裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

火曜日

ハリーときどきポッター

 日米ヒット児童モノ対決。朝6時ころ目が覚め、寝所の中で児島譲『東京裁判』(中公文庫)を読む。高校時代に買った本。もう三、四読目だろうが、昨今記憶力がとみに衰え、記憶があやふやになっているので新鮮に読める。昨日タクシーで帰宅したときも、曲がるべきところの指示に、“信号がありますからそこを……”と信号のない角のところで言って注意されたり、どうもボケが始まっているような感じで憂鬱である。8時起床。テレビのおもしろくもない正月番組は見ず、静寂な元旦。喪中ではあるが簡便なおせち、雑煮で正月を祝う。酒も飲み、酔っ払って昼まで寝る。

 二階の親父の部屋などを見る。本棚などはまだ生前のままだが、薬品関係の本ばかりでつくづく情緒のない棚である。昔はとにかく読書好きで、中国の史伝などが好きだったという話だが、薬局を始めてからは完全に自分の嗜好を封印してしまったのだろうか。親父と本の話で盛り上がったのはチャンバラ小説のことくらいで、久しぶりに剣豪小説を読みたいが何か持ってないかと言われて五味康祐の柳生蓮也斎を貸した記憶がある。中学生のころだったろうか。こういう人物の息子に私のような古本好きが生まれるのが不思議である。

 2時ころ豪貴夫妻くる。優子さんは相変わらず美人だが、最近口調がK子に似てきたそうで、回りを憂慮させている。ちか子さん(豪貴の実の母)は体の具合が悪くてこない、ということだったが、母が電話して、おせち持たすからと言って呼ぶ。燗のつく日本酒がないので(貰い物の酒はたいてい吟醸なのである)セイコーマートM淵に行き買い物する。ここは今の家に引っ越してきたときだから、小学4年生から通っている店である。その当時はM淵商店という小さな酒屋券食料品屋で、ばアさんが作った自家製の漬物などを売っていた。それがやがてあれよあれよという間に大きくなり、店の前の銭湯が廃業した跡地を買収するとそこにアパートを建て、ここらあたり一帯有数の金持ちになった。そんな金持ちになってもまだ主人(私が小学生のころは不良っぽい兄ちゃんだったけど)は店の管理をしているが、私の姿を見て、うれしそうに肩をたたいてきて、
「いやア、ときどきテレビで見てるよォ! がんばってンなアって、うれしく思ってんだ!」
 と笑う。こういう単純明快な大衆派善意というものを、私のような特殊人は持ち合わせず。しかし、かつては吐き捨てるように嫌悪を表明していたこういう長屋的感情に身をひたすのも、私の年齢ではそう悪くはない。なをきはいまだこういうのは苦手らしい。世間への妥協度合いの差は長男と次男の違いか。

 そのなをき、ちょっと買い物に行ってくる、と夫婦で出て、夕方まで帰ってこない。母が遅い、ナニヲヤッテイルンダローネといらつくのも恒例。テレビでポアロなどをだらだらと見る。同じマンションの住人と思うと熊倉一夫の声が奇妙に聞こえる。官能倶楽部のパティオをのぞく。談生が自分の日記でコミケに怒り狂っているのにみんな笑ったり、不思議がったりしている。

 5時から坂部の伯母と井上のナミ子姉、マコちゃんなどが来る。ギリギリでなをき夫婦も、帰宅。母の大車輪始まり、今年は中華づくしで、クラゲとピータンの前菜から自家製皮に包む北京ダック、あんかけ野菜炒めの揚げワンタン皮のせ、精進揚げ(これだけ和風)、マーボナスとおこげ料理。飲んで食ってしゃべって。デザートに蜜豆が出て、さらにケーキを出されたが、もう私はダウン。一日、“ものを考える”ということをしなかった気がする。まあ、正月だからいいか。9時にはもう寝た。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa