20日
水曜日
俺はカバラの枯れすすき
どうせ二人は神秘主義、意味のわからぬゲマトリア。朝6時起き、二日酔いなどは全然ないが、まだ吐息に昨日の白酒の芳香が残る。凄いもの。おぐりゆかに、“起きてますかー”メール。すでにデニーズで朝食中だった。村木座長からも5秒前に起きているかコールが入ったそうだ。入浴、7時半にメシ。バナナ半本とリンゴ。衣装を揃え(と言ってもワイシャツとネクタイだけ)、まだ時間あるからとメールなど編集 部とか宛に書いていたら、時間がセッパクしてしまった。
急いで雨(台風今夜関東直撃)の中、タクシー拾い原宿のBS朝日スタジオまで。ところが台風のせいで道が混み、時間がやたらかかる。途中でツチダマさんから携帯に確認が入るほど。15分の遅刻となった。こないだはおぐりの遅刻をいろいろツッ コンで笑っていたが、こちらが遅れちゃ話にならない。
今日はこないだの楽屋が別の番組に押さえられているらしいので(ジュディ・オングとかの名があった)、会議室みたいな場所に入れ込み。すでにおぐりはメイク(これもメイク室でなく別の部屋に鏡などを持ち込んでいる)に入っていた。着替えなが ら村木さん、ツチダマさん、見学の尾針ちゃんなどと雑談。
おぐりメイク完成後、すぐこっちもメイクにかかる。結局、こないだ“次回は早めに楽屋入りして台本読み合わせよう”と予定していたのがダメになる、まあ、それはそれなりにお互い緊張感があっていいのだが。ただ、台本が二人の慣れを予想して、前回のものよりどのコントも複雑になっているので、カメラ回る前に毎回、一度自主リハをやった。“もう一度やってみましょう”とディレクターサイドからのリテイク指示もこの前の初回よりかえって多かったが、これは掛け合いがギクシャクした、ということではなく、前回の出来を受けて、スタッフたちにも“もっとよくしよう”的な欲が生まれてきたためだと思う。演技が終わったあと、調整室のチーフ・ディレクターさんの笑い声が、スタジオスタッフのレシーバー通して聞こえてきたりした。あと、今回からみずしな孝之さんによる二人の似顔絵がバックの壁に飾られたが、おぐりがアップになると、画面の右上にちょうどいい位置で、その似顔が入って、絵と実物が一画面に同時に入る。視聴者に印象づけるのにはちょうどいい効果になっている のに喜ぶ。
四回分(オンエアでは第五回〜第九回分)の収録した中に一回、おぐりの眼鏡外し(ミクシィなどでのおぐりファンたちによる要請)を入れたが、さらに思いついてもう一箇所で、故意に眼鏡を外させて、アップでその表情を録らせてみる。可愛いけれど、メイクさんが気をきかせてくれて、眼鏡顔でも表情がくっきり出るように、眉を 濃く塗ってくれている。少し男性的な顔になってしまったかも。
おぐりの武器は凄まじい現場度胸だろう。いや、それだけかもしれない。他はセリフも演技も毎回変わるし、せっかく入れた眼鏡はずしも抜かしてしまったりするし、テンションを自分で調整できないからリハの回がベストという場合もやたら多いし、困ったもんなんである。第一回の台本を送ったときには、稽古場で私の役を村木さん がやって何度か練習してみたが、ぜんぜん芝居が出来なくて、奈緒美さんが
「ねえ、それ、いつ録るの? え、そんな近いの? 大丈夫? 大丈夫?」
と大心配したそうである。にも関わらず、モニターで見ると、誰より場面をさらっていってしまってるのである。スタジオという“場”に完全に同調できるのだろう。普通、ミスによるリテイクが重なると、現場のスタッフの顔に、かすかなケイレンが走り、“困ったもんだよ、いつまでかかるんだよ、このド素人が”となるものなのだが、彼女の場合、“どひゃー、やっちゃいました!”とNG出して叫ぶと、スタッフ たちの顔が逆にゆるむのである。こういう現場は初めてである。
しかし、私は声の芝居ならちっとは自信あるのだが、体の芝居は全然ダメ。足が動かないのはまあ、仕方ないにせよ今日は坐り芝居にも拘わらず、視線の位置が定まらない、手をどこにおけばいいかが直感でわからない。うろうろと所在なく動かしているだけ。ことにオチを決めたあとが、体の各部分のポジションが定まらないという感じで情けない。『ガラスの仮面』に出ていた筒井康隆の芝居がまさにこれで、腕や足 をじっとさせていることが出来ないで細かに動かして小芝居しているのを見て
「ケッ、文士芝居を電波に乗せるんじゃねえ」
とか心の中で思っていたのだが、自分も同じことやっている。
サクサクと収録は進み、11時半には終了。楽屋でみんなで弁当を使う。次回のネタ出し、携帯コミビアに出した四コマだけではもうネタが限界(あっちの方はエッチネタとかが注文で多かったため、ほとんどテレビでは使えないのである)。来年の収録からは、FRIDAY用のマンガに着色して使わないといけないだろう。デザートにと、長野で買ったリンゴ(陽光)を持ってきたのをみんなで食べていたら、ムスコさん(ADのKさん。韓国の人で、体型がちょっと、ディズニーランドに密入国しようとした某国の首領さまのムスコに似ているので、われわれはムスコさんムスコさんと呼んでいる。初めて聞いた尾針にもいっぺんでわかったんだから、よほど似ているのである。顔は全くの善人顔なのだが)が、“ア、この次はデザートも用意します” と言ったのに恐縮。
雨、やや小降り。原宿の裏通り、ブラームスの小径の方まで行って、そこの和風喫茶に入る。人数が多かったので、座敷にあげられ、座布団で正式なお抹茶を飲まされるハメになる。ハメになるということもないが。尾針がきちんと作法をマスターしているのに驚いた。1時間ほどいろいろ雑談。朗読ライブのことなど。途中、某社某くんから携帯に電話。“ハイ、では原稿は今日じゅうにアレしときます”と言った、そ の“アレします”が親父言葉だ、とみんなにツッコマレるので、
「いや、“今日中に書きます”だと相手に言質とられるでしょ。“今日中にアレ”だと、あとから追求されても、“書くと言った覚えはない”と逃げられる」
と説明したら、“うわあ、オトナの汚い世界だあ”と。
出て、日曜のライブの小道具を買っていくというみんなと別れ、帰宅。ミリオン出版原稿にかかる。なかなかサクサクとはいかず。気圧の変調がもちろん一番大きな原因だが、そればかりでなく、今回のネタ元の本が戦時中に執筆された本で、テーマは日本人の無理心中の考察という艶っぽくもあるものなのに、文体がとにかく硬いこと硬いこと。二見書房Yさんよりメール。書き下ろし本の打ち合わせの件なのだが、い ろいろとディープなことも。
風はそれほど強く吹いていないが、雨はしげく、雨足棒の如し。ロフト斉藤さんから電話。今日は夜、読売新聞の鈴木美潮さんと斉藤さんと、会食しながら『平山亨の人生を訊く!』イベントの打ち合わせの予定だったのだが、台風で交通機関が止まる可能性があり、帰りの足に差し障るかも、なので来週に延期ということにする。未書き上げ原稿ある身には有り難かった。
とはいえ、たぶんこのまま原稿書き上げてしまうまで仕事場にいるとなると、直撃の中を帰宅しないといけなくなる。書いた原稿を自宅パソコンの方にメールして、そうなれば、と先に帰宅、家で原稿書くことにする。タクシー幸いすぐつかまり、新中野。サントクで飲み物と食い物を確保し、独り(K子は今日はフィンランド語。これも大丈夫か気になる)で部屋に籠もり、ミリオン原稿。9時半に書き上げて、編集部 Yくんにメール。
ホッと一息ついて、DVDでだいぶ前に買って未見だった映画やテレビものなどを見ながら、缶ビールあけて、サントクのギョーザや肉団子等つつく。こういうのもたまにはいい。見た中に台湾の人形劇『聖石傳説』があった。いわゆる武侠ものストーリィだが、登場人物があまりに多いし、ストーリィがやたら入り組んでいる上に、日本で発売の第一巻は本国での第九巻。途中から何の説明もなく戦いが始まるのを見るわけで、何がどうなっているのかサッパリ分からぬ。戦いのシーンは迫力あるが、それがただ並列につながっているだけで、話の運びは平板、人形の操演も日本に比べれば稚拙。しかし、変に高踏ぶらない安っぽいところがいかにも大道の武侠講談調でいい。テレビシリーズは30年続いて最高視聴率97%(!!)とった番組だとか。こういう国民番組がまだある国はうらやましい。その話をするだけで、台湾人はどこに行っても誰とでも話が通じるわけである。それにしても30年続いている番組という のは凄い。要するに『新八犬伝』がいまだ続いているということか。
缶ビール小2カン、かぼす割りソーダ焼酎2杯のんで、〆は納豆二パック。昼に楽屋弁当を使ったので食べなかった握り飯を、割って椀にぶちこみ、この納豆でかきこむ。うまさ、言語に絶した。K子は11時過ぎくらいに帰宅、雨は凄いが風がないので楽だったとのこと。