17日
木曜日
お前が厩火事てばかりいるから
真打なのにこんな基本の古典もやれない落語家が出来るンです。風邪で朦朧としてロクな駄洒落も浮かばない。大野ヴァン・ヴォークトなんてシャレを床の中で作ったが、大野伴睦はおろか、今の若い人はヴァン・ヴォークトも知らないかも知れぬ。朝7時半起床。かなり回復したようだが、まだ今日一日は恐縮していないといかん、というような体調。朝食は久しぶりに豆サラダ。大豆・グリンピース・トウモロコシ・ ミニアスパラ。
昨日ほど鼻はグズらない。その分、タンがからむ。咳をすると胸が痛む。ドームの屋根にヒビが入っているような感じ。熱は感覚はあるが、昨日までのことから、大したことはなかろうと判断。汗甚だし。口唇炎は昨日と同様。さわらないよう注意すればこれ以上は広がるまい。立って歩くとまだヨロつく。食欲はないが、昨日ほどではない。鶴岡から電話。華倫変のこと等。カリンペン救助隊とか、師弟で考えることは同じ。あれはタツノコの歴史から抹殺された作品なのか、とか、華倫変はどこへ行っ たやら。
それでも話題が自殺に戻ると“あまり大きな声じゃア言えませんけどね、オレ、唐沢さんの死は自殺じゃないか、って気がずっとしてるんです”“それ、みんな言うなあ。なをきなんかも、凄くそれを心配している。伊丹十三が死んだとき、会ったら第一声が「お兄さんはああいうことしちゃいけないよ」だった”“師匠ってエピキュリアンじゃないですか。人生の楽しみに飽き果てたあたりで、じゃあもう死ぬか、ってフイと死んでしまうような気がする”“うーん。じゃあ、長生きを人生の楽しみにすりゃいいんだ”“いいですね、趣味、長生き”。
日記つけ、シャワー浴びてベトベトの頭を洗ったあと、しばらく横臥。すぐトロトロとなる。さまざまな妄想浮かぶ。起きたらもう2時。昨日買っておいたホタテおこわ半分で昼飯。根深汁を作って熱いのをすする。これがいい感じ。3時、家を出て、時間割。ゆまに書房Tくんと初打ち合わせ。Tくん、こちらで予想した通りの感じの古書オタク的人物。大カバンとリュックを手にやってきて、中から古書をいくつも取り出してみせる。珍本・奇本がゾロゾロ出てきて、今度の企画(私の監修で『唐沢俊一少女小説コレクション』を出す)、Tくんのコレクションで行けるじゃないの、と言う感じ。彼は私の『美少女の逆襲』を読んだときは、まだ学生で、“こういう小説を丸々読んでみたいなあ”と思っていたが、“まさかその後本当に出版社に入り、こういう叢書を企画するようになるとは”と、人生のフシギさに驚いている感じ。何にせよ、古いもの、名にのみ聞くものが手軽にきちんと読めるようになるということは大事なこと。
彼と別れて、買い物に東急本店地下。帰宅してメール整理。昨日行けなかった新感線の芝居は植木さんや加藤礼次朗も行っていたらしい。開田さんからは粟根まことさんのメッセージが。幻冬舎Sくんからは、『大猟奇』『世界の猟奇ショー』共に増刷のお知らせ。気がついてみれば前者が5刷、後者が3刷。やはり殺人モノは強いか。光文社Oくんからも、文庫本の予定2冊。編集長が替わったので、新たにまた企画を提出する必要がある。
扶桑社から『日本オタク大賞』見本刷り、届く。やっと、というか何というか。気分としては、早く次の企画に入ってくれ、というだけ。担当のOくんにすぐハッパをかけるメール。それから、こないだのネットナビからインタビュー記事チェック。事実関係のみ赤入れて返信。“文章の言い回しについてのチェックはご容赦いただける と助かります”と。よくそこらに手を入れるのを見透かされたか。
8時半、夕食の支度。キンキの蒸しもの、大根と油揚げの煮物、カツオ刺身。K子がご飯モノも食べたいというので、パックご飯で鮭チャーハン。好評。ビデオで中平康監督・宍戸錠主演『危(ヤバ)いことなら銭になる!』。これも学生時代オールナイトで観て神の如くあがめたてまつっていた映画である。なにしろ池田一朗(後の隆慶一郎)と山崎忠昭(後に『ルパン三世』第一シリーズに参加)が脚本担当。徹底して日本調の情緒を廃し、早口の(なにしろ左卜全までが他の作品の倍くらいの早口でしゃべる)セリフ回しによるギャグ、漫画チックに誇張されたキャラクター、アイデアを駆使した二段、三段構えのドンデン返しとアクション、日本映画の希有なる傑作である、観るべし観るべしと吹聴して回っていたのは若かったねえ。今は都電が走っている都内の情景、チキンラーメンの宣伝カー、クリーム色の電話ボックス、薄汚くゴミゴミしている横浜中華街、などという昭和37年当時の風俗の記録として見る方が楽しい。まだ風邪引けず、酒の過剰摂取は控え、発酵茶で割って三杯ほど。他、撮り溜めしておいたビデオ数本見て、11時半、就寝。