレーだったとは。8時タクシーで幡ヶ谷。チャイナハウスで『こんな猟奇でよかったら』打ち上げ。ミリオンYさん、われわれ著者夫婦、それに井上デザインのスタッフ総勢5名。平塚くんが独立してからここしばらく、女性スタッフばかり だったが、今度若い男性スタッフのTくんが加わった。

 Yくんの報告によれば『こんな猟奇で……』、すでに会社の在庫は全部出払って、一冊もない状態だそうである。あとは営業判断による重版を待つばかり。一冊、石橋マスターに進呈。マスターではなく奥さんの京子さんがこういうの、お好きなのだそうだとこないだ伺って。マスターに、牧沙織がこのあいだ、ここの胎盤スープ飲んだ晩に初めての胎動があったらしい、と伝えると“そうそう、ウチのお客さんでそうい う人多いのよ”とのこと。

 ジューシィな炙り鶏から始まって、黄ニラの炒め、鹿肉のナッツ揚げ、スッポンの炒め煮など、例によってのメニュー。昨晩が野菜オンリーであったせいか、今日の肉は鶏もカメもうまく、ことにカメは最高。井上くんはもう、こっちに仕事をどんどん予約する。装丁師から作家に仕事を予約してくるというのも珍しい。ワニマガジンのKくんから貰った企画のこと、ちょっとフッて見る。興味を少し、示してくれたようである。あと、Yさんがこないだの打ち合わせで言っていた雑誌の立ち上げ、どうや ら実現するようである。

 10時半ころおひらき。スタッフのアケボノさん(以前曙橋に住んでいたのでK子がこう呼んでいた。いまは新高円寺なんだが長いのでアケボノのまま)とタクシー同乗、新中野で降ろしてわれわれは帰宅。メールチェック、『社会派くんがゆく!』の最新アップが完了していたが、見ていたら一部、ミスでアップされていない部分があ る。その旨をアスペクトK田くんにメールして寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa