裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

木曜日

『言いきる』

あんた、ガンなんだよ!朝8時起き。『大女優宣言』稽古をしているというヒネリも何もない単純な夢。ネタバレになるから詳しくは書かないが私の芝居が夢分析の話なので、そのストレートさに苦笑。分析もなにもあったものでなし。

朝食、母が用意してくれたミカン、牛乳などで。遅れていた春風亭昇輔くんの真打昇進口上原稿を書き上げる。遅れたのは、書きたくないからでなく、ああも書きたいこうも書きたいという思いが頭の中にウズまいて、その中のどれでいくか、という選択にギリギリまでかかったため。こういうことが原稿にもよくある。じゃあ、そうやって書きはじめた原稿のネタが最も優れたものなのか、というとそういうこともない。

逆に言うと、どれかが優れているということがわかればすぐに書き出せるわけで、どれもネタの質としては同じレベルで、それだからこそ、どれで行くかの最終決定が長引くのである。で、ここで書かないともうギリギリだぞ、という時点で、
「時間がなかったので、とりあえずこれで行くことに
行き当たりばったりで決めたのも仕方ない」
という言い訳が自分に欲しい、のである。

12時、家を出て新宿まで。今日から土曜日まで、とにかく凄まじいスケジュールラッシュ。その第一弾で藤沢商工会での講演。湘南新宿ライナーで行くので新宿にまっすぐ向かうつもりでいたところ、オノから電話で、渡されたチケットが渋谷からのものだという。新宿で乗って渋谷で落ち合うということに。新宿駅までタクシーで行き、小田急で蟹とアナゴの寿司を買って、昼食代わりにするつもり。

ところが、一時の小田原行き快速をホームで待っていたら、赤羽の人身事故のために20分遅れというアナウンス。オノと連絡とるが、他の路線に乗り換えても結局遅れる感じなので、このまま乗ってしまいましょう、とのこと。また寒さがぶり返し、粉雪みたいな霧雨まで舞うホームでしばらく待つ。オノも渋谷から駆けつけて落ち合えた。
「“湘南新宿ライナー”という名称の列車が赤羽の事故で遅れちゃいけません」
と怒っている。
グリーン車に乗り込んで、弁当使う。お茶売りのお姉さんが来たので、スイカで買おうとしたら
「車内販売は現金のみです」
と言われる。これで使えなければスイカの意味がないように思うんだが。蟹寿司はよかったが、アナゴ寿司はオノの大敵のシイタケがどっさり入っていた。しまった、買うときにそこまで気を回すべきだった。しかも、弁当使いながら窓外を見たら、ホームの群衆といやでも目が会う。あとでミクシィ日記などで検索してみたら、案の定、
「世界一受けたい授業に出ていた先生が電車に乗っていた」
と書かれてしまっていた。人中では弁当もロクに使えない。顔を露出してしまっている者の不便さである。

藤沢駅まで45分ほど。15分遅れで到着、タクシーで会場のホテルまで。中規模のシティホテルだが、会場がいろんんな会合でぎっちり。妙に着飾ったおばさんたちがいますね、とオノが怪訝がるが、“藤沢歌謡友の会”という、カラオケの同好会だった。
控室通されて、商工会の人たちに挨拶、名刺交換。担当の人(たぶん30代半ば)が私のファンらしく、文庫本数冊持ってきてサイン求められる。この人が人選をしたな、と苦笑。講演、始めるがこないだの全霊協の人たちに比べるとウケもよく(まあ、こっちもそれをねらったしゃべりをしているせいもある)、楽。

ところが、持っていったプリウスと向こうのプロジェクターとの相性が悪く、担当者(その、私のファン)とオノが必死でいろいろやっていたが、ついに使えず。これに30分時間がとれるから、と思って、60分ぶんの内容しか仕込んでなかったので、ちょっとあせる。あわてて雑学教育論みたいな話を間にはさむがちょっとそこだけギャグのない、固い話になってしまった。こういうアクシデントにも対応できるようにならないと。まあ、それでも講演を短縮することもなく、きちんと90分(1分くらいのオーバーで)話し切ったことは褒めていいと自分で思うが。

聴衆の中に睦月さんそっくりの人がいたが、別人だったらしい。藤沢ということで“ひょっとして?”とか思ってしまう。駅まで、歩いて。湘南新宿ライナーで復路を行く。やはり出張講演というのはテンション使う。終わったあと、本来なら台本読んで練習とか思ったのだががっくり疲れて何もできず。恵比寿で降り、事務所でしばらく台本読み、東急通りのペッパーランチでステーキ定食。こういう夕飯も珍しいがたまには結構。この程度の肉で楽しめる。

9時半、青山へ。清水さんと通し稽古。まだセリフ、全部入っておらず。やや、あせる。1時半までやって、なんとか入れて、辞去。本番度胸に期待するのみ。帰宅して、明日のNHKの収録用の資料ビデオ見て、体が冷えていたので半身浴20分、ホッピー1本、飲んで寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa