裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

日曜日

観劇日記・17『スイートメモリーズ』GENKI Produce

『スイートメモリーズ』
GENKI Produce第五回公演
作・演出/青田ひでき
出演/河合美智子 西秋元喜 かわのをとや 戸谷和恵 田中しげ美 鈴木優介
   渡辺克己 熊谷知花 長澤元樹 井上雄介 小野寺陽香 東側真之
   YUKEY 田中良
於/笹塚ファクトリー
2012年2月21日Z(初日)観劇

劇団GENKI Produceの主催者は『東京フレンドパーク』などでおなじみの
西秋元喜である。小劇場劇団の場合、主催者が作・演出を兼ねるところが
多いがここはほぼ毎回、他所から作・演出を招くという方式をとっている。
今回は劇団BLUESTAXIの青田ひできが作・演出。マンネリに陥らず、
役者としての自分のさまざまな面を引き出してくれるという意味で興味深い
システムである。とはいえ、小劇団の主宰者というのは良くも悪くもエゴイスト
である。なかなか、演出権を人手に渡すことは出来なかろう。そういう意味
では珍しい。

高校時代、17歳のなかよしグループの、26年後の物語。
マンガ家になったみちるは、同じグループの修平と結婚し、当時野球部の
エースだった義春はチアガールだった和歌子と結婚している。
だが、26年の歳月はそれぞれの身に、それぞれの変化を加えていた。
みちると修平は互いの心がすれ違うようになり別居することになり、
和歌子は脳腫瘍の手術を数日後に控える身であった。

家を出るみちるを追いかけて外へ飛び出した修平は自動車にはねられ、
軽い記憶喪失になる。一方、応援団長だった鐘崎聖也の経営する町工場に、
今までつとめていた会社がつぶれたことでひろってもらった元・団員の
石原正一は、同じクラスメートでゲイのヘーコこと森下平のパブで会うが、
そこでギックリ腰を起してしまう。

和歌子と修平が入院している病院のロビーで、正一を連れてきた聖也は
義春、ちはるとバッタリ出会う。彼らは26年前のこと、そして現在の
自分たちのことをヘーコの店で語り合う。そして、手術当日……。

80年代の懐かしのメロディをバックに、43歳という、まだ若さに
対しぎりぎりの未練のある世代の悲喜劇を描く。基本ストーリィ自体は
よくあるものだが、そこを『ふたりっ子』のオーロラ輝子役で知られる
河合美智子を中心に、かつてお笑いコンビ『シューティング』の片割れ
だったかわのをとや(現在は声優)や、あぁルナティックシアターの
舞台でおなじみの(私の『タイム・リビジョン』にも声の出演をして
くれた)渡辺克己など、芸達者が揃って、テンポよく楽しませてくれる。

ことに、現実と過去の自分たちが入り交じる、ヘーコの店での思い出話の
シーンが出色。この過去が、実際の過去と、みちるがマンガの中に描いた
“理想化された過去“の二種類あるというアイデアが面白く、演劇でなくては
できない、時間と場所の混淆が笑わせ、また感心させられる。ギャグの
連発のところでかわのがいちいちツッコミを入れるのはコントの感覚
だが、お客に“ギャグの通訳“を置くというのは、笑いに来る観客がほとんど
のお笑いライブと違い、
「芝居で笑っていいのか」
とまどうお客の多い(これは事実である)演劇公演において、いいアイデア
であると思う。

確か今までどこかで西秋元喜の芝居は観たことがある(あの独特のエロキュー
ションには記憶がある)と思うのだが、GENKI Produceの芝居は初めて
である。それなので、冒頭のシーンを見たとき、もうちょっとシリアスに
展開していくのかな、と予想した。それが意外なまでにマンガチックな
ものだったので、非常に新鮮な気分で楽しめた。正一役の渡辺克己さんの
ギックリの演技が一番、リアルなものだったのが笑えた。前の席に座っていた
年配の女性が
「ホントに腰、やってるんじゃないかしら」
と心配そうにつぶやいていたほどだった。

ラストは少し予定調和すぎ、という気がしないではないが、若き日の思い出
の話だ、それもいいだろう、というか、これでなくてはいけない。
同じ世代の観客たちの、観終って舞台上と共有する甘い感傷をリアルで
邪魔してはいけないのである。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa