裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

月曜日

慰〜霊碑〜ヨロレイホ〜

 スイス独立運動に倒れた人たちの碑であります。そう言えば、ウィリアム・テルに息子の頭に乗せたリンゴを射てみろと命じた悪代官の名前はゲスラー。名前からして悪そうだね。朝、8時起床。昨日とはまた打って変わった雨もよい、風もよいの暗い朝。風の音が道路工事の音のように響いていた。朝食、ミートパイとアップルパイを 半分づつ。コーヒー。果物切らした。

 佐々木亜希子さんに昨日メールして、Web現代に無声映画鑑賞会のことを書かせてほしいとお願いしたのだが、無事、快諾の返信。その他、いろいろさまざま雑用を片付ける。しりあがり寿氏の個展に花を贈る注文。
「送り先のお名前は?」
「えーと、しりあがり寿……しりあがりはひらがな、寿は寿退社のコトブキです」
「……会社名とかはございますか」
「はあ、有限で、さるやまハゲの助……いえ、会社名はいいです」
「……で、送り先は、ああ、個展ですか、個展に何か名称等は」
「はあ、えーと、“ドンチャカパラプー”です……」
 相手先に“ふざけないでください”と電話を切られやしないかとハラハラした。

 1時、どどいつ文庫伊藤氏来。いくつか資料本を。脳天気洋書翻訳のシリーズなんか、やれたらいいねえという話を。企画書を作ってみることにする。その後、昼飯。塩辛の残りと、自衛隊の糧食の沢庵の缶詰とでお茶漬け。雨のせいだと思うが、食った後からだが重くなり、寝転がって、伊藤氏から買ったアチラの一行知識の本などを読む。『聖書を食った皇帝』というタイトルで、20世紀初頭のエチオピアのメネリク二世という皇帝は聖書に病を治す力があると信じ、病気の時には聖書を数ページづつ食べていたが脳卒中に倒れた後、旧約聖書の列王記を丸々食べて腸閉塞を起こして死んだ、という記事からとったもの。著者はスコット・モリスという人で、こういう雑学本を他にも何冊か書いているが、読んでいて、アレ、と思う。
「蚊は四十七本の歯を持っている」
「体のサイズと比較して最も大きなペニスを持っている動物はノミである」
「アインシュタインが死の床でつぶやいた言葉はドイツ語。付き添っていた看護婦がドイツ語を知らなかったので、この偉大な科学者の最期の言葉は永久の謎になった」
「人間の目は障害物がなく、晴れた、月のない晩であれば、50マイル離れたところで擦った一本のマッチの灯りを確認することができる」
 といったものは、みな、新潮文庫の『アシモフの雑学コレクション』(星新一訳)に載っているもの。他にもパラパラ見てみたが、全部ではないものの、多くは同書とネタがかぶっている。この著者がアシモフの本をネタにしたのか、あるいはアシモフ とこの著者が同じネタ本を使っているのか。

 4時、時間割にて河出書房Sくんと打ち合わせ。怪獣官能本の装丁のアイデアなどを話す。体調不安定だったが、話すと調子が出てきて、デザインなどでいい案を出すことが出来た。ホッと一息。パソコンがクラッシュしたままらしい永瀬さんの原稿をどうするか、などという件も話し合う。

 1時間ほど打ち合わせて、別れて直帰、原稿。Sくんから追いかけの電話で、装丁に使うブツのこと。海拓舎の名言本の差し替え原稿一本(400字詰め換算3枚半)を6時過ぎ、書き上げて、メール。加藤礼ちゃんから電話。明日の上映会のこと。アスペクトからはメールで日記本の体裁のことについてちょっと変更の件。GWでもいろいろ細かく、作業は進んでいく。蚕が桑の葉を食っていくような感じ。

 7時、幡ヶ谷チャイナハウスで、植木不等式氏と会食。マスターにいつぞやの博多みやげの、鯨の軟骨の粕漬けの缶詰を進呈。なんで中国人はあれだけ悪食なのに、鯨だけは食べようとしなかったんでしょうねえ、と植木氏。話題のパナウェーブというのはナショナルの新製品みたいだとか、スカラー波のスカラーはスケールが語源だとか、いろいろと雑談しながら食事。例のスペイン料理屋に連れていってくださいよ、と植木氏言うが、K子、あそこは狭いカウンターだけの店なんだから、あなたみたいな背脂のついた人が座ると誰もトイレに行けなくなっちゃう、と。おなじみのチャーチィ、豆苗と小エビの炒め物、ユリのつぼみと帆立の炒め物などが出るが、今日は特別に、ナマズの炒め物が出る。ナマズの身を唐揚げにして、それをさらに生姜、葱、梅肉などと共に炒めたもの。三枚におろしたあと丸あげにしたナマズの頭つき。タイ産のものらしいが、頭の部分は叩くとカチカチ音がするくらい固い。身は淡泊で、揚げてあるので川魚の泥くささも消え、生姜と梅肉の香りが上品な一品。骨と尾の部分はカリカリに揚げてあるので食べられるが、オコゼの唐揚げなどと同じ味がする。

 さらに、ウサギ肉とアスパラ、カシューナッツの炒め物も。ウサギ肉はこれまた淡泊な中に旨味があり、これがカシューナッツとよく合う。辛目の塩味がほどよく、酒が進みそうな味。実際すすんで、紹興酒の他に五糧液なる白酒が芳醇なうまみ、グイグイ飲んで、K子にまた叱られる。大した気の利いた会話も出来ず、リーメンにして〆メ。なんと植木氏におごってもらう。いつぞやの六本木でのおごりのお返しということだったが、あれはすぐその後でおごり返してもらったんじゃなかったかしらん。さて帰ろうか、と思ったら、南條竹則氏の一行が入ってきた。植木氏は、残ってその一行に加わる。K子と、あの人、またあれでチャーチィからフルコース食べ直すのではないか、と話す。帰宅10時過ぎ、天気は回復した模様。二日酔い防止のクスリのんで寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa