裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

月曜日

秋田空港はどこですか、の記

朝8時起床。急いでシャワーのみ浴びる。8時半朝食。ブドー、リンゴ。いろいろ雑用しようとするも何ひとつ片づかず、企画の件でバーバラ・アスカさんに仕事依頼メール打ったくらい。

この企画、前のペンディング企画に関する問い合わせがあったので、イマイチだから流そうということになり、さて何か代替案が、と考えたとき、コレコレ、というのが目の前にぶら下がっていることを思い出したのである。
バーバラさんから
「これは思いつきませんでした。さすが」
と返信。企画屋ジョニーと呼んでくれ、などとつぶやきつつ、出かける準備。外はかなりの雨。

タクシーで東京駅。弁当を調達しようと大丸の地下をうろつくが、これで案外時間くってしまい、少しあせる仕儀になる。10時56分の秋田新幹線“こまち”だが、“やまびこ”と連結していて、こまちの方はホームの端。小走りにホームを駆けて、乗り込んだのが発車2分前。汗をかいた。

車内で仕事しようとモバイルでネットにつなぐがエアHは新幹線の中では遅くてダメ。大丸で買ったすき焼き弁当食いつつ、3時間半の秋田への旅。携帯に催促電話数件。依頼あったことすら失念していたものあり、反省。

出がけにカバンに放り込んでいた『新潮45』10月号読む。中村うさぎがデリヘル体験を書いている号。買ったは買ったがおぞましくて、いやいや、忙しくてこれまで読んでなかったのだが、読んで感心。その内容はともかく、文章はうまい。音楽的センスがあるというか、テンポのよさでかなりエグい内容を笑わせながら一気に読ませてしまう。これになんだかんだ言う奴は野暮だろう。

記事としては『明治・大正・昭和 皇室10大事件簿』がゾクゾクするほど面白い。こういう伝説的事件は国民の財産だな、とすら思う。盛岡を過ぎたあたりまで満席であったがそこから先は空く。やたらダミ声の関西弁でしゃべる親父さんがマネージャーらしき女性と乗っており、関西系の芸能人か文化人だと思うのだが、顔を見ても思い出せない。

2時24分、大曲駅着。改札口に秋田商工会議所の人が出迎えていて、タクシーで会場へ。控室でFRIDAYコラム一本、書き上げてメール。やがて案内されて会場へ。平均年齢50歳というところか?一時間半話す。話の方の受け方、まずまず。笑いとかは少ないが、こういう会の人たちというのはトークライブの客と違って、「大声で笑うのは講演者に悪い」と思っているのだから仕方ない。もっと笑わすように話し方を工夫すべきか、この程度の真面目さの方がいいのか。ラストにもってきたクイズは大受け。これを最初のツカミに持っていく方がいいか。次回から考えるべきこと。

終わって写真撮影少し、それから懇親会に30分ほど出席。大曲名物の花火のビデオが冒頭にあり、これは本格的。私を会場まで案内してくれた講師担当の人がこの大曲の花火大会の企画者で、とにかく花火大好き人間であるらしい。懇親会の席は一番エライ方々の中に混じらせられる。出羽鶴という秋田の酒があったので飲んでいると、
「講師の先生もいろいろ呼んだが、酒を飲んでくれたのは初めてだ」
と、市のエライ人が感激して握手を求めてきて、
「いや、秋田に来たら酒でしょう」
と言うと、回りから酌の手が無数に伸びてきた。なんか、別に決して秋田の人をバカにするわけではないが、原住民が、自分たちの食い物を一緒に食べてくれた白人の学者を仲間と認める、みたいな雰囲気。花火も褒めると、
「来年は審査委員やってもらわねバな、こら!」
と大の機嫌。
「ウチの花火は打ち上げの地響きが醍醐味だから」
と言われる。地響きですか。

30分で飛行機の時間があるので、とタクシーに乗り込む。この運転手さんがまたいろいろ話し好きな人で、面白かったのは、顔といい話し方といい、マイミクのぽんさQさんそっくり。もちろんかなりディープな秋田言葉なのだが、ぽんさQさんが秋田弁を使っている、という感じ。

秋田空港までの道というのが、空港道路とは思えないくらい閑散(まだ7時前なのに真っ暗だし)。しかし仙北平野をまたいで夜空に月がかかり、その月をうっすらと覆う雲の大海が、地平に残る明かりに照らし出された空の光景は、雄大というか幽玄というか、素晴らしい。ちょうど雲が海や大陸を覆う地球の光景が実物大で空に反転して映っているような、そんなイメージで、思わず忘我の境地で窓から眺める。運転手さんもそれで我を忘れたのでもあるまいが、途中で
「アレ? この道でなかったナ。どこで間違(ツガ)ったかな?」
とつぶやき、山の向こうを見て
「あ、あっツ側にツラツラ(ちらちら)灯が見えッけ、あれが多分そうだナ」
と、まるで落語の『七度狐』か『万金丹』みたいな心細いせりふを吐く。
どうなることかと心配になったが、やがて無事、秋田空港到着。お土産売り場を見るが、馬肉のみそ漬け、ハタハタのなれ鮨、いぶりがっこなど、買って帰っても母もK子もあまり喜ばないようなものばかり(私は大喜びなのに)。羽田の混雑で出発が30分ほど後れたがフライト自体はつつがなく、9時15分着。K子に電話、くりくりで待ち合わせて食事。こういうことが出来るんだから文明というのはありがたい。

絵里さんに、こないだお父さん(沼田曜一氏)と会ったよ、と話すが
「アア、なんか怪しげになったでしょ。アレはダメよ」
とニベもなし。子供から見ると父親はな。タルタル、イイダコとズッキーニのオーブン焼き、ニンニクスープ、自家製パスタなど。ワインとビール。

帰宅12時。またまた半身浴、湯を張ったまま寝てしまう。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa