裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

木曜日

マクシマム三太夫

 バアさん、お前最大限にヨボヨボだぞ、アッハッハ。朝、新橋あたりの古ぼけた居酒屋雑居ビルから、窓をあけて壁面の排気口伝いに外へ出ようとする夢。ビルの薄汚れ具合が非常にリアルだった。6時45分起床、入浴して、昨日のタンスの梱包材をゴミ集積所に持っていく。このマンションもほとんどの部屋が埋まったそうで、そうなると130戸もある大型マンションなので、朝の時間帯は通勤・通学、ゴミ出しや新聞を取りに来る人たちなどで、通路・エントランス部分が混み合い、非常ににぎや か、というかうるさい。

 朝食、黒豆とホーレンソーのサラダ、ブロッコリのスープというよりおろし野菜とでも言ったようなもの。早めに家を出た、というわけでもないのだが19分のバスに 乗れた。車内で週刊誌数誌読了。45分に到着。

 早速書き下ろし原稿を、と思ったがその前に今日が〆切である『トンデモ本の世界S/T』の三刷りの訂正、一箇所書いて送る。字句の訂正のみ。内容に関して、何か間違ったことを書いてはいないかと、指摘してくれているサイトを検索したら、こん なところが見つかった。
http://www5e.biglobe.ne.jp/~occultyo/essey/togattkai.htm
 逆ツッコミはまことにありがたいが、なんか赤穂浪士の研究家が“吉良上野介は善君であったのだから、吉良を意地悪爺いと表現するのは間違っている”と文句をつけ ているレベルのものとしか思えず、ちょっとヘキエキする。だいたい、
「非常に残念なことに、最近のと学会の一部ライターは、トンデモに対する愛情が薄れ、ユーモアや余裕が無くなって来ている様にも思うのですよ」
 と嘆くことがまず前段として書かれているが、ツッコミの入っている私の文章はとりあげた『カリフォルニア・オデッセイ』を、“一読、巻を置くあたわざる”本であると絶賛しているのだ。平仄があわぬではないか。つまり、まず悪口ありき、であって、そのために、自分の知識内でツッコミの出来る箇所をアトづけで探している、と 推理できるのである。タメにする批判はあまり歓迎したくない。

 もちろん、重箱の隅つつきとはいえ、事実を重んじる態度に従うなら大事なことだし、第一面白い。批判を受け止めることはやぶさかでない。指摘そのものには大いに感謝したいと思う。ただし、同じ重箱の隅でも、例えばこのサイトが問題視するような、チャールズ・マンソンがチャーチ・オブ・サタンの主義を受け継いでいたかどうかに関しては、研究家の間でもさまざまな見解の相違がある(ちなみに、ここで間違いだと指摘されていることはみな、私の恣意的な意見ではなく、『カリフォルニア・オデッセイ』の中に記されている内容に基づいたものだ)ことだろう。少なくとも、私が『トンデモ本の世界S』で指摘したいくつかの重箱の隅、例えば“リミテッド・アニメは一秒十六コマで撮ったもの”という間違いなどは、アニメ関係者でそれを正しいと認める者は誰一人いない間違いなのである。重箱の隅をつつくことが問題なのではなく、その隅になにがへばりついているかが問題なのだ(まあ、それでもそういうことに無関心な大部分の一般人には所詮同じだろうとは諦めているけれど)。

 1時半、弁当。シャケ照り焼きがたっぷり入っていて非常に満足。すぐ続いて書き下ろしに、と思ったが、『FRIDAY』をやらないといけないのだった、と思い出す。第二回目コラム、ギリシア神話ネタを“通俗に”手直し。我ながら俗化が成功したと思える出来になり、満足。メールチェック、東放学園から、学園祭でのオタクアミーゴスの他に、“ライター入門”のような内容で特別講義をしてくれないか、という依頼。これで思い出したが、創出版から、もう二年近く前に同内容の書籍の書き下ろしの依頼を受けて、応諾したものの多忙にまぎれて放ったらかしにして、そのまんまになってしまっていた。この機に、この講義を3回連続くらいで行って、その録音をモトに本を作ったらどうか、と思いつく。すぐ『創』と、東放学園のK氏にその旨 打診。東放学園サイドでは了承を得る。

 さて、それからイヨイヨ書き下ろし原稿に入ろう(なにしろもう発売日も決まってしまっているのだ)とするが、まだ別口あり、ワールドフォトプレスの『お怪モノ日記』(『トンデモノ探索ノート』単行本)の掲載原稿の選択しなくてはならぬ。大急ぎで30本選んで送るが、折り返し担当Sくんから、“使うのは36本です”との連 絡あり、残りを足してまた送る。 今度こそ、という感じで原稿。執筆自体は気圧もあって遅々として、という感じであるが、引用文の選択作業、これが楽しく、また、やたらカンが働くというか、
「これを表現するのにいい文章が、どうもこの辺にありそうだ」
 と思って開いた本に、まさにピッタリのものが見つかったりすることが多々。それが現在書いている文章の方向とはまったく違った本であったりするのが面白い。

 惜しい哉せっかく調子出てきたところで時間。ギリギリまでやってタクシーで帰宅する。しださんの友人二人(マンガ家さんと、マンガ家のアシスタントさん)を迎えて仙台野菜、札幌アスパラの会2。アスパラ、ピータン、カブなどの前菜、アスパラと海老の塩味炒め、豚肉とピーマンの甘酢煮、自家製花巻の中華バーガー、それと炒飯にムースのデザート。会話いろいろ。マンガ家さんの方は以前宝塚氏に住んでいて父親がヅカファンであったといい、アシスタントさんの方は遠距離でつきあっている彼が兵庫の会社社長だという。こないだは宝塚ファンの彼女と結婚するS井氏が来た し、なかなかアッチ方面に偶然とはいえ縁が深い。

 酒は缶ビール小二本と、5人で赤ワイン一本。さして飲んだわけでもないのに、食事終わる頃はかなりへろへろになる。クタビレているんだなあ、と自覚。しかし、宴果てたのがまだ10時チョイで、こんな時間で寝ると、明日の朝早く目が覚めてしまうだろうなあ、と思い、とはいえとてもこれ以上目をあけていられず、ベッドに倒れ込むようにして寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa