4日
水曜日
観劇日記・25『ジョギリ婦人』(デス電所)
『ジョギリ婦人』
芝居流通センターデス電所
作・演出/竹内佑
音楽・演奏/和田俊輔
出演/山村涼子 丸山英彦 田嶋杏子 豊田真吾 福田靖久 根田亜夢 浅見絋至
於/小劇場「劇」
2012年4月1日マチネ観劇
本拠地は関西にある(らしい)、竹内佑率いる劇団『デス電所』の公演。
以前観た芝居の折り込みチラシで気になっていて、全く未見の劇団だったが、
たまたま向いの小劇場『楽園』で演劇祭の審査員をやっていて、1本目の芝居と
次の芝居の間にちょっと間があいていたので、飛び込みで受付に問合せてみたら、
満席だったが幸いキャンセルがあって観ることが出来た。一日二本の芝居のハシゴ
は経験あるが、三本というのは初めてである。
ジョギリとはもともとは1984年に公開された、ウェス・クレイブン監督の
ホラー映画『サランドラ』の日本公開時に宣伝に使われた、牛を屠殺・解体するのに
使うという刃物。実際は映画の中にはそんな刃物も、ジョギリなる言葉もまるで出て
来なかったということから、当時のホラー映画の宣伝のいいかげんさの代名詞的名称
になった。
ところが、その3年前の81年に『バーニング』というホラー映画が公開
されていて(制作は『サランドラ』の方が77年でずっと前)、その
配給が『サランドラ』と同じ東宝東和という会社で、どういう宣伝部員
がいたものか、同じようなインチキ宣伝がなされており、殺人鬼の名前が勝手に
“バンボロ”と変えられ、TVの予告で、このバンボロが植木バサミを振りかざす場面が
繰り返し放映されていた。
この植木バサミと、『サランドラ』に“出てこなかった”ジョギリという単語がいつしか
混同され、かつ、ハサミによる切断音であるジョキジョキというオノマトペから、
植木バサミを凶器として使うときに「ジョギリ」と呼ぶ、という、多分
日本だけ(それもごく一部のホラーファンだけ)の認識が出来た。
おそらくこの舞台も、それを元にしている。
ホラーというよりスプラッター、スラッシャーの映画をどう、舞台上に持ってくる
つもりなのか、その演出が大変気になったのだ。
で、観てまず冒頭で驚いたのは、何とミュージカルだったことだ。舞台横に演奏席が
あって、そこで音楽の和田俊輔(赤い山高帽がカッコいい)が生演奏をする。
そして、舞台は雪がちらつく季節という設定で、音楽家夫婦が、沖縄への移住を
実行しようと話し合っている。雪の降る季節に子供を亡くし、雪を見ると子供を
思い出すという。小学校教師をしている姉がその移住に反対しに来るが、夫妻は
聞こうとしない。そのとき、ダンボールの中で何かが動く音がする。
実は、引っ越し荷物だとばかり見えたダンボール箱には、わが子を殺した
疑いをかけられながら、死体が発見されなかったばかりに無罪となった
暴走族の男が縛られて入れられていた。夫妻は、この男を捕え、娘が
味わったのと同じ苦しみを与えて殺そうとしていたのだ……。
ミュージカルシーンで歌われる曲は極めて明るくアップテンポだが、内容はというと
指を折ったり熱湯をかけたり、箸を耳に突き刺したりと残虐この上ない。
男を夫妻は捕え、拷問にかけて殺そうとする。だが、すんでのところでその暴走族は
つながれていた手錠をはずし、仲間を呼び集めて逆に夫妻を捕え、いたぶる。
しかし、その家の回りに、植木バサミを持ち、黒いドレスをまとった、謎の女性が
現れる……。
期待にたがわぬ? 血しぶき描写もあり、次のステージまでの掃除や、衣装の
洗濯が大変だろうな、とちょっと心配してしまった。しかし、ホラーはともかく、
ここまでのスプラッターを小劇場でやったところもあまりないだろう。あちこちに
前ステージの血糊の痕跡が残ってしまってネタばれになっていたのがちょっと残念
だが、しかし
「衆目を驚かしてやろう」
という演出の意図は大いに達成できている。みごとなくらいだ。
ミュージカル処理とスプラッターシーンが重ねられていればなお、感心した
かもしれない。アベサダもかくやのR18指定的シーンまであるのは、ちょっと
引いてしまう観客もいたのではないかと心配になるけれど。
キャラクターとしては、捕えられる不良の、弟分を演じた豊田真吾と浅見絋至
が面白かった。キレ演技が主体というのは若い役者にとっては演じやすい役柄かも
しれない。論理が通っているようで通っていない、ボスの福田靖久を含めた三人の
会話(心理)の不条理性をもっと全面に出せば、演劇としての面白さは倍加したろう。
その分、主役の二人の性格付けがちょっと弱い。単純かもしれないが、エコロジー
であるとか市民運動であるとかに熱心なニューエイジ型夫婦、と設定しておけば、
主人公の姉の後半での心情吐露ももっと印象的になったのではないかと思う。
いろいろと不満は見て残るのだが、しかし、スプラッターミュージカル演劇、
という滅多に観られないものを観られたというだけで、入場料のモトはとった
気になるのだから、これは企画勝ちというものだろう。飛び込みで観てよかった、
と満足した舞台だった。
あと、『ジョギリ婦人』というタイトル、“婦人”という語はグループの特性を指す
(貴婦人、職業婦人など)のが一般的用法だろう。固有の女性名(フライヤーの惹句
にある“マダム”の訳語)としてならば“夫人”という表記の方が(真珠夫人、土曜夫人
などの例もある)合っているように思う。老婆心ながら。
(ジョギリの説明を一部訂正)