裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

水曜日

あほらしい歴史教科書をつくる会

 発足しましたらぜひ、参加・執筆させていただきたいと思いますのでご連絡を。朝6時起床。所在なく海野弘『ダイエットの歴史−みえないコルセット』(新書館)などを読みつつしばらく過ごす。やはり面白いので熱中して読んでいたら、風呂に入る時間に食い込んでしまい、あわてて、まだ腰っきりっしきゃ溜まっていない湯船の中 でジャブジャブ湯を浴びて入浴すます。

 7時半、朝食。仙台のカブとホウレンソウのサラダ、ブロッコリの冷ポタージュ、ピンクグレープフルーツ。新聞にイラクで人質(二番目の)になった渡辺修孝氏が、
「イラクへの違法な自衛隊派遣のために身柄を拘束され、苦痛を受けた」
 として国を相手に自衛隊撤退と慰謝料500万円の支払いを求めたという記事。しばらく笑いころげる。不条理ギャグか、これは。いかに市民運動団体というものをどうしようもないと思っている私からみても、これはそのどうしようもなさを大幅に誇張した出来の悪いカリカチュアにしかなっていないような気がするのだが。

 8時25分、バスで通勤、久しぶりに一番前の席に座れた。曇り空の中を渋谷へ。仕事場についてすぐメールチェックしたら、太田出版から報告。『トンデモ本の世界S/T』、まだ2刷の見本も出来てきていないうちに3刷決定とのこと。間があいた分、たまったネタを一気に放出した勢いがやはりあったか、と思う。と学会の商品価値が発足12年目にして落ちていないのは、やはり人気商品(トンデモ本を出す出版社が後を絶たないのは、やはりこの類の書籍の刊行がオイシイからである)のデバンキングなどという、業界で嫌われる役割をきちんと引き受ける酔狂な書き手が他にい ないからであろう。

 あと『社会派くんがゆく!』の佐世保NEVADA事件号外がアップされている。
http://www.shakaihakun.com/data/
 K田くんの話では評判も上々とのこと。……最近のこの連載、何をどのように書いても何故か“正論”になっちまうので、鬼畜的論説にするのに非常に苦心する。これも、書いたときは我ながらなかなかと思ったがこうしてアップされたのを読むと、なんか普通のことを言っているに過ぎないように思えてくる。また、Web現代の『知らなきゃよかった』も、もう読めるみたいである。こっちにまだ何にも連絡がないと ころを見ると、試験アップなのか?
http://kodansha.cplaza.ne.jp/karasawa/index.html

 12時、時間割。廣済堂出版Iくん。Iくんと昔、大和書房で出した『B級裏モノ探偵団』を9月あたりに文庫化する件。1999年、まだ20世紀だった頃に出した本である。刊行は6年前だが、収録されている文章はもっと前の7年〜10年前のものが多い。読んでみると、今の私の書いたモノよりずっと“趣味の裏モノ”の世界をいい感じで逍遙している。こういう文章がカラサワシュンイチの価値を定めたのは確かだろうが、そこに留まっていたら、いつまでたっても読者5000人、のレベルから脱せなかったろうとも、思う。モノを書いて食っていくというのは本当に難しい。

 打ち合わせ終えて出て、東急ハンズでエアロバイクを買う。K子が自宅の床をふさぐのを嫌がるので、新聞紙一枚ぶんの面積しかとらないという、ミニエアロ。帰宅して2時、弁当使う。塩ジャケと卵焼き。塩ジャケなんてものをおいしいと感じることが出来るのは日本人に生まれた幸せだろう。ネットで、母に頼まれた、ナタマメの通販所を探す。健康にいいというので買ってみたいのだそうな。すぐ見つかったが、お値段がすごく、たかだかマメ、とか思っていたら400グラムで4500円。

 6時、また時間割、『FRIDAY』Tくん。第一回の刷り出しを見ながら、いろいろ今後の打ち合わせ。第二回のコラム原稿にギリシア神話の話を書いたら、編集長から“ウチの読者には高級すぎる”とダメが出たそうな。読者層や男女比などのデータを聞くと、まさに“大衆誌”なんだなあ、と思い、こういうところでやる仕事に、かなりのファイトが湧いてくる。ココロの師匠である平山亨氏が、自分の師匠の松田 定次監督に言われていたという言葉、
「レベルを銀座東映や丸の内東映に合わせたらあかん。新宿東映、浅草東映の客がわれわれのお客さんなんやで」
 を、まさに実感しそうな感じである。

 仕事カリカリ、雨で進まず、9時半になる。傘さして家を出、久しぶりに『花暦』へ。女将が“昨日、お友達のIさんが来られて”というから、“I?”と首をひねったが、やっと“破裂の人形”氏の本名とわかる。カウンターで待つうちに、語学終えたK子と合流した母が来る。女将さんに母を紹介。マグロ、イシモチ、トビウオの刺身盛り合わせに、軟骨唐揚げ、茹で豚わさびポン酢など。酒は天狗舞ロック二杯、それからウイスキーダブル水割り二杯。板長さん、マグロ大トロの筋を焼いて出してくれた。K子の例によっての傍若無人な物言いを聞いて板前の馬場さん、大笑い。帰り 間際に、ずっと座敷席で飲んでいた某国営放送局のグループの一人が、
「なんだ、その言い方は! オレはNHKの人間として、その発言は許さんぞ!」
 と、机をドン、と叩いて激高。まあ怒り上戸ってやつなんだろうが、最近こういう酔っぱらいは久しぶりに見た。彼の信奉する自然派文化人の某氏について、相手が何か批判的なことを言ったらしい。女将が手慣れた感じで、ハイハイ、と相手をして、帰り支度をさせる。母が
「ああいうのを相手にしなきゃならないと思うと、私にはこういう商売出来ないわ」
 と。50代くらいのオジサンだったが、今の若い人はこういう風になるからオジサン世代と飲むのは、と敬遠するだろう。昔はこんなのばかりだったし、これがあるか らあの人も根は可愛い、とか、ある意味評価されたんだが。

 11時半、帰宅。新しいタンスが届いていた。それと消臭剤一個玄関に置いただけで、昨日から気になっていたワックスや猫エサの匂いが嘘のように消える。最近のものは消臭剤ひとつでも性能がいいなあ、とちょっと驚く。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa