裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

金曜日

ジャン・コクトーな天使のテーゼ

 シンジ役はジャン・マレー。朝8時起床。夢であるが、北朝鮮がらみでテレビ報道がそれ一色になるような騒ぎの中(それとはまったく関係なく)、ハワイでライバルに陥れられて窮迫していたサクラモチの天才的研究者である老人を好意で助け、日本に連れ帰るというものだった。私は義挙を行う善人の役なのだが、日本に帰る飛行機のファースト・クラスに老人の分の席がない、と告げられ、“エコノミーでいいんだよ、人の好意にあまり甘えさせちゃいけない”などと怒鳴ったりもする。

 朝食はレタスとソーセージのコンソメ煮。青山で買ったソーセージ、ちょっと香辛料のきいた奇妙な味である。それとデコポン半個。口唇炎はかなり治ってきた。ササキバラゴウ氏よりメール。懐かしDVDマガジンの原稿打ち合わせの件。それに加えて『ハムハムランド』のこと。氏に言わせると、あれは出崎演出のストレートなワク内の作品(かつての『悟空の大冒険』時代のノリ)であり、決してコワレたとか、デンパであるとかいうものではないと。いかにも出崎マニアのささき氏らしい指摘である。うーむ、悟空をもってきたか。確かに場面々々でまとめようとせずにとッ散らかしたままどんどん話を進めていくのはアレのノリに近いかも知れない。しかし、かつての出崎演出には、どんなにメチャクチャをやろうとも、きちんと“理に落ちる”安心感があったと思う。わかってやっているのだ、という安心感である。今回のハムハムは、観ながらそこらがどうも心配になっちまうんである。

 母から電話。何かと思ったら『ムーラン・ルージュ』を観にいってきた、という報告であった。時代モノなのにまるで服装も歌も現代で、人をバカにしている、と御機嫌ななめである。かつての『赤い風車』がいい映画だったのに、今の映画はやはりダメだ、と言う。しかし、昔のものが全ていいかというとそうでもなく、ビデオで『皇帝円舞曲』を見たが、高校生のころつまらない、と思った感想そのままで、なんだか気が抜けたような映画だわよ、とのこと。

 1時までかかってモノマガジン原稿書く。メールして、それから参宮橋まで出て、ノリラーメン。疲れ防止に最後に酢をスープにたっぷり加えて飲む。日本人はこのスープをたいてい残すが、いつぞやこの店で、小柄なドイツ人のおじいさんが、レンゲをつかって実にうまそうに、スープを最後のひとすくいまで飲んでいた。左手にレンゲをもち、右手で丼を傾けながらきれいにすくい、かつ、そのレンゲをほとんど口の中に入れて、啜るのでなく“食べて”いる。ポタージュの味わい方である。これが実にうまそうであった。やはり、ものをうまそうに食うのも外人にはかなわないなあ、とそれを見て思ったことであった。新宿へ行き、雑用すませてトンボ返りで帰宅。

 それから1時間半、ちくま書房用に『トンデモ一行知識の世界』文庫用ゲラチェックする。『逆襲』がケアレスミスだらけだったので心配していたのだが、この本に関しては、もともとの一行知識のアヤシサ以外にはさしたるミスはなし。西手新九郎であるが、この作業の最中に、この元本の編集者であったIくんから電話。年末に大和書房を円満退社し、現在は廣済堂出版に籍を移して仕事している。一度打ち合わせをお願いします、と声をかけてくれるので、日にちのみ約す。

 3時、時間割でちくま書房Mくんに原稿渡す。スケジュールのことなど(刊行は5月)きめる。今後の出版計画についても話が出る。昨日の幻冬舎との兼ね合いもあるので慎重にいく。ちくま文庫の値段が高いことについて話す。松田さんの見解は“いい本であれば人は高い本でも買う”であるらしい。それもこの状況では一理あるかもしれない。“人”の定義が、“そもそも本を買う人”なのだから。

 帰宅、連絡事項数軒。メディアファクトリーT氏、オタク史本のこと。テープ起こしはさして能率あがらぬことがわかったので、基本は元原に手を入れることにする。仕事続き。8時、豆腐料理二合目。ひさしぶりに寒いので湯豆腐がうれしい。隣の年配のカップルが『利家とまつ』のことを絶賛していて、唯一の不満が反町隆史の信長だそうで、女性が“信長ならやっぱり錦之介じゃないと”と言っている。じゃないとと言ったところでなあ。K子と具体的な会社設立の際の作業について。

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