裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

土曜日

ぼくはジェッター、松岡正剛応答せよ、松岡正剛

“遊”正剛、ですね。朝、6時ころ目が覚める。それまでは快い安眠だったのだが、一旦目が覚めるとあとはひっきりなしの咳き込みとノドのゴロゴロ。体力と体液をだいぶこれで失う。橘南谿『東西遊記』(東洋文庫)を拾い読みしながら咳のおさまるのを待つ。7時半、離床。朝食、豆サラダ。

 午前中、じゃんくまうすさんのカタログに出すK子の漫画の古本ネタを構成して、仕事場にFAX。どうも今週は風邪でまったく仕事らしい仕事が出来なかった。天気もいいし、ゲン直しに、と思い、地下鉄で神保町へ出て、書窓会古書展。金は使わないという基本方針であったが、幸い、それほど買いたくなる書籍なし。昭和二年発行の犯罪予防読み物『性的誘惑の種々層とその対策』(前田誠孝)をタイトルにひかれて三五○○円で、それから多田道太郎氏の角川文庫版が揃いで出ていたので、ベッド読書用に、と一○○○円で買ったのみ。それからぶらぶらと各書店をほっつきつつ、カスミ書房さんにも行ってみるがクローズドであった。

 腹が減ったので、ランチョンでランチステーキ。焼き方が上品すぎていけない。も少しランチのステーキというのはコテコテな焼き方でないと、などと文句を言いながら、ノドが乾いたので三ツ矢サイダーなども注文、買った多田道太郎『物くさ太郎の空想力』などを読みつつ、しばらく過ごしているうちに、体調がヘンになってくる。やはり歩いて汗をかいて、この店で上着をとってワイシャツ姿でいたのだが、体温が急に下がって、変調を来したらしい。あわてて出て、後半の店めぐりは中止し、地下鉄で帰途につく。

 なんとか車内で状態は回復。表参道で降りて紀ノ国屋で買い物。ちょうど、大がかりな反戦パレードの先頭にぶつかる。『イラク攻撃反対』って、なにか六日の菖蒲的なうたい文句を平気で掲げている神経がよくわからない。まあ、反戦も反米も反日も個人の自由ではあるが、愛を、愛を、と口走る彼らのかかげるプラカードには、吸血鬼のように牙を剥きだし、血をしたたらせたブッシュや、悪魔のツノを生やしたブレアや小泉の絵が描いてある。なんでアズナールがいないのかな。愛を強調しようとするためには、憎悪の対象を規定しないといけないという矛盾には気がついていないようだ。まあそれもいいが、『ワールド・ピース・ナウ』の旗をかかげて行進していた彼らの歌う歌のフシが“♪ピースナウ、ピースナウ、ピース、ピース、ナウ”というもので、はてどこかで聞いたが、と思ったら『ミッキー・マウス・マーチ』だった。否定する国のシンボルみたいな存在のテーマソングを使ってどうする。

 買い物を終えて外に出ても、まだデモは続いている。その中に、知った顔を確認した。ロフトプラスワンの平野店長である。実に楽しそうな顔で、なにかムシャムシャと食べながら歩いていた。全共闘世代の人にとっては、こうして再び反米を唱えながらデモ行進が出来るなんてのは、青春が戻ってきたようなうれしさであろう。若いころ彼らがやっていたデモとかが、いったい日本に何をもたらしたのか、そんなことはどうでもいいことなんだろうな。

 帰宅して、発酵茶飲み(紀ノ国屋本店にも長崎飲料の発酵茶が入っていたので大喜びした。最近はペットボトルの茶はこれ以外飲む気がしない。なぜ東急地下店はこれを置かない)、メールなど確認。岡田斗司夫さんからメール。次のモノマガジンの日記で、こないだ渋谷銀座ライオンのメシをまずい、と私がこの日記に書いたことにつき、苦情を申し立てているので、という挨拶。いつも常に相対的な視点で一般常識の善悪二元論にこだわらぬ発言をしているカラサワシュンイチともあろうものが、あんな風にただ“まずい”であそこの料理を切り捨てているのはイカン、というような内容。そうか、これは悪いことをした、と猛反省、すぐ謝罪のメールを返送する。あそこのメシはただ“まずい”だけではない。相対的にも絶対的にも、とにかく言語を絶してマズイ、のであった。しかし、添付されていた岡田さんの日記の内容、質量ともにもう、天馬空を行くという活躍ぶり。こらかなわん。

 寝ころんで、今日買った『性的誘惑の〜』を読んでいたら、中にちょっと超能力がらみの、トンデモか、と思える記事があった。ちょうど、K子からと学会会誌への原稿を催促されていたところだったので、これ幸い、と、これをネタにして一本、書き出す。体調の割に案外スラスラと行き、7枚半を1時間少しで書き上げる。さっそくK子にメール。神田古書市であれだけ本を買わないのも珍しかったが、買った本がこうすぐ役に立つとはまるきり無駄な日でもなかったな。

 9時、参宮橋くりくり。体力消耗からくる鬱状態だったが、話している最中は案外快活に受け答えできる。とぎれたあたりで急速にガクン、とくる。これではいかん、とワインを飲むと、K子にペースが速すぎる、と叱られる。どうにもならぬ。料理はキノコのソテーにあなごのオーブン焼き、それと雛鳥のロースト半身。半身、とあるのを見てK子“まあ、上半身? 下半身?”てのはよし。フェンネル風味ライスが添えられており、これが珍味だった。自家製パンはイチジク入り。帰宅して、鼻炎薬を飲んで寝る。酔いと薬の麻痺作用と鬱とで、何がなんだかわからぬ精神状態になる。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa