裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

土曜日

団アナログ

 SMの痛みを物理量で表現しております。……私の好きなシャレというのは、このレベルの言葉の相似のものなんだなあ。何というか、あまりにピタリとはまるでもなく、しかしふっと一瞬、凄まじく意味と音が一致する瞬間があるというか。この好み は人間にも本にも映画など創作物にも、全てにあてはまる気がする。

 朝6時半起床。入浴、カカトの胼胝を久しぶりに削る。朝食、リンゴ、ミカン、お歳暮のコーンスープ。オタク大賞の件で土田さん、おぐりからのメール確認。家を出 てタクシーで仕事場。

 メール確認、アスペクトから次回『社会派くん』対談は12月24日とのこと。クリスマスイブ当日に、渋谷の真ん中で、イチャつきつつ歩くカップル後目に行うとなると、さぞやわれわれの毒舌も冴えるというか、凄いことになるであろう。

 午前中はその他雑用ばかりで仕事モードになれず、やっとなりかけたところで時間切れ。、外出しなければならない。日テレ『世界一受けたい授業』二回目出演。髪がメロメロ状態なので、渋谷西武前のトゥルーサウスで撮影前の整髪をしてもらう。ついでに、このあいだヘアメイクしてもらったおぐりのブロマイド三種類をS先生に進呈。S先生は年内いっぱいで代官山本店の方に移るので、来年からは私も人前仕事のたび代官山で髪をセットする身分になる。ニワトリを割くに牛刀を用いるというか、 それほどの髪でもない(質も、量も)のだが。

 セット終えてそのままスタジオへ、と行きかけたところでネクタイし忘れたことに気がつき、近くの量販店で買おうとするが長蛇の列。なにごとかと思ったが、一時間限定の7割引セール中だった。仕方なく並んで買い、時間なくなったのでタクシーで麹町日本テレビ。どこかで見たお笑いタレントが話しかけてくるので挨拶し、話している最中にあ、このあいだ打ち合わせしたディレクターだったと思い出す。私の記憶もひどいが、しかしバラエティやっているとどうしてもお笑い系の顔になるのか、そ のまま舞台に上げてもおかしくない。茶髪だし。

 完成台本渡されて今日の流れを聞く。前回の出演のときは準備時間があったので、こちらでいくつもネタ出しをして、余裕持ってスタジオ入りしたのだが、今回は年末進行にかぶさり、まったくと言っていいほど自分のオリジナルネタを用意できず、濃い話がほとんどない。せっかく制作側は私を
「1.5%視聴率上げた男」
 という尊敬のまなざしで見ているのに、こりゃ期待に添えられそうもないや、と少しブルーになる。あまつさえ
「生徒役の出演者たちに、どんどん質問させますから、余裕という感じでさばいてください」
 などと言われて、前の打ち合わせのとき、質問は前もってどういうものが出るか、下調べするので教えておいてくださいと言ったろうが! と恨むが、向こうは知らん顔でニコニコしている。信頼されているんだろうが、こっちは、これは唐沢憎しの連中がオレを陥れるために仕組んだ罠か? というような疑心暗鬼になる。

 控え室で弁当(今半の焼肉弁当。さすがにうまかった)食いながらも、赤ペンで、シナリオに思いついた雑学メモ書き込む。書けば書くほどツマラヌものしか思い浮かばず、落ち込んでくる。胃が痛くなってくる。胸が苦しくなってくるのがわかって、缶のお茶をガブガブ飲む。おや、オレは上がっているのか? と思う。舞台に出るとか、カメラの前に立つとかで、上がったという経験のついぞない男なのだが、今日はさすがに、ネタなしでプライムタイム番組に出て雑学博士でござい、という顔をする か、と思うと、罪悪感で緊張するようである。

 出を告げるADの迎えが気になり、ああ、死刑囚の独房ってのはこんな感じかな、などと思う。なんとか平然とした顔で、書き込みで真っ赤になったシナリオを小脇に抱え、スタジオの方の控え室へ。黒い帽子を手渡され、これを今日一番成績のよかった生徒さんに上げてください、それから、最後には次回登場への引きで宿題を何か、 などとダンドリを入れられる。

 しかし日テレというところは凄い番組ツクリをするというか、いくら前に一回出演したとはいえタレントでもない素人に、ノーメイク(やはりこれも伝統か?)で、カメラテストもリハーサルもなく、いきなり本番でしゃべらせるのである。以前は細かく出などを指示してくれたが、もう今回は“ビデオ終わったら出てください〜”くら いで丸投げ。

 仕方ないと度胸を決め、それっぽい顔で出演。心なしか司会の堺正章、上田晋也の二人も前のときよりフランク。上田の結婚をネタにおしゃべりをして、いざ授業に。アドレナリンの血中濃度がぐーんと上がり、しゃべりだしたら、何か自分でもとまらなくなる。今日の生徒には伊集院光のような、自分も雑学をネタにしている人もいてどうかな、と思ったが、ちゃんとこちらを立ててくれる。品川庄司、小橋賢治、さくら、山本真純、櫻井淳子と並ぶと、ああ、さすがゴールデンの番組は光っている奴らばかり集めているなあ、と余裕持って眺められるくらいしゃべりながら落ち着いた。 つまらないネタにも、有田哲平や高畑淳子などはじめ、ワッワと受け、ネタを披露すると“へえー!”(いいのか?)と驚いてくれる。なんだこの反応はとこっちで驚くほど。要はテレビってのは“世間の評価”で全て通る世界なのだな、と実感する。そのネタが実際オモシロイかどうかではなく、“雑学の親玉のカラサワシュンイチの口から発せられる”ということで、みんながそれを価値あるものと思いこむわけだ。

 こういう世界に生息するには、それなりの生態系を身につけねばならないのだなとつくづく理解できた。売れっ子タレントがオーラを放ちながら、どこか異様なのは、“売れている自分”というものへの満腔の自信を基本にしないとやっていけない世界だからであり、かつ、その自信というものがまったく客観性のないものだということから、必死で目を背けているためであろう。

 下調べが間に合わなかったネタで、イタリア関係のものがあり、今日は生徒役にパンツェッタ・ジローラモがいるから、いいかげんなことも言えないしなあ、と思っていたのだが、それに関してはちょうど私のド忘れしていた部分をジローラモさんが最初に口にし、それを受けて、いかにもソンナコトハ前カラ知ッテイタという顔で、補足する形で私が知識を披露する。ジローラモさん自身が
「凄イヨク知ッテルデスネエ!」
 と感心してくれる。質問もかなり出るが、幸い、全部答えられるものばかり。運も味方してくれた。いくつか思いつきのヨタも混ぜたが、大丈夫、ウケがとれたから、正確には違っても誤差の範囲内ですまされる。しゃべりながら、私は一流の香具師になれるな、これは、と思った。伊集院さんが
「さすが神様ですね」
 と、しまいにはカール・ゴッチ扱いで感嘆してくれる。内心ではヒヤヒヤの神様であると苦笑。最後はきれいなまとめの講義で締めくくったが、堺正章校長の表情が印象的だった。要するに進行役独特の、
「よーし、盛り上がって終わった。みなさんご苦労さん!」
 という顔である。いつものライブで私や村木藤志郎さんがする表情と同じである。

 ああ、無事に終わった、と思ってハッと気がついたが、しゃべって間を持たせることに夢中になって、帽子を渡すとか、次回への引きをつけるとかというダンドリを全部抜かしてしまっていた。
「あちゃー、素人でした!」
 である。やはり、かなりアガっていたと見える。しかしそれはFDがパネルで指示してくれなきゃ。まあ、それでも茶パツディレクターさんもうまくいったいったと喜んで、“また次回でいいです、それは”と言ってくれていたからいいか、と忘れることにする。誤謬性への根拠なき自信はこういうところから生まれてくる。今回、私はやはり二時間目で、その前が森永卓郎教授のお金の話、その後が100ます計算の岸本裕史氏とちょっと地味な講師陣なので、まず前回より目立つ とは思う。

 その後、控え室でこの番組の単行本化用のインタビュー。答えながら、興奮していた気がしゅーっと沈静化していくのがわかる。今回のテンションは、やはり“あまり準備していかなかった”ことによる緊張感のなせる業だろう。この番組があまりリハをやらないのは、そのテンションを講師陣から引き出すためだとしたら凄い。落ち着いたら落ち着いたで、胃が今度はキリキリ痛んできた。うまくいった後で胃が痛むというのも変だが、さっきまでアドレナリンが出て気になっていなかった神経性の胃の痛みが感じられてきたということなのだと思う。幸い、これはすぐやんだ。

 局手配のタクシーで渋谷まで。バテたのでタントンに行こうと思ったら満員。隣の 整骨医院で揉んでもらう。背中をさわった整体師さんが
「うわ」
 と、凝りに驚いてくれて深く満足する。あれはサービスオプションの驚きなのではないか。ここは保険がきくので、電気治療もちょっと受けてみる。

 その後仕事場に帰って講談社とメール、電話で打ち合わせ。FRIDAYコラム一本アゲる。雑学という感じではないが、こういう雑誌のコラムとしては読んでオモシロイものになった。書き上げて、またタクシーで帰宅。運転手さんが、降車のとき、
「いつもテレビ見てますよ。最初、どこかで見た顔だなあとずっと思っていたけど、声でわかった」
 と声をかけてきた。はて、いつもったってそんなにいっつも出ているわけではないが、と思ったが、ちょうど今日も収録してきたばかりだったので、テレビの話を持ち出されるのをさして不自然とは感じず、
「あ、どうもありがとうございます」
 と返事をする。そうしたら、
「こないだは相方さんを八王子まで送りましたよ」
 と言う。私をどうも、漫才の誰かと間違えているらしいとわかった。
「これからまた、いい番組を作ってくださいね」
 と言われ、訂正するのも荷だったのでハイと答えて降りたのだが、さて、この初老 の運転手さん、私を誰と間違えたので あるか?

 すでにみんな集まっている。カーター卿、鈴木くん、ナジャさんに春風亭昇輔くん加えて、あのつさんからの仙台野菜の会。昇輔はナンビョーグループとは初めてだったが、そこはオタク同士、ピープロ特撮の話などで盛り上がる。みんなよくマイナー番組のこと覚えているわ。蓮根のはさみ揚げ、聖護院大根と鶏挽肉の煮物、白菜の蟹あんかけ、つけ麺にシャケごはん。また例によってチャンポンでかなりのむ。11時近くまで。夜中に起きたら、喉がちょっと腫れていた。収録と食事会でしゃべりすぎ たか。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa