22日
火曜日
古い映画を見ませんか・30「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」
『キング・コング』からフェイ・レイつながりで『肉の蝋人形』に行き、さらにマイケル・カーティスつながりで『カサブランカ』(1942)である。
『キング・コング』からはこの映画、音楽のマックス・スタイナーつながりでもあるが、大抵の人はこの映画の音楽と言えば『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』しか思い出さないからどうでもいい。
『アズ・タイム〜』はハーマン・ハプフェルド作詞・作曲。もちろんこの映画のための作曲ではない。ブロードウェイの舞台劇のための歌で、『カサブランカ』の中ではドーリー・ウィルソンが歌っていたが、この映画の公開年、全米ミュージシャン組合がストライキを行い、一切の新録を組合員に認めなかったため、レコード会社は
仕方なく昔出したルディー・ヴァリーの吹き込み版を再販したが、これが爆発的ヒットになった。ドーリー・ウィルソンはみすみすヒットのチャンスを逃したわけで、なんかアメリカ版『およげたいやきくん』みたいな話である(『およげ〜』は最初生田敬太郎が歌ったが、彼がフジテレビと契約していたキャニオンでなくテイチクの専属歌手になったので、急遽子門真人でレコーディングされた)。
この主題歌は日本では『時の過ぎゆくままに』と訳されることが多いがこれは誤訳で、
http://jazzlyrics.jimdo.com/jazz-lyrics-main/as-time-goes-by/
ここの歌詞を見てもわかる通り、正しくは『時が流れようとも(変わらない)』である。
まったく正反対の邦題をつけていることに怒っているサイトもあるようだが、私は『時が流れようとも』ではこの曲は日本ではなじまなかったのではないかと思う。
日本人の感性には、永遠性というのはあまり尊ばれない。時移り人変わり、記憶も次第に薄れ行き、往時茫々、昔を今になすよしもがな、という無常観が日本人の好みなのだ。テーマ曲が、日本を大きな需要市場にしている映画として『第三の男』とこの『カサブランカ』が有名だが、どちらも、“帰らない過去”がテーマである。あ、もうひとつ、これこそマックス・スタイナーの代表曲『風と共に去りぬ』も日本人が世界でいちばん好んでいる主題曲をもつ映画だが、あれもテーマは“風(戦争)と共に去った昔の幸せ”である。
『アズ・タイム〜』は歌詞こそ、
「男と女の愛はいつまでも変わらない」
と歌っているが、映画の中では、ボガートのリックとバーグマンのイルザは過去の愛を再び燃えさからせながら、その愛は成就せず、ボガートはバーグマンを今“現在”の恋人、レジスタンス運動の志士ラズロ(ポール・ヘンリード)に譲って去っていく(去っていくのはバーグマンだが)。
この映画は製作時バーグマンが最終的にボガートとポール・ヘンリードの二人の、どっちを選ぶか公開ギリギリまで決まらず、それぞれのヴァージョンを撮影し、結果的に彼女がボガートのもとを去るヴァージョンが採択されたそうだ。もしこれでハッピーエンド(ボガートにとっての)だったら、これほどポピュラーにはならなかったろう。少なくとも日本では。
歌詞の内容こそ『時が流れようとも』だが、映画の内容は『時の過ぎゆくままに』なのである。そこにこの映画のミソがある。この歌がこの映画に使われたことで日本人の感性に合ったのであるなら、その邦訳は『時の過ぎゆくままに』が正しいのではないか。
そう思う。