裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

日曜日

耳鼻咽喉のど自慢

 あまり大きな声では歌えない出場者ばかり。朝、キャシャーンの夢を見る。それが胃袋を全摘出して鉄の胃に変えるというもので、目が覚めると、昨日さほど飲み食いはしなかった筈なのに、胃が疲れたのか何なのか、荒れている感じ。このためにそのような夢を見たのだろうが、整体の先生、向こうズネのツボで見事にこの荒れを当て たことになる。

 7時半、朝食。ただれていようが荒れていようが食欲はある。ローストしたクルミを乗せたサラダに、パンプキンポタージュ(こう書くと何かえらい豪華な、“朝餐”とでも書きたいような食事のイメージですな)。朝刊を取りに行くときに郵便受けを見たら、ちゃんとパイデザからパンフレットの初稿が届いていた。ざっと目を通し、 こっちで気がついた部分に赤を入れる。

 雨。それも本格的なザーザーと降る雨。例会の日は雨が多い。こういう日に出かけるのは荷だよなあ、と思うが、モノがと学会である。仕方ない。K子も同じ気持ちらしく、“(会場の早稲田まで)タクシーで行っちゃおうよ”と言う。太っ腹である。最近、よく彼女は“どう? カネモチになった気分は”などと訊いてくるが、自分の口座も持たず、毎月オコヅカイを貰ってバス通勤していて、カネモチも何も、そんな 気分のカケラもなし。

 10時、家を出て雨の青梅街道でタクシー拾う。女性の運転手さんで、早稲田の国際会議場へ、と告げると“まあ、お勉強なさりにいらっしゃるんですね”と、変な感心をされる。オタクな集まりなんですけどね。途中でお茶を買いにコンビニで停まってもらう。運転手さん、“お茶請けにどうぞ”とカリカリ梅をくれた。半には到着してしまい、ロビーでしばらく待つうち、IPPANさんくる。“例会の日は雨が多いですねえ”と同じことを言う。“週末だからじゃないかな”と答える。都心はビルや車の排気で常に高温化して上昇気流が立ち上っており、週末には機能が休止して温度が下がるため、上空の水蒸気が雨になって降りてくる、という説は、果たしてトンデ モなのかどうか。

 やがて眠田さん、ゲストのS氏も来る。ゲストはあまり早く来てもらっても、と思うがまあ、いろいろ手伝ってくれるのは有り難い。K子は昨日、東放学園でまた講師をやってきたのだが、ここが、10月の学園祭にオタクアミーゴスを呼びたいとのこと。眠田さんとその件で話す。11時過ぎに会議室へ入る。早稲田のeヒューマン研究所の人がいろいろ機材準備等手伝ってくれている。忝なし。雨は11時ころから上がり、三々五々、会員たちも集まってくる。植木不等式さんはパキスタンに出張していたとのことで、現地の習慣にあわせたとかでヒゲをたくわえている。思えば植木さんは、最初にと学会で知り合った直後くらいからヒゲを生やしはじめて、しばらくヒゲ男でいた。ヒゲ姿の彼を見るのも久しぶりである。久しぶりと言えば、永瀬唯氏も久しぶりに例会に顔を見せていた。東京大会の演出の件で少し打ち合わせ。藤倉珊氏とは、創元SF文庫『三惑星連合』に氏が書かれた解説『サラリーマン小説としての レンズマン・シリーズ』のことなど。

 機材の書画カメラがなかなかうまく作動せず、植木さんがパキスタンみやげのウルトラマンパンツなどを紹介。10分遅れくらいで開始。前回の例会のとき、ついつい前半の人の発表が延びてしまい、後半ケツカッチンになったのに鑑み、今回はK子が志願して蹴飛ばし番長になる。つまり、7分の持ち時間を切ると、彼女の叱責の声が飛び、たとえ発表途中であっても壇を下ろされるという仕組み。中には発表面白く、切られるのが残念といった人もあるが、しかし、このおかげで実に進行スムーズに行き、会場撤収時間30分前に発表全て終了、まだ発表ブツ残っている人の追加発表も結果的に可能になった。私の発表ブツはマリリン・モンロー、アブラハム・リンカーン、ジョン・F・ケネディ、モハメッド・アリなどの写真集『グレート・アメリカンズ』。ただし、有名人は一人も出てこない。要するに、同姓同名の人を探し出して、インタビューして写真を撮ったという、意味があるんだかないんだか全くわからない 写真集なのである。ホーマー・シンプソンなんて人もちゃんといる。

 と学会の発表者には、私や植木氏のような、特に専門というものもなくトンデモ系全般という発表者と、S井さんの“飲料”、植松さんの“NHK教育”など、このネタ一筋、というタイプの発表者とがいる。M越さんの学術系スケベネタなど毎回楽しみにしているし、この間私がスカウトした(個人宛に来たメールが面白かったので、と学会で発表しなさい、と推挙した)K口さんの地方市議会議事録ネタも爆笑モノである。もっとも、たまにはこういう人でもネタが切れることもあり、本郷ゆき緒さんのハーレクインやエルメスは今回は新ネタ無しだったが、発表に慣れているとやはり違う。ケーキ作り教本という、とてもトンデモとは思えない書籍から、見事にツッコ ミどころを抽出していた。

 サクサクと会は終わり、雨もあがった中、二次会(今回は移動は各自で)の会場へと。道々、皆神さんなどと会話。『トンデモ本の世界S』の『動ポモ』批評の件につき、“いくら内容の間違いを指摘しても、デリディアンからは「正しさなんてものに は何の意味もない」と言われそうだね”と私が言うと皆神さん、
「と学会は“正しければいい”なんてどの本に対しても言ってない。“間違ってちゃいかンだろ”と言っているんだけなンだけどネ」
 と。山本会長は例により大阪へと直帰。山手線に乗り込んだとたん、ホームの会員全員がイタリア・ファシスト党式の敬礼。今日の会の発表ネタで、オリバー・リードがリビアを侵略したイタリア軍のグランツィアーニ将軍を演じた映画『砂漠のライオン』のワンシーンがあった(イタリア軍の軍服考証の凝り方が、並なものではない映画なのだそうである)のを受けてだが、こういう悪ノリに会長、ややヘキエキ気味で あった。

 二時会場、田町の『大連』。われわれが到着した頃にはすでにほとんどの人数が着いて盛り上がっており、会場のカラオケ用モニターをパソコンにつないで美少女エロアニメを流している猛者がいた。ヤメテクレ、ここのお父さんはそういうシャレはわからないんだから、とS山さん、少し青くなっていた。これもと学会的悪ノリ。まあいい年した大人が三ヶ月にいっぺん、ハメを徹底して外す会ならでは、ではあるんだが。私が乾杯の音頭を取り、二次会開始。太田出版Hさんと同テーブルになったので雑談。懸案の『トンデモ洋書の世界』は大会が終わってから打ち合わせを、と話す。あと、『トンデモ本の世界S/T』は、いまだ初速衰えぬ売り上げだが、やはりここにきて『S』の売れ行きが『T』と差がついてきているとのこと。私としては、私の執筆分量の多い『S』の方が売れている、というのは有り難いことではある。考えるに、これはトンデモ本からと学会の方が学んだことかも知れないが、どんな本でも、フック(釣り)原稿は必要だということの表れか。

 パンフゲラの名前表記チェックなどし、東京大会のエクストラ発表の順番などを決定する。またIPPANさんと、来年の東京大会の会場オサエについて打ち合わせ。鬼が笑うどころでなく、来年の6月にある程度設備が整い交通の便がよく収容人数の多いところ、となると、そろそろ仮押さえしていないと危ないのである。中野ゼロな ど、もう全日満杯状態だとか。

 今日もきちんと来てくれた西原理恵子と高須院長に挨拶し、雑談。“最近顔の色ツヤがよくなってる”と西原に言われる。“もう46でオジサンもいいところだからねえ”と答えると、そこからオジサン談義。さすがオジサンに関しては一家言ある彼女で、含蓄ある体験談などがどんどん出てくる。雨で神経がかなり乱れ気味で、実は弱気になっていたのだが、力づけられる、励ましとも煽りとも癒しともつかない、いい言葉を貰った。リアル『ぼくんち』という感じか。西原ファンには申し訳ないが、これは業界にいるものの特権。高須ジュニアは今回から正会員としての参加。推薦人になったイットリウム氏をパパ高須の方に紹介。これでイットリウム氏は一生、整形手 術には不自由しないであろう(このあいだの『毒薬と老嬢』を思い出す)。

 料理は毎度のボリューム。フカヒレは出てくるわ、鯛の丸揚げは出てくるわ。どこか懐かしい味なのは、開田さなんはヘキエキしていたが、化学調味料がどっさり入った、“昔ながらの中華料理”の味だからだろう。前回は酒でかなり暴走した人が出ていたが、懲りたのか、今回は比較的おとなしめ。10時散会、山手線で新宿に行き、開田さん夫妻とタクシー相乗りして新中野まで。雨、またも繁し。これから、週末は 前週祭に東京大会と、濃い日々が続く。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa