裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

日曜日

観劇日記・14『真冬の夜の夢』劇団「平熱43度」

『真冬の夜の夢』
劇団平熱43度第二回公演
作・演出:桃原秀寿
出演:宝栄恵美 松本祐一 籠谷和樹 桃原秀寿 青井利佳 井上賢吏
   垣内あきら 梶原槙人 兜森隆将 上岡一路 河野智平 高橋千夏
   田盛辰実 照沼優起 長沢峻太 前田綾香 松原由賀 茗原直人
於:八幡山ワーサルシアター
2月10日(金)ソワレ 全9ステ中5ステ目 観劇

魔法使いが存在し、幾多の王国が争うファンタジーの世界、オーベロ国。
そこに転生(?)した記憶喪失の少女。彼女は劇作家志望の「燃える水」商人
シェイクに“真冬”という名をつけてもらい、自分の過去を教えてくれる魔法の
ペンを持つ魔女を探しに出かける。魔女は何年も前に、その力を悪用することを
恐れた人々により封印されており、そのためこの国には太陽の光がささなく
なっていた。彼女とシェイクたちは、魔女をよみがえらせるアイテム“聖なる牙”
を手に入れようとする……。

劇団主宰者の桃原秀寿は麻見拓斗くんたちと劇団ノーコンタクツをやっていた
役者さん。彼が主演したノーコンタクツの『コリアスタロの秘宝を奪え』は、
私のベスト・オブ・ノーコンタクツ公演であった。今回の舞台も、ノーコンで
おなじみの車のチェイスシーンやアクション、そして次回予告の小芝居、と、
ノーコン色濃厚で、血は争えないな、と微笑ましくなる。

ワーサルシアターというのは小さい劇場ながら舞台の奥行きが深い。その分、
裏の通路などが犠牲になっており、上手と下手の連絡がない。終演後に、
そこらはどうしているのかとみよちんに訊ねたら、
「暗転のときに移動している」
とのことであった。さまざまな個性ある劇場を工夫しながら使いこなして
いるのを見るのは楽しいものである。

主演の宝栄恵美(真冬)が、なぜかやたら格闘技が強いという設定も面白い
し、ノーコンタクツやトツゲキ倶楽部でもおなじみの前田綾香ちゃんが
一見では彼女とわからないヨゴレメイクで出てくるのもいい。逆に松原由賀
ちゃんはクールな森の国の女王で気品を見せる。そして、なぜか中世的な
このファンタジーの世界で“自動車”を駆る爺さん・アム役を演じている
みよちんこと茗原直人が面白い。主催の桃原さんは、と思ったら、不思議の
国のアリスのような、奇妙なウサギの役で登場。

キャラクター造型が面白く、アクションもさすがにみんなよく身体が動く。
主演の宝栄恵美が体当たりでアクションしているのにも驚いた。

……とはいえ、二時間の舞台、特に前半はちょっとキツかった、という
印象である。ファンタジー物語においては、その世界の約束というものが
あり、それがどういう設定で動いているのかを観客に説明しなくては
ならない。その設定が、むやみに多いのである。捕らわれの魔女、世界
を書き換えられるペン、夜だけの世界、オーベロ国と森の国の対立、
装着したものをあやつってしまう『聖なる牙』、人の心が読める“見える
者”の一族、絶滅したその見える者の生き残りである女の子/ピア、滅びの
運命をたどるオーベロ国、森の国の侵略をくわだてるシュタイン王、その
部下の軍人ながら森の国との講和を望む隊長ロメオ、愚か者だが剛腕で、
そのロメオを信頼する部下のジャイロック、森の国の女王タミアと、その
部下で野心家のデミトリオの関係、なぜか生き物と思われている自動車
“キルヒアイス”……。この狭い劇場に12人という多人数のキャストで、
ほぼ全員にバックとなるドラマがある……となると、詰め込みもいいところ
で、最初のうちは、説明の多さにこれは前にやった公演の続編なのだろうかと
思っていたほどだ。

設定が複雑なのが悪いわけではない。ただ、その設定すべてを、律義に
舞台上で見せてしまっている、という構成が、ちょっと“親切に過ぎて”
こちらに息切れを起させている、という感じなのだ。しかも、いろいろ
と状況を説明しておきながら、肝心の、なぜ主人公がこの世界に転生して
きたか、なぜこんなに普通の(?)女の子が格闘技が強いのか、という
謎は説明してくれない(していたがこっちの頭が多すぎる設定にパンク
していて理解できなかったのかも)。ストーリィ全体を通してのマクガフィン
(主人公たちの行動の動機づけとなるもの)である魔法のペンの存在感
がイマイチ上手く表現されていない……。なんだろう、一生懸命作り込んで、
途中で力尽きた、というような感じを受けてしまった。

二時間を決して長く思わせないストーリィの進行技術は大したものだと
思う。各役者たちの個性も大変よく出ていた。桃原座長のウサギのキャラ
は最初たよりないギャグメーカーとして出てきて、中盤から話の主軸に
加わってくる、というあたりは特にいい。それだけに、この設定の詰め込み
過ぎはちょっと惜しいと思う。設定の半分を、バックグラウンドの方に
押し込めて、説明役(ウサギをそれに当ててもいいだろう)に語らせる
程度にしておき、舞台上でのストーリィ進行は、封印された魔女の復活劇に
しぼった方がよかったのではあるまいか。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa