裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

木曜日

中毒患者の共感

 朝8時起床、8時半朝食。ヨーグルト(ケーキはK子が昨日始末した)とコーヒーで。ゆうべから胃の幽門のあたりがキュッと締め付けられるような感じがして、薬をのむ。腹が減るとまたキュッとしてくるので、軽い潰瘍かな、とも思う。日経DIの原稿をK子に渡し、東大新聞本の原稿直し。項目が多岐に渡っているので整理が大変だが、やっていて楽しい。

 昼は寿司屋のオミヤゲの稲荷ずし。新宿に出かけ、紀伊国屋で少し買い物。紀伊国屋はサブカルコーナーが軽視されてる、と昨日Yくんと話したばかりだが、『カラサワ堂怪書目録』にポップが立っていた。

 帰って少し横になって休む。4時までに東大原稿、手を入れ終わってメール。去年からの持ち越し仕事のひとつをクリア。クリアと言えば、伯父のプロダクション整理にあたって背負ったのが残っていたノンバンク系の支払い、最後の最後のものを新宿で振り込んだ。これで数年ぶりに綺麗なカラダになる。月に1万ばかりのものだったが、やはり精神的お荷物になるものだ、ああいうものは。

 5時から、今日のロフト用のビデオ編集。東映三角マークの種類いろいろ、タイトルバック集など作る。その最中に文化放送から電話、『B級裏モノ探偵団』をテーマに、28日の朝のラジオに出演依頼。7時くらいに迎えのタクシーをよこすという。朝の仕事は荷であるが、宣伝のため、引き受ける。今は著者がどんどん本を宣伝しないと売れない時代。売り込みに回っている作家も大勢いるんだから、向こうから来た仕事を断ってはバチがあたる。

 6時半、家を出て新宿ロフトプラスワン。平山氏、快楽亭に挨拶。雨もよいなので客足が鈍いのが気にかかるが、開演の7時45分くらいまでにはほぼ、席が埋まってホッとする。26日にトークの平野店長も挨拶にくる。何だかオアイソがいい。この人も本を出したばかりで、やはりサービススマイルをココロガケているのであろう。

 トークは例の通り。『七つの誓い』『百面童子』などのビデオも受ける。進行は平山さんがどんどんしゃべってくれるので問題なし。ただし、久しぶりに司会を務めたので、ダンドリがイマイチだった。65点といったところか。平山氏がTVに移り、仮面ライダーをやっていたころ、むかし十年以上に渡って“内容のない”娯楽時代劇を大変な苦労の中で作り続けて来たことを自嘲気味に語ったとき、少年マガジンの内田編集長が
「私の母親は女手ひとつで子供を育て、疲れ果てていた中での唯一の楽しみが大川橋蔵の『新伍十番勝負』を見ることだったんです。映画館の帰り、母親のうっとりとした横顔を見るのが、子供ごころにうれしかったんですよ」
 と言ってくれて感動した話が一番よかった。この話と単純に比較して芸術映画を貶めるつもりもないが、映画の本質はやはりこちらの方になくてはいけない。とにかくこの時代の映画産業の忙しさといったらなかったらしい。この習いが性になったか、平山氏がTVプロデューサーになったとき、矢継ぎ早に企画を出し、現場の者が
「まだこの上仕事を増やすんですかあ」
 と呆れたときの、平山氏のセリフ。
「出来るときに仕事してなきゃ、そのうち一本も作れなくなっちまうぞ!」 
・・・・・・ある意味同じ仕事中毒の者として共感。

 11時半お開き。体調いまいちの快楽亭と、終電のある平山氏は先にお帰り。いつものメンバーといつもの炙り屋。そこでロフトプラスワンの斎藤さんからフットルースのインタビュー。これに答え終わったとたん、体から体力が全部スーッと抜けていき、しゃべるのも大儀になる。料理も焼きオニギリ一個食ったきり、あとはほとんど手をつけず。梅干し焼酎のみ三バイ。帰ってバタンと倒れ込むようにして寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa