裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

金曜日

観劇日記・27『ミュージアム』

『ミュージアム』
[DISH]プロデュース
脚本/演出 宮元多聞と学芸員たち
舞台美術 福島正平
出演 大友恵理 青木隼(E♭) 津本泰雅(劇家大隈猫) 近藤麻衣子(オフィサー
   エージェントバロックワークス) 菊池早希子 臼井静(ワタナベエンター
   テインメント) 星和博(ヒューマンスカイ) 斉藤麻英子 佐藤貴恵
   佐竹リサ 須山和恵 角田友佳 柿沼千晴 富田匡彦(剣ノ会) 出羽晋介
   タイソン大屋(鯛の会) 他
於 中野ウエストエンドスタジオ
4月14日(土)観劇

前説に出てきたタイソン大屋さんが、
「中野のブロードウェイ跡地に出来たショッピングセンターのですね……」
とごく普通に言い出したので、え、そんなものが? と一瞬あせったが、これは
芝居の中での設定。たぶん中野の劇場での公演が決定して、台本にそういう設定を
後から急遽つけ加えたのではないか。……とにかく、台本に二転三転、かなりの
変更があったのではという疑問はある。

これは、この[DISH]の売り物のひとつで、いつも私が大絶賛している
天才・福島正平の舞台装置が、その話の設定とちょっと合ってないという事実から
の類推である。巨大な時計を配し、この小さい劇場にこんな装置が、と驚くほど精巧
かつ凝っていて、いくつにも窓が開閉し、壁が動き、いろいろな場面を現出させる。
今回も見事、とうなるが、しかし、ストーリィとの整合性がちょっと機能していない。

設定では、中野ブロードウェイの跡地に完成した最新式のショッピングセンターの、
その開店に合わせて、センター内の劇場で大衆演劇一座が代表作である桃太郎の芝居を
上演することになっていたが、座長とその他数名以外の座員が全員食中毒で倒れ、
やむなくかき集めたメンバーで、有名ミュージカルのヒットナンバーメドレーを
(『演歌チャンチャカチャン』式に)やることになる……。
というもの。したがって、セットは今日開店いたしますという、ピカピカの
ものでなくてはならない。ところが、どう見てもセットが重厚な、旧式の、
年季の入った建物にしか見えないのである。演出と美術の間に齟齬が生じる
事情があったのだろうか。そこが芝居中ずっと気になってしまった。

ストーリィに二転三転があったのでは、と思った理由はそこばかりではない。
宮元多聞の芝居はいわばウェルメイドプレイという範疇に属するもので、
人物とストーリィがうまい具合にからみあい、提示されたトラブルがいかに
うまく解決していくか、というその伏線の回収の妙の面白さを楽しむものが
多い。ところが、今回に関しては、そのトラブルの設定と解決が、最も無理
スジであり、
「いや、それじゃ解決しないだろう」
と観ながらツッコミたくなるような場面がしばしばだった。

最新の劇場に、中野出身だからという理由であれドサ回りの大衆演劇の劇団
が長期公演で出演するということだけでも綱渡りなのに、そこのこけら落としの
初日に宣伝した芝居でなく、素人のミュージカル物真似をかけるとなったら、
休演以上に後で必ず問題視されるだろう。……実は、芝居の中の人物設定が、
うまくシーンを並べ替えればそれをやらせてしまい、しかも問題を回避できる
ようになっていることに観ていて気がついたのだが、そこを活かし切れていない。
いつもの宮元多聞([DISH]主宰のIさん)にしては脚本に練りが足りない気が
したのだが……。

ま、しかし、それら首をかしげる部分をさっぴいてもこの舞台が楽しいのは、
役者たちが、いつもここの芝居ではキーウーマンを演じる大友恵理ちゃんはじめ、
座長の奥さん役の臼井静、昔その二人と一緒に演劇部にいて、今は農家をやっている
という斉藤麻英子などみんな達者で、場面々々を引っ張っているからだろう。
中でも菊池早希子の、途中から芝居に割り込んできて見事に話を引っかき回し、
引っ張っていく役柄の演技(ちょっと吉田日出子を思わせる)が印象的だった。
そして、このショッピングセンター社長役を冒頭の前説をやったタイソン大屋が
演じているが、前説がかなりgdgdで(笑)、心配していたにも関わらず見事な
ハマりぶり、コメディリリーフぶりで感心してしまった。さすが新感線の俳優
には大舞台で鍛えたオーラがあります。

そして、とにかく後半徹底して見せてくれる(十数分ある)ミュージカルシーンが
力技でこちらをアットウする(カタカナのアットウであるが、アットウはアットウ
である)。ミュージカルをウリにするなら、何であろうとここまで徹底しないと
ダメ、ということである。これは以前麻見拓斗くんの『LIKE A SMAP』を観た
時にも抱いた感想だが。

あと、微笑ましいというか、ちょっと面白いポカミスが私の観た回にあった。
あるシーンで、女優さんが『アンパンマンのうた』を口ずさむくだりがあるのだが、
それが、どうしたわけか、この回では『ドラえもん』になってしまっていて、あとの
話が通じなくなってしまう。途中で気づいた大友恵理ちゃんが
「はい、やり直し!」
と宣言して、その歌を歌うシーンの前から、フィルムを早回しにするような
形でもう一度やって、つなげていた。普通考えれば起こり得るミスではないが、
その女優さんはもう、全く疑いない表情で『ドラえもん』を歌っていた。
私が観た回は初回でもなかったから、いったい何でそんなポカがあったのかは
わからない。……とはいえ、それで芝居が壊れるわけでなく、ちゃんとつながって
いたのは面白かった。もちろん、ポカミスはあってはならないのが原則だが、
そういう回にあたると、芝居の進行が中断、もしくは阻害されてしまうのに、
何か得したと思えてしまうのがライブというものの不思議なところである。

もうひとつ、これは劇場を出て、帰りの電車の中で気づいたのだが、題名の
『ミュージアム』って? ミュージアムは”博物館“。ミュージカルには関係ない。
ミュージカルをやる劇場はシアター、またはプレイハウスである。
これもポカミスだろうか?

Copyright 2006 Shunichi Karasawa