裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

日曜日

観劇日記・13『羅城の蜘蛛』エレジーキングストア公演

『羅城の蜘蛛』
劇団エレジーキングストア公演
脚本・演出/息吹肇
出演/仲村水希 久保田真由美 伊智生士冶 岩崎絵里 橋本仁
綿屋十目治 藤田秀和 津村英哲 松山由紀子 五十嵐勝平 笈川勉
山本常文 田口善央 鳥越夕幾子 あべそういち 加藤敦洋 戸田慎吾
平田絵里子 井生忠孝 山崎剛芳 鳥谷結貴 今井英二 辻政樹
2012年2月2日夜の部観劇
於/TACCS1179

観終ったあと、帰りの電車の中で同じく観劇した女性たちのグループが
「面白かったね!」
「何か力をもらったよ、いろいろな意味で」
「時間も全然長く感じなかったね!」
と熱を込めて会話していた。
これが一般の感想なのだろうし、なによりほぼ全日満席の盛況である。
で、あるから以下の私の意見は僻論に過ぎず、本質をついたものでは
ないのであろう。

ないのではあろうが、しかし、私の感じるところ、2時間20分休息無しの
舞台は正直キツかった。“長すぎる”とは言わないが、“せめて休息時間をとって
もらいたい”。TACCSの椅子は小劇場の中ではかなりいい方だが、しかし
それにしても2時間半を座っていれば尻が痛くなる。延びがしたくなる、
トイレに行きたくなるのが自然な生理というものである。

で、聞いてみたら、そういう声がやはり大きく、その日(2日目)の昼には
休息を入れたのだそうだ。しかしながら、ちょうど切りのいい部分というのが
なく、休息を入れたことで話の流れが途切れてしまい、観客のテンションが
下るので夜は取りやめた、とのことであった。

ここに問題があるように思う。切りどころがない、ということは、逆に言うと
話(ストーリィ)に緩急がない、ということだ。ジェットコースター式と言えば
聞こえはいいが、話が最初から最後まで一本調子なのである。

舞台は平安時代の京。土蜘蛛と呼ばれる賊が京師をおびやかしていた。
実力者・藤原道長は彼等を鬼(妖怪)とみなし、源頼光とその四天王に追討
を命ずる。しかし、四天王の一人・渡辺綱は、土蜘蛛一味の女賊・茨木童子
を捕えたことで、土蜘蛛一味の正体を知る。彼等は天皇家と藤原家の権力
拡大の犠牲になった一族の末裔だったのである。悩む綱をよそに、頼光と
碓井貞光、卜部季武は土蜘蛛を追い詰め、土蜘蛛の一味からも、仲間を裏切る
者が出始める……。

チャンバラのアクションは堂に入っているし、主催者の伊智生士冶はじめ、
イケメンが多いのはうらやましくも思った。テーマに普遍性もある。
ただ、観た後に“芝居を観た”という感じよりも、“剣戟アクションライブを
観た”という感想の方が強かったのは、個々のキャラクターの描き方が
あまりに薄いからだ。男性も女性も、しゃべり方がほぼ同じスピード、
同じテンションである。かろうじて、悪役の碓井貞光と卜部季武の二人が
他の登場人物と違う、一本調子ではないしゃべり方をしていて、彼等が出て
くるとホッとしたくらいだ。四天王の坂田金時や、土蜘蛛一族のトラなど、
コメディリリーフに、笑いをきちんと取れる見せ場を作っていないのが
何とも惜しい。

これだけの上演時間があれば、個々の描き込みも可能だろう。鳥越
有幾子ちゃんの役(少女剣士)など、描き込めばもっとずっと面白くなる
キャラクターだと思った。

他に、“とどめをさしてくれ”と瀕死の仲間に頼まれ、涙ながらに主人公が
切る、というシーンはいいが、それからその仲間と長々話すのでは、
とどめをさしたことにならないだろうと、ちょっと失笑した。こういうこと
は稽古場で見ていればみんなが気づいて、声をあげるところである。
これをそのまま残している、ということは、演出家に出演者が口出しできない
雰囲気であるということであり、つまり視線が一方向しかないということ
でもある。私がちょっと進行を単調に感じたのは、そういうことも関係している
のかもしれないと思った。

……と、私の採点は必ずしも高くないのだが、しかし繰り返すが客席は
満員であり、舞台公演としては大成功だろう。このようなアクションライブ的
な舞台が、現在の小劇場演劇におけるひとつのトレンドであることは事実
なのかもしれない。現在の若い観客は、アニメやゲームを楽しむ感覚を
そのまま演劇にも求めるということなのだろうか。私の意見が正しいと
固執することはかたくなに戒めながらも、いろいろと考えさせられる
舞台であった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa