5日
日曜日
胃にカイヨワが出来る
たかが遊びに難しい理屈をつけるから。朝7時起き。朝食、オレンジと桃。ネットで原稿用の調べものをしていたら、つのだじろう先生のHPを見つけた。ここでギャグについて述べているのだが、現代はマンガもテレビもギャグの質が低下し、下品な悪ふざけだけのものになっている、と大変に憤慨なさっている。そう思う人は多くても、ここまでヒネらずストレートに言い切る人は珍しいように思う。で、つのだ先生 は“本当に笑いの勉強をしたいなら下手な流行に流されず、古典落語や洒落たジョー クなど研究して「センスある高質な笑い」を コツコツ仕込んで勉強する方が絶対に正しいのだ”とおっしゃる。
その、“センスある高質”なギャグマンガ、としてつのだ先生が挙げているのが
「島田啓三『冒険ダン吉』、田河水泡『のらくろ』、横山隆一『フクちゃん』、長谷川町子『サザエさん』はだれも異論のないところ。私の推薦は加藤芳郎。馬場のぼる両先輩。まさに抜群だ」
……若者におもねらず、自分の信ずることを発言するという人は現代において貴重な存在である、とは思うけれども、さはさりながら、いくらなんでも、これは現代のマンガ、現代のギャグというものからカケ離れすぎた例でありはしないか。これからギャグマンガを描こうとする人が『冒険ダン吉』を読んで、マンガ史としての教養以外に何か益するところがあるとは思えない。
「現代において、テレビや雑誌の中にある、笑いと云われるジャンルのほとんどは、死滅してしまったに近い印象すら持つ。笑えるのは、天然ボケや、計算していない素人などの巧まない人間が生み出すものばかり!笑わせようとする連中は、まるで面白くない…のがどうしようもない現実なのです」
天然ボケの人間をテレビに出す裏に、どういう計算、どういう演出が必要か、ということをつのだ先生がまるで考えておられないのは言うまでもない。雑誌の中で言うなら、吉田戦車や西原りえこは読者を笑わせようとしていないとでも言うのか。唐沢なをきやとり・みきはギャグを計算していないとでも言うのだろうか。過去を引き合いにして現代をくさすことが悪いとは言わない。だが、その場合、現代をしっかりと勉強し、過去との差を実証的に指摘し、その質的低下を論理的に説明できなければ、それは単なる時流についていけなくなった者の繰り言にしか聞こえない。若者も耳を貸そうとはしないだろう。私も最近は“ノスタルジー過激派”などと名乗っている関係上、こういう危険性を常に抱いていることは自覚しないといけないと痛感。
8時半、お台場ビックサイトへ。車の窓から見たら、ゆりかもめの駅の陸橋の上にズラリと人の列が出来ている。ワンフェス会場までずっとこの列が続いている、と思うとギョッとする。開場は11時頃のはずなのに、今からコレである。ひさびさのワンフェスで、人が殺到するとは思ったがこれほどとは。で、その波を避けるようにして、トイフェスの方に行く。事務局に寄り、挨拶。ワンフェスが“今”を切り取った断面であるのに対し、こちらの商品には時間軸というものが加わっている。開場前にゆっくり場内を見回り、各々の商品の上に流れている時間の馥郁たる香りを味わう。 これは“評価”とは別次元の“嗜好”である。
ハローミュージックAくん来る。柳瀬くんに頼んでトラフェスのチラシを入口に置かせてもらう。その他二、三、打ち合わせ。開場時間になり、こっちも買い物に走り出す。おなじみのブースから声をかけられる。キャラものは買わない主義であるが、高さ80センチほどのR2―D2のアイスボックスが格安で出ていたのを買い込んだのをはじめとして、グレイの赤ちゃん人形だの、射的ゲームだの、韓国のクリーミィマミ(もちろんパチ)のお医者さんセットだの、GIジョーの日本兵士(いい顔バージョン)などをかなり買い込む。“ワンフェスの小判ザメ”とか言われるトイフェスだが、それでも限定販売モノには人が群がる。あるブースの親父さんが私に“あれは何の人だかりです?”と訊いてきたので、“プロレスラー人形の限定販売モノでしょう。去年もドス・カラス人形が手に入らなかった、というんでいきどおっていた人たちが出ましたからね”と答えると、親父さん、
「それじゃドス・カラスでなくてドツ・カレルですな、アッハッハ」
と笑ってこちらに同意を求め、返答に窮する。
岡田さんにも挨拶。トイフェスも六回目になると余裕が出てきて、“この時間にスタッフが部屋のすみであやまっていないのは初めてですよ!”という。会場でなをき夫婦にも会う。なをきは今年もパチもん探し。ワンフェスに入れずこちらに流れてきたらしいカップルが“なんかこっち、ノスタルくさくねえ?”と吐き捨てながら歩いていた。兄弟でしばし、彼らの後ろ姿に悪罵をあびせ続ける。つのだ先生の気持もわからんではない。事務室でシューマイ弁当を御馳走になる。
荷物がそろそろかなりの量になってきたので、一時退散。やや落ち着いたワンフェスの方もちらりとのぞくが、来ているはずの河崎実監督や加藤礼次朗、彼らにおもりをされている実相寺昭雄監督の姿は見つからず。そのまま退散。タクシーにR2を乗せたら、運転手さんが大喜びしていた。
家でしばらく休み、書庫に置いたR2をしみじみながめる。それから買い物に出かけ、晩のおかずを買う。講談社Web現代の原稿、書きはじめるがテンションを午前で使い果し、中途で放棄。鶏の中華鍋とイワシの塩焼きで晩飯。トイフェスで買った『猿の惑星』(もちろん旧作)のメイキングビデオを見る。単なる特殊メイクなどの裏ばなしでなく、当時の社会に映画が及ぼした影響や、その後なども追っており、第一作からテレビシリーズまでを追っているので、かなり長いが、退屈せずに見ていら れる。クリクリでもらったピルゼンビール、アイリッシュウイスキーなど。