25日
水曜日
観劇日記・8『黄金時代(仮)』劇団夢現舎
『黄金時代(仮)』
劇団夢現舎
作/劇団夢現舎
構成・演出/小竹林早雲
出演/益田喜晴 高橋正樹 岡本明子 亀田智子 蒲生みずき
進藤潤 山本真菜美
2011年11月20日観劇
於/新高円寺アトラクターズ・スタヂオ
ルナティック演劇祭に参加した劇団夢現舎の17ヶ月ぶりの公演。
殺人犯の三人の女囚と、その心理分析をする医者・八里塚の物語。
父の遺産目当ての男と結婚した女、大学の担当教官と不倫した女、
ヤクザの情婦だった女。いずれも、あまりに身勝手な男の言動に
激情にかられ、衝動的に殺人を犯す。
三人には、全員、殺すとき風の音を聞き、自宅の部屋の真ん中にバスタブを
置いていた、という共通点があった。
八里塚は連想ゲームから、彼女たちの内面の姿を暴き出そうとする……。
抽象的なセット、極端にシンプル化された照明。
天井には椅子やナイフ、死体(の人形)などが吊るされ、必要と
されるときに仕掛けで下ってくる。料理を食べるシーンでは、
壁が開いて、そこから料理がすべり出てくる。
すべては自然にそこにあるのではなく、人工的に舞台上にしつらえられ、
そこで演じられるストーリィを(仮)のものにしている。
話の中盤まで、なぜこれが“黄金時代”というタイトルなのか気になって
いたが、最後になるほど、と思う。現代という、全ての人間たちが自分の
素直な感情を押し殺し、我慢し、妥協して生きている時代に比べ、
自分の感情をストレートに発散させ、爆発させ、解放させることが出来た
時代が過去にはあり、それは黄金時代だったのだ、と八里塚は説明する。
そして、現代において、その感情の奔流の最たるものであるところの発現
が“衝動殺人”なのだ、と。彼女たちが聞いた風の音は、人間が原始の広野で
聞いた音なのだ。バスタブは、その原始の世界に戻るときに通る通り道、
母の子宮のイメージだったのだ……。
思えばルナティック演劇祭に参加したときの『あぁ自殺生活』もまた、
極限心理におかれた人間のドラマだった。ここの劇団は、人間のギリギリ
の心理を描くことがテーマなのだろう。この『黄金時代(仮)』は再演
だそうだが、こっちを先に見ていれば、もっと演劇祭での夢現舎の評価が
上がっていたかもしれない、と思い、惜しい気がした。劇団には、飛び込み
で何の前知識なしに入ってもすぐ楽しめる劇団と、ある程度そこの特長や
作風を熟知してからの方が楽しめる劇団とがある。夢現舎は後者だろうと
思う。
とはいえ、観客には恐らく最後までそのテーマを理解しなかった(出来な
かった)であろう人たちも見受けられた。マニアックな劇団にはマニアック
な観客が必要だ。告知と、こういう芝居好きなファンを集め、自分たちの
芝居を認知させる努力も、芝居作りの重要なファクターのひとつである。
今後、この劇団がどう、世間に自分たちの芝居をアピールしていくのかが、
ちょっと気になった。
役者では、益田喜晴氏演じる八里塚が、前の演劇祭でも思ったが、
ピーター・クックを連想させる容貌と演技で抜群。この人は日本よりむしろ
海外で評価されるのではあるまいか。