5日
火曜日
お笑いファティマの体操
なぜあんなチンケな予言で法皇は失神したのか、その理由を考えてください・・・・・・ハイ、早いのが取柄月の家円鏡。朝8時起床。朝食、カレーコロッケサンド、エンドウ豆スープ、二十世紀。雨降って非常に涼しい。残暑続くという予報はどうした。山本ジョージ議員、逮捕。森田健作、この男の陰に隠れて救われた感。薬局新聞一本アゲ、フィギュア王ギャラクシークエスト鼎談チェック。〆切日を昨日とカン違いし、フィギュア王に“遅れてどうもすいません”とあやまって送るが、実際の〆切は今日いっぱい。別にあやまることはなかった。
昼は一時ころ、新宿に出て王ろじでとん丼。奥歯が治療中なので思い切りものをほうばることが出来ず、おいしさも今いち。この状態でイタリア旅行というのは残念無念である。紀伊国屋書店で新書など数冊。伊勢丹で買い物して帰る。雨引続き、気圧の波が上空でグルグル渦を巻いているようで(あくまでイメージね)、体がピクリとも動かない。ベッドに寝転がって、なんとか回復をはかるが、電話のベルに起き上がるのもやっと。
「仕事しだめをしなくちゃならないこの大事なときに体が動かないなんて!」
と、本土決戦目前にマラリアで倒れた厚木基地指令官のような心境になる。
昨日の電話の今日で、大和書房から、『トンデモ一行知識の逆襲』増刷決定の報。そうなると、急いで修正箇所を指示せねばならない。動かぬ体を奮い起こして、例のスティグマのところ含め数カ所(病膏盲の膏盲に“こうもう”とルビがふってあったが正しくは“こうこう”など)メモして、編集部にFAX。使ってるマックワードでは“盲”が“めくら”の読みでは変換されないことを発見。
読売新聞夕刊芸能面の演芸批評、三遊亭楽太郎の高座を評して演芸評論家の保田武宏という人の文章に曰く“こういう地噺(唐沢注・落語家の地のトークを主に展開していく噺のこと)は、現代に生きたことを言わないと、干物になってしまう。そうかといって、ナウいことばかりでは古典の味がなくなる”。・・・・・・“ナウい”ねえ。落語ブーム再来間近か、などと言われているが、まず必要なのは、演芸評論家のこういう生乾きの干物みたいな文章を駆逐して、現代に生きた評論を出現させることではな いかな。
体が動かぬ代償か、いろんな本を読む。長山靖生氏から恵贈の『父親革命』(新潮社)。宮台真司、斎藤学といった社会学者、精神医学者の唱えるファッショナブルでアナーキーな家庭像、父親像に対抗する形で、古くさいと思われている“家”制度の中に真の、そして新しい父親像を見出していこうという試み。面白いと思うのは、私もかつて宮台氏との対談の中で、氏の唱えるコギャル礼賛論に対し、戦前戦後の少女小説に描かれた少女像を持ち出して、日本人の原点にある少女信仰を崩すことはできない、と主張したことがある。古くさいとされるイメージの中にこれからの日本のあるべき姿を見出していこう、と説く人の代表者は坪内裕三氏だろう。長山、唐沢、坪内と、どうも古書マニアというのは、やはり古い価値観を大事にする傾向があるので ある。
もう一冊、鴨下信一『面白すぎる日記たち』(文春新書)。日記マニアの私などにとってはまさに面白すぎる本。徳富蘆花の露骨な性愛日記、古川ロッパの戦後の没落日記、宇垣纏海軍中将の感動的な武人の最期までの日記、死の前日まで平穏に書き続けられた入江相政侍従長の日記、吉行淳之介の愛人・大塚英子の地震恐怖(?)日記など、どれもが実に面白く興味深く、たまらない。文句をつけるなら、新書の分量 で はとても物足りない、もっと読ませてくれえ、ということだけだ。
さらにもう一冊、栗田登『人間ドキュメント・力道山』(ブロンズ社・昭和五六年刊)。私は力道山本マニアなので喜々として読んだが、スポーツ紙に連載した記事をまとめて本にしたものだろう。単行本化にあたっての編集をしていないので、連載一回分の章ごとに“スポーツライターの”“フリーカメラマンの”といった肩書が繰り返し登場人物につけられる。そういうのならいいが、遠藤幸吉などは試合中、相手に技をかけられると“イタタ、イタタ・・・・・・”と悲鳴をあげるのが特長、というので何度も何度も“イタタ、イタタの遠藤”と書かれて気の毒である。スポーツ新聞(だろう)だけに、お色気描写がたっぷりで、なにしろ冒頭から妻と力道山の濃厚なセックスシーンではじまり、メキシコの巨象ジェス・オルテガがべリー・ビッグ・オチンチンであったとか、ハーディ・クルスカンプが花電車を見て興奮してあの女と寝たい、 いや見せるだけで乗せないから花電車なのだ、とやりとりをする、ってな描写が山盛 り。岸恵子(作中では沖浜子)と力道山のセックスシーンまで“オマエ、見ていたん か”というような細密描写で書かれるんだからスゴい。珍本。
8時、銀座まで出る。三越前で待合せ、銀座7丁目のルーマニア料理レストラン、『ダリエ』。いつものメンバーで食事会。肉団子、ロールキャベツ、ナマズ料理、羊などなど。オーナーの老婦人がいろいろと説明してくれる。どれもが珍味、美味、怪味。東欧料理というとトウガラシが効いているのかと思ったが、スパイスはほとんど使用されていない。最後に出たデザートのルーマニア風ドーナツが、まずダイエットの大敵ではあれど絶妙なる美味だった。