裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

月曜日

名古屋から赤坂、の記

朝6時半起床。7時に朝食バイキング。納豆でご飯一杯、味噌汁。食後、モバイルでFRIDAY四コマネタ3本。9時24分の新幹線のぞみで帰京。

10時59分には品川へ。名古屋というのは大阪に比べ近いな、と実感した。品川駅のエスカレーターを降りていたら、上ってきたアポロキャップの若い兄ちゃんが挨拶してくる。見たらくりーむしちゅーの有田くんだった。お互いタビ仕事の行き帰り、か。

タクシーで渋谷へ。運転手さんがかなりヘビーな大阪言葉ユーザーなので東京へ帰ってきたんだかなんだか、という感じになる。
「東京出てきてもう30年になりまっけど、この年になるともうよう直しませんし直せませんな」
と。

雨の中仕事場。思えば長野といい名古屋といい、天気にはめぐまれた旅行ではあった。仕事、FRIDAYコラム一本、週プレテープ起こしから原稿一本。3時、赤坂プレイBOXにて『清水ひとみの大女優宣言』観る。かなり複雑な場所にある劇場で、迷いますよとツチダさんやおぐりに言われていたのだが、ここらには土地カンあり、すぐに着く。

力丸さん、ヤッタさんなどがいた。入ったらツチダさんが手伝っていて、打ち上げにも参加してほしいとのこと。メールにもあったし、名古屋でおぐりにも聞いたが、演出の喰始さんが私のファンで著書もほとんどそろえている、ということらしい。

私は学生時代に東京ヴォードビルに通いつめたこともある男だし、さらにその前は『ゲバゲバ90分』でギャグ感を変えられた人間である。その人が自分のファンであるというのは、どうも不思議な気分だ。

『あぁルナ』の人たちやティーチャ佐川先生、川瀬有希子さんなど、知りあいの顔も。千秋楽とあって客席は満員、熱気のこもる中、開幕。さまざまな形の男女関係、というだけの縛りで、てるやひろし、村木藤志郎、コンタキンテという個性派三人が清水ひとみにからんでいく。

最初のてるやさんのはゲイ雑誌のモデルと、その写真をピンチヒッターで撮ることになった、結婚願望のある女性カメラマンの話。

何か『ラブ・アクチュアリー』の一遍のような設定であり、しゃれたコメディといった風。続いての村木座長との二人コントは離婚届けのサインを前に、せめて結婚期間のいい思い出をお互い思い出しあって別れよう、としている夫婦の話。

当然のことながら村木さんの芝居ゆえに全編口だてのアドリブ。何かうわの空のエチュードをそのまま舞台上で観ている感じで、ドラマ的な起承転結をあえて無視して起承承承・・・・・・みたいにつないでいくユルさが非常にいい。二人のキャラの性格をもっと極端な正反対に初期設定しておけば、やりとりももっと盛り上がったのでは、と思う。これはてるやさんのコントのときにも思ったことだが。オチがポン、と投げ出された形で終わったのも結構。最後がコンタキンテさん。

イッセー尾形の初期を思わせる告白コントから入って、彼に惚れた女性(清水)の術中に次第にはまっていく超マジメ人間(でもアル中で禁酒中)の姿を描く。コンタさんが今回のゲスト三人のうちでは一番演劇とはちょっと違う畑出身の人なのに、最も演劇的なストーリィを作っているというのが面白い。

コンタさんの半端な二枚目ぶりが非常に効果的で、マジメさの裏にある破滅型性格と必死に戦っている独り芝居が最高。全体的に見て、清水ひとみさんが非常に芝居の出来る女性で、相手役の男優に合わせてしまっているので、結局主役三人、助演女優一人、というイメージに終わってしまっていたのがやや、残念。

これはホンを書くのがゲストたちなのだから仕方ないが、清水さんの舞台なのだから、個性派男優たちを向こうに回してどんどんはっちゃけていく清水さんをまず、見せてもらいたいという気がした。

もちろん、これは三者三様のコントがそれぞれ大変にいい出来であるから故の不満なのだが。見終わって、村木さん、清水さんに挨拶。清水さんには
「笑い声をちゃんと聞かせてもらって安心しました」
と言われる。
いったん仕事場に戻る。

原稿書いたり、メール連絡取り合ったり(日テレからまた『世界一』収録日問い合わせあり)いろいろ。とって返してまた赤坂。

打ち上げに参加させてもらう。喰さんと挨拶。私の本や連載からよくネタを拾わせてもらっております、と言われて恐縮。いろいろと話を伺う。ソフトな中に非常に鋭い批評眼を持っている人、という印象。顔が誰かに似ているな、と思っていたのだが、どどいつ文庫の伊藤さんとと学会の藤倉さんを足して二で割ったような感じ。

村木さんは今回の舞台に参加して、喰さんの指導を受けて非常に有意義だった、と繰り返していた。それは私も如実に感じる。自分と正反対の意見である場合もあるのだが、それでもなおかつ、こちらのいい刺激になるのである。

「今回のゲスト三人はみんな大変にまとまっていていいが、またその意味で大変によくなかった。もっとハジケていい」
と言う。

私の紀伊国屋での芝居も観てくれていて、
「声もいいし達者だけど、“オレはただの芝居はやらないぞ”という意識も紛々だった」
と言われて苦笑。

海谷さん、柴田理恵さんなども来て話が盛り上がる。てるやさんの輪に入って話していて、
『あぁルナティックシアター』の佐々木さんから「“かんのむし”って何なんですかね、あれ?」
という質問が出たので、
「あれは極度の興奮でトランス状態になり、皮膚の浸透度が高くなったときに血小板が・・・・・・」
と説明して、
「かんのむしのことを即座に説明できる人ってヘンですよ」
と言われる。

やがて大入り袋配り、なんと私にまで出してくれた。清水さんって人はホントに心配りの人だなあ。この気配りの精神を超えて、女優のわがままを舞台上で通せるようになったときが本当の大女優宣言の日なのだと思う。

喰さんが最後の挨拶でダメ出しをし、清水さんの挨拶がただの挨拶で面白くない、そこでまで演出しないといけない、と言ったのにちょっと感服。

人が見ている席全てで女優は女優なのだな。これは勉強になる。11時半、清水さんと固く握手して辞去、家に帰ってメールチェック。FRIDAYコラム、“カテリーナは日本のやくざが起こした人工台風であるという説”を紹介したのだがFRIDAY読者にはあまりにトンデモ過ぎて理解の範疇外、という感じでボツってしまった。

半身浴30分ほどで切り上げて寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa