裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

土曜日

観劇日記・28『元禄侍顛末記!』(THEちょんまげ軍団SUPER)

『元禄侍顛末記』
THEちょんまげ軍団SUPER新春特別公演
作  やまぐちつとむ
演出 重住リョウ
出演 渡辺健 谷麻紗美 大沢豪士 佐藤亜佑美 鳥越夕幾子
   滋野由之 仲西さら 小松雅樹 竹内大気 田畑潤弥 大西亮平
   水見知樹 竹本洋平 慈五郎 阿部ぽてと 綿屋十目治 重住綾
於  大塚萬劇場
2012年4月12日(二日目)ソワレ観劇

殺陣芝居を中心に公演してきた劇団『THEちょんまげ軍団SUPER』の
殺陣なしのコメディ公演。ちょんまげと劇団名についているが、ここの
特徴は時代劇をかつらを使わずに演じることである。金髪あり、長髪
あり、七三までいたりする。これがネックになって、ここの芝居を
評価しない人もいるようだ。私も最初は気になったが、二回目になる
観劇の今回は、それほど不自然には感じなかった。映画などでは
そうはいくまい。舞台という媒体の自由度の高さの証拠だろう。

とはいえ、その自由度を以てしてもなかなか許容しにくい面もある。
やまぐちつとむの脚本は、封建主義や武士道といった重いテーマを
コメディ作品に取り込むことを特徴とするらしいが、それ故に、話の
展開にかなり無理が生じているのだ。前回の『捕物演芸帖』は、
下っ引きたちが一橋家の不興をかい、祭で芝居を演じることを命じられ
る話だった。一橋家が彼らを処刑する口実作りに、芝居が不出来で
あったことを理由にする腹積もりであることを知った彼らは、鼠小僧
次郎吉に「変装の名人である次郎吉の術は芝居に通じる」と、その
技術を教えてもらおうとする、というのだが、素人に芝居をさせて、
出来が悪かったから処刑というのはいくら舞台上の設定でも無理が
あるし、本職の歌舞伎役者ならともかく、鼠小僧に芝居を教わろうと
いう発想も理解困難だ。これを成立させようとするなら、かなり
演技者たちが無理筋なハイテンション演技で、その無理を無理と
観客に気付かせないレベルに引っ張っていくことが必要になる。
だが、そこまでテンションを上げるには、時代劇に妙に固執した
セリフ回しや設定がネックになってしまうのだ。

今回の舞台も、基本設定はほぼ同じである。水戸黄門に成敗された
悪代官の家来たちが、新代官に、荒れた城下町の人々の心を開かせ
よと命じられる。しかし、町人たちは、かつてひどい目にあった記憶
から彼らを疎んじ、彼らもまた、武士の意地で町人に頭を下げること
を潔しとしない。新代官とその部下の小早川は、彼らに「お笑い」で
庶民に笑顔を取り戻させよと言う。風流人の茶平(実は幕府の隠密)
からお笑いを学んだ彼らは、祭の余興でお笑い(コント)を演じる
ことになり、町人たちも次第に彼らの努力を認め、力を貸そうと
いうものも現れるが、父親を殺されたことをうらみに思う娘が、その
お笑いをぶち壊そうと企んで……という話。

悪代官の家来たちに焦点を当てたアイデアは面白いし、武士たちが
慣れないお笑いの稽古に次第にハマっていく、という展開も、無理筋
に変わりはないとはいえ、前回よりは抵抗なく受け止められる。
だが、最大の問題点は、「お笑い」がテーマのこの芝居における、
「お笑い」そのものの扱いが凄まじくあやふや、ということだろう。

江戸時代における笑いと言えば、落語か狂言芝居だろうが、この舞台
でのお笑いはそのようなものでは全くない、今のコントに近いものだ。
それはかまわないが、しかし、ギャグをテーマにするならば、人を
笑わせるということがテーマならば、もう少し演出・演者ともに、
「お笑い」を研究し、少なくとも次第にその腕が上達していく、と
いう様子を見せなくてはならないだろう。この芝居におけるお笑い
というのは、当時の狂言とも、現代のコントとも違う、形態模写を
お笑いと称するといった(しかも「えっさっさあ」という掛け声を
お笑いの重要な要素とする、といった)設定の上での、意味不明な
スケッチなのだ。

当然のことながら観客も、笑っていいものかどうか大いにとまどう。
出演者の中では阿部ぽてとが最もギャグ芝居の素養があり、名前を
いつも間違われるといった繰り返しギャグはちゃんとウケをとって
いた。また、クライマックスとなる祭の余興のコント(桃太郎の話の
携帯模写)でも、もうちょっとでこちら(観客)を爆笑させられるはず
のシーンがあった。“川”の形態模写をやっている男を、流れてきた
桃を取ろうと川に入るお婆さんが踏んづけようとする場面である。

ここは、実際に川の男を踏んづけなくてはギャグは成立しない。
また、踏んづけることで、彼らのお笑いにかける真剣さ、一途さを
出せる“おいしい”シーンだ。しかし、ここで演出家は、そういう
ギャグをやらせない。と、いうより、そういうコントの常識のような
ものがこの劇団のセオリーにないのだろう。

ここの劇団は殺陣を主軸とするが、例えば刀の持ち方を知らない役者
たちがチャンバラ芝居を公演しているのを観たら、腹が立つだろう。
ギャグを主軸とする劇団をいくつか知っていて、出演もしてきた
身として、ギャグの基本を理解しないでギャグをテーマにした舞台を
やる姿勢に、ちょっと疑問を感じてしまった。芝居の世界というのは
本当に狭い。何人か人をたどれば、ギャグ芝居をやっている劇団の
人間など、簡単に見つかるだろう。そういう役者にギャグ監修を
頼むといったことを、絶対にすべきだったと思う。演劇のさまざまな
要素のうち、笑いくらい微妙なものはないのだから。

役者さんたちの熱演は今回も見事。竹内大気は小柄ながら武士らしい
顔立ちだし、慈五郎も大柄で、イタの上で光る役者だ。鳥越夕幾子に
前後の脈絡なく「好きです!」と突然コクるところが個人的にウケた。
そういういい部分があるだけに、ギャグ部分が惜しい。実に惜しい。

※終演後の挨拶で、いきなり重住リョウが、この劇団の解散を宣言した
のにはびっくりした。事情を知る者に聞いたら発展的解散らしいが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa