26日
土曜日
観劇日記・32『お先に幸せ』劇団ジャムジャムプレイヤーズ
『お先に幸せ』
劇団ジャムジャムプレイヤーズ第25回公演
作・演出/小竹達雄
出演/聖子 ベイサイド雄一 坂内麗子 里卓哉 小川あゆ
秋葉陽司 坂田宗二郎 鯨井智充 松山幸次
於/上野ストアハウス
2012年5月20日(千秋楽)観劇
このごろ観る芝居には、ノスタルジーをテーマにしたり、ベースに
したりしたものが多い。『スイートメモリーズ』も『夏への扉』も
そうだったし、清水ひとみ&省吾の『空に星があるように〜』も
ナツメロ昭和歌謡がテーマだった。先日観たばかりの『お預かり致し
ます』も、ナツメロがBGMに流れていたが、あれは時代がそのあたり
だという意味であったそうだ。残念、気がつかなかった、というか、
普通そこまでは気がつかない。
この『お先に幸せ』もやはり1980年代を舞台にしたストーリィで、
ノスタルジックな歌謡曲やキーワード(「コマネチ!」とか)が
出てくる。UFOマニアのおじさんが登場人物の一人なのは、
矢追純一のUFOスペシャルが一世を風靡していた時代、だからだろうか。
ノスタルジーテーマの芝居が多いのは、演劇というジャンルが、映画
や歌謡ライブなどに比べ、観客の年齢層が高いジャンルである、という
ことも関係しているのだろう。他のジャンルがどんどん若年層狙いに
移っていく中、小劇場が東京などで小さいがムーブメントになりつつ
あるのには、そんな理由があるのかもしれない。
ただ、懐古主義にひたって“昔はよかった”だけで終らせてしまっては、
いかにもそれは薄っぺらなものになってしまう。上記作品群もそこらを
どう描くが工夫していたが、この『お先に幸せ』は、今から30年前
という時代が、まだ都会と田舎、成功者と失敗者、幸せと不幸せの差が
歴然とあった時代だった、というところに焦点を合わせているところが
新しい。多摩丘陵地区がまだ開発される前、タヌキが姿を現していた頃に、
すぐに開発されます、という不動産屋の口車に乗って開店してしまった
スナックの、三人の女の幸せを描く物語。
せめて田舎暮しに順応しようとするかのん(小川あゆ)、沖縄出身
ということを隠して東京うまれを装っている桃子(坂内麗子)、
彼氏がアイドルで、いまイタリアに歌の勉強に行ってるというのが
自慢のまとい。店の常連客と言えば、宇宙人に愛犬をさらわれた、
と言い張るトンデモさんのコスモさんと、酒屋の店員のテングくらい。
ある日、このスナックに珍しく新顔の客が来る。どうも服装や会話
からして、かなりいい家の息子らしい。三人はそれぞれに、この客に
興味を示すが……というのが基本ストーリィ。
この金持ちのぼんぼんを演じる阪田宗二郎のキャラが凄くいい。
本当にこういう世間からちょっと(上の方に)ずれた息子、いるいる!
と思える顔としゃべり方だ。役作りだとしたらなかなかのものである。
それを“イヤな奴”という定番の表し方で描かない演出もいい。
話は彼とその友人(鯨井智充)をめぐるエピソード、桃子とその兄
(差と卓哉。バリバリのウチナンチュー)のエピソード、まといと
イタリアでピザを食べ過ぎて大デブになって帰ってきた恋人、良幸
(松山幸次。適役!)のエピソードがそれぞれ描かれ、そこに、
UFOビリーバーのコスモさん(秋葉陽司)と、密かにかのんに
惚れているテング(ベイサイド雄一)の話がからむ。
オチはある程度予想できたが、たぶんあの二人が……と思ったら
犬でオトしていた(公演終了後なのでネタバレさせてもらうと、
コスモさんの待ちに待っていた“もの”がやってきて、光に包まれ
て終る)。
全体的に、全てのエピソードが丸く収まるウェルメイド・プレイで、
テーマも悪くはなく、じゅうぶんに楽しめたが、行き違いからくる
ドタバタがちょっと小ぶりだったのが残念だった。恋人を隠そうと
あたふたするまといの行動など、もっとディフォルメしてもよかった
のではないかと思える。ラストでいきなり矢追純一ワールドに
入るので、それまでは押さえた演出で……という意図なのかも知れない
が、もう少し笑いに爆発性がないと、肝心のラストが唐突に思えて
しまう。芸達者たちをせっかく揃えているのだから、いくらでも笑いを
とらせることはできるだろう。こういう芝居の誇張は、少し馬鹿馬鹿しく
見えるくらいでちょうどいいのである。