裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

火曜日

観劇日記・2『朗読劇・ドードーの旗のもとに 第二章』劇団ガソリーナ

劇団ガソリーナ 特別公演『ドードーの旗のもとに第二章
          〜流れよ我が涙、世界の果てに夢を見て〜』
作・演出/じんのひろあき
出演/ 下釜千昌 あづみれいか 久木田佳那子 森双葉 丹聡
 池本しらべ 西田博威 浜田洋平 一ノ瀬景子 早瀬弥生
 木村大介 村田昇磨 久保田さおり 岡本広毅 原田達也
 伊藤栄次 /他
2011年10月2日
於/ザムザ阿佐谷

原田達也、一ノ瀬景子と友人が二人も出ている。
で、この二人につながりがあるとはまったく知らなかった。
世の中は狭い。その中でも劇界は特に狭い。
作者・じんのひろあきがこの夏、
「書いて書いて書いて書いて書きまくった」(当日パンフより)
という、全六部作の第二部。原稿用紙にして何千枚という大河ドラマである。

話は亡国の革命劇に始まり、この二部だけで登場人物(いや、人物だけでなく
鳥物も犬物もサーベルタイガー物までいる)が進行役二人を含めて20人、
その中には第一部からの引き続きの出演もあり、いったいこの人物が誰で、
何でこういうことをしているのかということがさっぱりわからなかったりして、
途中でストーリィを追うのはあきらめた。ひたすら役者の声の演技を見る
(聞く)ことにしたのだが、さすが、プロ声優たちが多く参加しているだけ
あって、鼓膜へ伝わる振動が快感である。

朗読劇の多くが途中で退屈をしてしまうのは、要するに目と耳で楽しむ演劇
から目の楽しみを無くしてしまい、残った耳だけの楽しみで、つまりは普通の
演劇の半分の快楽しか与えてくれないということによる。ラジオドラマなら
視覚がまったく与えられない分、想像を充分に働かせられるのだが、朗読劇の
場合、なまじ目の前に役者さんが立っている分、そっちに情報を求めて目が
舞台を追ってしまい、結果、退屈を感じてしまうのだ。

今回の『ドードー……』はその逆である。かなり個性的な”私服“姿の役者さん
たちが、入れ替わり立ち替わりマイクの前に立つ。その”入れ替わり立ち替わり“
は完全に視覚を意識している。視覚は完全に、そのマイク前の朗読を”見せる“
ことに費やされ、本来想像で頭の中に思い描くべき”絵“は、全て監督(役の
伊藤栄二)によるト書きの朗読で説明される。つまりは、“アフレコ風景”と
いう舞台を、われわれは観劇しているのである。主人公が“拳を振り上げ、
叫んだ”と監督がト書きを読むが、その役の声優である下釜千晶は、そのような
“声の芝居”はしたが、拳は下げたままだった。これがアフレコである、という
演出意図によるものだろう。一方で、アフレコなのに後ろを向いて叫んだり
するキャラクターもいて、観客が、二時間の長丁場の芝居の中で、次第にこれ
がアフレコであることを忘れていく演出もなされている。

また、アフレコにしてはセリフがやたら長く、舞台劇調である。これも、耳に
した場合の心地よさを第一義にしているからで、やはり、舞台劇のセリフと
いうものの特性は映画や小説とは異るのだな、ということを改めて認識させて
くれた。あのわざとくささが魅力なのだ(それにしても、この濃いセリフの
連続で、作者は何千枚もこのドラマを描き続けたのかと思うと感心を通り越し
て驚嘆する)。

で、わが友人たちは……原田達也さんはなかなかのハマりぶりで、
動物の言葉がわかる獣医(ドリトル先生ではないよ)、ジョンボップ。
シロン・カッサブとかフロウソウ・グロッソとかコルティア・ニネルケとか
いう覚えにくい名前がゾロゾロ出てくる中で、最も覚えやすい名前の登場人物
の1人(笑)。クールではあるが惚れた女性への思いを忘れられないでいるという、
原田くん自身を彷彿とさせる(異論は認めない)役であった。この、
クールに徹底しきれないところが彼の芝居の魅力なんだろう。ところで、
原田くんはかなり体のデカい人なのだが、今回、彼と芝居でからむサーベル
タイガー役の西田博威という若い役者さんはそれを上回る身長(ネット情報
だと190センチ!)だったのに驚いた。

そして、もう1人の友人、一ノ瀬景子さん。彼女が演じたのは、逃亡を続ける
王子・ボンバ・アルカイエについていく少年、ケルビン。
貧しさのあまりに実の母親に売り飛ばされるという凄惨な過去を持ちながら、
あくまで明るく、希望を捨てない、少年らしい少年。これが、またよかった。
他の少年役の女性たちも達者だが、やはり、今の声優風な“萌え”要素がどこかに
入る。一ノ瀬さんの少年はあくまで健気でりりしく、“昭和のアニメの少年”
の雰囲気を残した芝居で、つまりは私好み、なのである。原田くんが(彼で
なく彼女の名前でチケットを取ったといううらみごとのメールの中でw)
「彼女は代表作を得たのだと思います」
といみじくも言っていた意味がわかった気がした。実は私は彼女と知り合った
のはちょっと前ながら(私の芝居を観に来てくれた)、彼女の演技を観たのは
初めてで、こうまでストレートな“少年役”を演じる人とは思っていなかった。
役者というのはやはり、実際に舞台を観てみないとわからない。

とにかくお二人とも、お疲れ様。朗読劇で、これほど演じた人々にお疲れさま
といいたくなる芝居も珍しい。あと四部も残っているし。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa