18日
土曜日
マリリン・マンション
呪われた住宅。朝6時起床、昨日書きかけだったWeb現代を書いてメール。7時半までもう一回寝て、改めて起き出す。朝食、ガスパチョとスイカ。ビデオなどをカバンに詰めて出かける用意。芝崎くんから電話あり、一緒に出かけましょうというので、彼の到着を待ち、10時半に出発。昨日のトラブルの件、編集者のHくんから状況説明のFAXが届いていた旨を話す。要は芝崎くんがと学会の事務まで引き受けていながら通信環境をいまだ整えていないことに、Hくんがいらだったらしい。確かに現今、作家ならともかくライターとしてネット環境にないことは大きなハンデであることは確かである。そこらへん、芝崎くんもかなりノンキにかまえているような感じもある。もっとも、あまりにネット頼りのライターも問題なのだが。
K子と三人、タクシーで八丁堀。タクシーが間違えて小伝馬町駅につけてしまったり、入ろうと思った地下鉄の入口が京葉線と連絡していなかったり、ちょっとドタバタする。やっと辿り着いて、電車を待っていたら、後ろから声をかけられる。横田順彌先生だった。K子に紹介すると、よせばいいのに“大陸書房でご一緒でした。奥さんとのビデオ批評で……”と言う。横田さん、笑って“その奥さんにはもう逃げられました”。まあ、横田さん自身がいろんなところで言っているからまだいいが、少々居心地の悪い思いをする。
車中、ずっと横田先生と話しながら。古書関係のこと、SF冬の時代のこと、その他いろいろ。デパートの古書店の話になり、そもそもこうデパート展が乱立するのは危険な状況だ、とのこと。SFばかりでなく、古書業界も冬の状態らしい。“最近、全然古本買ってないんです”と言うと、“あ、ボクもです。いま、あまり動くと値段がすぐ釣り上げるんで、買えない状況ですよね”とのこと。二人して、“今、古本は買えない、買えない”と繰り返しながら、すぐその口で二人とも“こないだ、某目録でウン万円使っちゃいまして……”“実は久しぶりに某所の古書店に行ったらつい棚買いを……”。だめではないですか。
11時40分、海浜幕張に到着。国際展示場まで歩いて七、八分の距離だが、横田さんが12時の企画に出る予定とのことで、タクシーを使う。ワンメーターのところで1000円渡して、“近い距離なのでこれでとっておいてください”という気っぷが、横田さんの世代の気づかいだ。うちの母もこれだったので、私もそれにならっていたのだが、最近ガメツクなって、お釣をとるようになった。
受付をして、芝崎くんをアシスタントとして入場許可してもらい、ゲスト控室に行く。今回はガイナックス仕切りだが、なんと菅浩江さんが荷物係をしていた。荷物の保管を頼むのにやや恐縮する。久美沙織さんと挨拶、最初の名刺交換。今回はこの名刺交換による裏面の絵合わせという企画が、参加者同士、または参加者とゲストの間をつなぐ役割を大いに果した傑作アイデアだと思う。徳間のO野くんにも会い、しばらく共通の知人ばなし。
それから、ホテルのチェックインが2時なので、それまでとにもかくにも腹ごしらえを、ということで会議場内のカフェテリア形式レストランで食事。世にもまずかった。海外からも人が来る会場のカフェテリアがこれではいかんのではないか。ここでも、『裏モノ見聞録』に載ったサイトの主宰者の方から名刺交換とサインを求められる。“これで今回の大会に参加した目的の80パーセントは達しました”とはまた、なんと早い。K子とスケジュールの確認をするが、なんと受付で渡された予定表では『トゥーン大好き!』が明日の四時、となっている。あれ、カン違いしたか、と思ったが、明日の四時まで大会をやっているわけもなし、これはこの予定表の間違いだろう、ということになる。
会場を回り、知人・友人連に挨拶。藤倉珊さん、風来末氏、一本木蛮ちゃん夫妻と加藤礼次朗、牛島えっさい氏、その他裏モノの人たち、山本会長一家、金沢のSさんOさんなど。講談社のIくん、ハローミュージックのAくんなどもいた。『コンテンツ・ファンド』出場者の『Pマン』スタッフの方々とも会って、記念写真。会場内の屋台で焼きソーセージを食べたが、さっきのカレーの後では非常にうまく感じる。2時、会場内のタタミ敷きスペースで眠田さん、山本さんと『クレヨンしんちゃんを語る部屋』。〜の部屋、というのはいつものSF大会の企画の決まりタイトルだが、今回はこりゃ、部屋とは言えまい。天井が高くて声が通らず、仕切りがないのでザワつくし、客が自由に出入りできる。こういうところでのトークは、とにかく派手に大声でウケをねらって、というものでなくてはダメ。眠田さんがいろいろと資料ビデオを用意してくれていて、お客たちも喜んでくれていたようである。1時間半にて終了。次の企画まで1時間空いているので、急いでホテルに投宿。ニューオータニ幕張。普段なら、ニューオータニだろうがホテルオークラだろうがビクつかないが、SF大会参加者という“身分”で行くと、“われわれには立派すぎねえか、ここ?”とちょっとビビってしまうのがオモシロイ。
顔だけ洗って、とって返してまたさっきのところに戻り、『トゥーン大好き!』。SUEZENさんや青木光恵さんなどが見に来てくれた。こないだやった奴とまた違うビデオをお互いいろいろ流したりして話したが、前に一回、やったことがあるというのがわざわいしてか、ちょっとギクシャク。それでも客を笑わせながら進めて、時間オーバー気味にやっていたら、後ろから酔っぱらいが、いきなり背中をどつき、帽子をパン、とハネあげて落っことした。一瞬何が起こったかわからず、“なんだ、なんだ?”と声をあげたが、見ると、酔っぱらいが暴れて、係員に取り押さえられている。芝崎くん、次のサイン会の連絡に来たエンターブレインのNくんなどが血相を変えて駆け寄ってきた。見ると、酔っぱらいはあさりよしとおで、“離せ〜!”とか言いながら、控室へと数人がかりで護送されていった。完全なサイコ扱いである。SF大会参加も長いが、こんなハプニングは初めて。会場の向こうにいた睦月さんもあわてて駆け付けてきてくれた。警備担当(?)の係が、“大丈夫ですか?”と心配してくれて、しばらくずっと私にハリついていてくれる。咄嗟のことで、誰も犯人があさりよしとおとわからず、デンパ男か、あるいは何か私に遺恨でもある奴かが私を襲ったと思ったらしい。“いや、ありゃあさりさんでしょ。ただの酔っぱらいオヤジですよ”と言ったら、ちょっと安心していたようだった。
そのまま、サインブースに入る。鶴岡と並んだから、必然的にその話で持ちきり。後で聞くところでは、あさり氏は会場入りした頃から酔っぱらっていて、山本さんたちとの『クレヨンしんちゃん』トークが気に入らなかったらしく(山本さんいわくの“エのつくアニメ”の話をしていたからか?)、酒をあおって、壁をガンガン蹴ったりしていたらしい。……もちろん、私は酔っぱらいというのは基本的に愛すべきものだと思っているし、あさり氏に別に含むところはないが、向後、SF大会においては(特に温泉旅館への宿泊式大会などでは)氏の回りには見張りをつけといて、酒を飲ませぬようにしておいた方がいいだろう。
サイン会の方は、次々にお客が並んでくれて、無事、三十分の持ち時間に列を途切れさせずにすんだ。なんと長山靖生さんまで色紙を持って並んでくださって、ちょっと話をした。もちろん、例の大月隆寛の話である。いろいろ馬鹿の話題は尽きぬものである。その後、と学会会場へ移動。何やら、タイムテーブル上でのみは売れっ子スター並の忙しさである。ここでも一応、用心のために係の人がボディガードでついてくれる。会場で、志水一夫、皆神龍太郎ご両氏にと学会会誌を進呈。在庫不足のため執筆者は二冊というところを一冊づつにて勘弁してもらい、後は増刷後ということにする。会員用在庫を売り払ったツケであるが、あのコミケ当日はキチガイのような売れ行きであり、700冊の刷り部数中、500册が12時を待たずに売れ切れてしまいそうな雰囲気だった。一般参加者が入場してきたときに何も売るものがない、ではシャレにもならない。万やむを得ず、会員用にと取りおいておいた最後の箱を開けることにした。こういうのを前線指揮官の判断という。
太田のH氏、芝崎くんなどとちょっと話す。今回はトンデモ本大賞発足10周年なのだが、それにしては時間が1時間半と短く、それに合わせて候補作も4作に絞らざるを得ず、ちょっと不満が残る。ただ、おかげでサクサクと進んだのは有り難い。お客さんも満席の状況。一番残念だったのは、昼間の企画に女装で出た永瀬唯氏が、初めてのコスプレにあまりにコーフンしすぎたか、体調を崩し、欠席したことだった。会場のお客さんからデジカメで撮った写真を見せてもらうと、なかなかキている感じである。いろいろギャグも出た後の投票で、今年のトンデモ本大賞は『奇想天外SF兵器』(渓由葵夫著、新紀元社)に決定。『宇宙の戦士』の作者を、“アーサー・クラーク”と記してある(!)のがSF大会参加者への点を稼いだか。私についていてくれたボディガード係の人に、
「これまでSF大会には何度も参加しましたが、いつもスタッフで、企画を全部見られたことがなかったんです。唐沢さんについていたおかげで、やっと念願のトンデモ本大賞授賞式を頭から最後まで見られました。ありがとうございます」
とお礼を逆に言われ、恐縮する。酒乱の功名、か。
ここで、次の“怪獣酒場”出演の前にメシを食おう、ということになり、睦月さんとFKJ氏、それとグッズ担当のSさんHさんKさん(このKさんがコミケで手伝ってくれた人。やっと名前を覚えた)たちと。トンデモ本大賞会場で、Yさんという方と名刺を交換したのだが、彼は数年前、私たち夫婦がアメリカ旅行したとき、Fコメで“誰か現地のアヤしいスポットを御存知の方いたら教えてください”と呼びかけたとき、オタクっぽい店やアヤシげな店がつまったビルのことを教えてくれた人。思いもかけないところで会えた。しかも、その彼も驚いたことに、SさんやHさんと彼は大学時代からの友人だったという。世の中はつくづくせまい。みんなでニューオータニのイタ飯屋に行く。Yさんの奥さんも後から参加したが、彼女と私は現地で電話で話したのであった。“あのスポットを発見したのはワタシなんです”と奥さん、笑いながらおっしゃる。
トーク続きでテンション高まったままなので、あまり食い物がノドを通らない。ワインを飲んで、なんとか気分を落ち着かせる。FKJ氏はこの後東京へ帰ってロフトプラスワンの『新・耳袋』のトークを聞いて、明日またこっちに戻ってこようか、と言っている。元気だなあ。10時になったので、お先に失礼してまたまたSF広場の怪獣酒場へ。手塚監督を囲んでのトークだが、えらく真面目な制作裏話などをしている。大変貴重な内容なのだが、司会の開田さんも聞いている方も、煮詰まりそうな感じ。加藤礼次朗と雑談。2部は私が呼ばれて、またまたあさりよしとおの怒りそうなトークを。会場の構造やそもそもの大会の性格、時間などを考えて、わかせどころを作るということがトークだ、と、少なくとも私は思っている。いささか八つ当たり気味に言えば、一般ファンをおいて自分たちばかりでマニアックな話で自家中毒気味にウケていたそのツケが、今のSF氷河期の原因ではないか。まして怪獣酒場はその名の通り酒の席である。楽しくやらなくちゃ。最後は全員起立、『ゴジラvs.メガギラス』のDVD発売を記念して、万歳三唱。
そこからホテルに帰る。途中まで、AIQのエロの冒険者さんと話す。AIQは現在、入院者が続出したりしていて大変な状況らしい。シャワーだけ浴びて、ホテル内での怪獣酒場の続きに出席の予定だったが、ちょっとベッドに横になったとたんに、もう体がピクとも動かなくなる。私ともあろうものが寝酒のビールも飲みたくないのだから、疲れも相当なものである。ノドが腫れぬようにイブだけ2錠のみ、そのまま 爆睡。K子はちょっとだけ、名刺を交換しに顔を出しにいった模様。