裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

土曜日

いつか土木課で

あら、あなたはいつか、あのダム建設現場でお会いした……。

※ミリオン漫画原作 『奇想天外シネマテーク』

夢で名古屋出張。
夢の中の名古屋はまだ一回も行ったことのない街。
時間が遅くなったので、場末のスナックの車で駅近くまで
送ってもらうが、このスナックが名古屋でも有名な
芸能スナックだというので、二階の座敷で食事をさせて
もらうことになる。
テレビで名古屋ローカルのお笑いをやっているが、
口の中がパンパンになるくらい水を注ぎ入れたり、
そこにうどん(きしめんじゃなかった)を放り込んだり、
大阪以上にコテコテのギャグで、
「ここまで地方色が顕著というのは凄いなあ」
と思っていると、その座敷に、肥満児だが手足が異様に長い
小学生がカエルみたいに四つんばいでのそっと入ってくる。
ヒロという名前のこのスナックの子供で、最近、テレビで人気者
なのだという。
彼には予言能力があるのだが、どうしようもない予言ばかり
なので、笑いをとっているらしい。
私が名古屋に来たのはカミオカンデの利用法調査のため
(夢とは言えカミオカンデは岐阜県にあるので、名古屋に来るのは
そう的外れではない)なのだが、ヒロくんの予言によると、
タガメの頭を逆さにした形のカミオカンデを作れば、
エネルギー蓄積から水害防止にまで広く役立つ、ということであった。

朝8時50分には起きるが眠くて眠くて。
9時、朝食、桃(これで最後)とバナナ一本。
トマトとセロリとポテトの冷製スープ。
簡易ガスパッチョという感じで美味し。

自室に戻り、マドが送ってきてくれた同人誌用図版。
いや、ご苦労様といった出来。
オノ&マド夫妻は今日から函館に飲んだくれ旅行。

日記つけ、いろいろ連絡。
19日の日記、記憶が鮮明なうちにつけねばと思っていたが
時間が取れない。ルナティックのサイトを見たら、
乾恭子ちゃんが大変精細な日記をつけていたので、
すぐメールして、これを拝借し、それを補う形で日記をまとめる
ことにする。

仕事最中にセミの鳴き声。
今夏初めて聞く。
昼はシャケ弁当。
シャケ、卵焼き、サヤインゲンの炒め物。

次の書評用読書。
いや、選考会でKトシューが
「これこれ、これ絶対カラサワさん向き」
と勧めてきた本、その悪趣味さにうわーと声をあげるほど。
いや、確かに今の委員の顔ぶれみると、私以外扱えない。
嬉々として読みましたとも、もちろん。

1時間半ほど午睡。
今夜は遅くなるので体力温存のため。
5時、家を出てバスで新宿〜渋谷。
モスバーガーで食事し(これまた体力づけのため)、
資料前にして原稿書き。ミリオンの原作一本。
思っていたよりかなり複雑な内容になるが、それを整理して
複雑に見せないところをミソとする。

最初はIPPANさんと待ち合わせて一緒に池袋へ、
だったがIPPANさん間に合わないとのことで別個に
向かうことにする。9時ジャストに原作書き上げてK子と
編集Yさんにメール。

それから家を出るが、原稿3時間半イッキ書きしたので
ちょいとクタビレ、これはいかんと池袋までタクシー。
新文芸坐へ向かう途中、中野貴雄夫妻と出会って、そのまま
事務所へ。すでに河井克夫さんとIPPANさん来て、
チラシをはさみこんでいた。
『血で描く』、『ホラリオン』、『落語勉強会』などいろいろ。

今回のプログラムは選定した自分でもなかなかマニアックだと
思う4本。うち2本が非ソフト化なのもよかったか、
お客さんの入りもかなりのもので、最終的には昼の興行なみの
入りになった。例によって楽屋の雑談から中野さんトバしまくり。
客席にしら〜さんはじめと学会の面々、睦月影朗さんも
顔を出していた。ケンペーくんが『憲兵とバラバラ死美人』を
見に来るのだな。

40分のトーク、さすがに三人だとアッという間。
以外にも中野さんは今回の上映作品中、『生首情痴事件』しか
観ておらず、河井さんは一本も観てないとか。
河井さん、十年以上前、プライベートなこともあって
落ち込んでいた時代に、まだ富久町時代のロフトプラスワンで
私と中野監督のトーク聞いて爆笑して生きる勇気が湧いたそうで、
「それを思うと今日、そのお二人とトークで壇上に並べたことで
頂点を極めた感じがします」
と。どういう頂点ですか、と笑う。

で、上映、いや、どれも結構。
『憲兵とバラバラ死美人』は思った以上にまじめでケレンのない演出と
ストーリィ。丁寧に作ってあるのが取り柄。
しら〜さんは主演の中山昭二がこの時代からキリヤマ隊長で
あったことに感動したとか。
河井さん曰く
「この頃の天知茂はまだ三白眼でないんですね! と、いうことは
あの三白眼は演技ですかね?」
そういえば歯並びもちょっと悪かったような。

『生首情痴事件』、女優の顔も肉体も昭和そのもの。
セットのチャチさに中野監督が感心(?)していたが、
ストーリィもチャチ、特撮もチャチ、ベッドシーンになると
パートカラーになるのもチャチ。
にも関わらずコワいのは、怪談映画の本領である
「人間同士の欲望の醜さを、怨みを通してそういうものから浄化
された幽霊が見つめている中、人間たちが勝手に自滅していく」
という基本を押えているからであろう。
順子(主人公の愛人)の包帯姿も、その中の目も鼻も焼けただれて
無くなったメイクもコワいが、それら人間たちが一斉に自滅する
シーンには、金のかかった(ストーリィの凝った)作品からは
伝わってこない、ダイレクトなインパクトがある。
見終わったあと、会場のお客さんに
「カラサワさん、いや、面白い映画を見せていただきました。
ありがとうございました!」
とお礼を言われた。

で、三本目お待ちかね『悪魔が呼んでいる』。
いや、観るのも二十五年ぶりくらいで、冒頭のトークでかなり
絶賛したが大丈夫か、脳内で美化しすぎていないかと
思っていたが、大丈夫、あの頃思った通りの面白さ。
その面白さも、“小粒”な面白さなのだが、こういう小技の効いた
映画は今ではもう制作できまい。
驚いたが、同じ山本廸夫監督の『血を吸う人形』との併映作品だったそうで、
と、いうことは二本同時制作だったのか。
冒頭からいきなり酒井和歌子に理不尽な不幸が次から次へ
襲いかかり、会社は首になる恋人(チョイ役出演の下条アトム)
には捨てられる下宿は追い出される空巣に預金通帳を盗まれる
泥棒の嫌疑はかけられる。しかも、その周囲に怪しげな連中が
わらわらといきなり出現してくる。
その怪しげな連中を演ずるのが藤木敬、西沢利明、北林谷栄、
大滝秀治というのだから嬉しい。

ほとんどのセリフもシーンも克明に覚えていたが、また忘れていた
シーンや人物もあり。下宿(この建物がレトロチックでいい!)
のおばさんが野村昭子で、今と演技も声もほとんど変わらないのが凄い。
それから、悪人ではあるが怪しくない、ヤクザとその情婦が
今井健二と田村奈巳。この二人の存在はころりと抜け落ちていた。
今井健二は東宝系で固めている出演者の中で唯一の東映系で
芝居が全く違うのが興味深い。東宝系演出が一種のアーティフィシャル
な演劇的なものなのに対し、東映はリアリスティック一辺倒なのだ。
東宝が特撮・SF映画の主流になったのも、このアーティフィシャル
的な映画作りの社風がSFにマッチしたからだと思う。
田村奈巳はその特撮ものテレビ、ウルトラセブンで『超兵器R1号』
のマエノ博士を演じた女優さんだが、オトナの雰囲気を漂わせていた
マエノ博士役の二年後に演じた役なのに、ヒッピー風の、今井健二の
愛人(?)の若い女の役。女優は化けるなあ。そう言えば『R1号』
でセガワ博士を演じた向井淳一郎も刑事役で出演していた。

酒井和歌子がピンチになるたびに、どこからか聞こえるオカリナの音。
そして大滝秀治の大怪演、北林谷栄のこれまた大怪演。
場内大笑いしてくれたので満足。
あと1本の『散歩する霊柩車』も実は傑作なのだが、
東映チャンネルで放送したときのDVDをもらっているので、
明日のことも考えてそこらで辞去。

しら〜さんと一緒に、最近オールナイトのたびの定番になっている
焼肉『いろは』で夜食というか、もう3時半なので超早朝飯というか。
生ビール、真露に味噌タン、ネギ塩カルビなど。
食べながら、今日の話、出版の話、それから例の件など。
これはちょっと、きちんと対応を考えておく必要あり。
5時の看板まで居て、タクシーで帰宅。
何も考えずにベッドに潜り込んで寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa