1日
水曜日
生殖の碑
この精子たちは私の命だあ。朝7時半起床。朝食、豆スープ、スイカ。昨日の夕刊の山田風太郎の死亡記事を読み返す。“忍法帖・魔界転生 山田風太郎氏死去”という見出しは少しオカシい。魔界転生も立派な忍法帖のひとつだからだが、この見出しを書いた記者は、たぶん、魔界転生が『おぼろ忍法帖』というタイトルだったことなど知らない世代なんだろう。
確かエッセイ集『風眼抄』にも収録されていたと思うが、牧逸馬・林不忘・谷譲次の『一人三人全集』(河出書房新社)に山田氏は解説を書いていて、その中で“大衆小説の名作の大半は、たいてい出たとこ勝負のところがあるようだ”と、丹下左膳や大菩薩峠、宮本武蔵、赤穂浪士などのストーリィ運びの矛盾の例をあげ、“おそらく好評のため延長拡大されたせいであろうが、それだけに作者の筆に天馬空をゆく高揚があらわれ、かくていよいよ一世を風靡するということになったのであろう。こうなるとすでに作者と読者の合作といっていい”と、そのデタラメさを魅力の本質としてとらえている。軽く書いているからツイ読みのがしてしまいがちだが、これはいわゆる評論ズレした頭でっかちには決して吐けないセリフであり、大衆文化というものの本質を見事にツイた達見なのだ。思うに、大衆ヒーローもの小説の傑作が世に出なくなって久しいのは、作者たちが読者とでなく、評論家と合作を始めたためなのではないか。
午前中、エルグの原稿。龍胆寺雄全集を資料に書庫から持ち出し、仕事場に広げて執筆。六本木に出て明治屋、青山ブックセンター、銀行へ。銀行は長蛇の列であきらめる。青山ブックセンター、『裏モノ見聞録』やはり置いておらず。荷物多くなってメシが食えず、帰宅後、レトルトのカレーでさっさと食べる。
3時、西永福に行き、S歯科。カレー食ったままで出てきたことに気がつき、駅前のコンビニで歯ブラシと水を買い、途上で歯を磨く。奥歯の古い金属冠を除去するにあたり、削った金属の粉が飛ばないようにと、口内マスクをかけられる。上アゴと下アゴにバネのようなものをはめ、そのバネの四隅にゴムの膜を張る。なんのことはない、口の中に凧を張られたような感じになる。歯を削られている最中に左足の指がツり、身動きがとれないからどうすることも出来ず、少々地獄を体験する。
5時に打ち合わせがあるので、4時半には出させてくれと頼んでおいたのだが、仮冠をかぶせるのに手間取り、4時45分になってしまう。看護婦さんが、支払いはこの次でいいですから、と、急いで帰らせてくれた。急ぐときはどうしようもなく、間違えて明大前で降りてしまい、詮方なくタクシー拾って、渋谷まで。15分遅れで時間割、アスペクトのK田、K瀬のお二人に会う。ここからはこの秋から連続して5册ほど本が出ることになる。
30分ほど話したところで、村崎百郎氏到着、対談。これがラストのまとめ対談ということになり、鬼畜社会派対談本がこれで10月には刊行の予定。できるだけ真面目な読者から不謹慎だ、という投書がくるような本にしたいと村崎さんと話す。対談は盛り上がり、7時半まで。これまでの対談のオコシ原稿をもらう。一時帰宅して、FMISTYのUFO会議室の過去ログなどを資料として読み返したりする。他にもちょっとネット散策。永山薫氏のサイト、伊藤剛くんのサイトは一年近く開店休業状態、東浩紀氏のML討論も中途半端に放り出されたまま、竹熊健太郎氏の奥さんのサイトもいろいろ噂を残して行方不明になり、大塚幸代さんの掲示板は“?”な状態。往時茫々、全て夢の如し。
8時半、新宿すがわら。客が甲子園トトカルチョやっていて、そのメモを見ながらいろいろ話している。白身、甘エビ、小肌、穴子。おつまみで茹で立てのタコの薄切り。抜群にうまい。黒ビール一本、日本酒ロック二杯。